マークとヴィオラの休日前夜2
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。ご主人様。」
私はいつものように頭を下げる。ご主人様は別にそこまで丁寧にしなくてもいいと言っていたが、グルンレイド出身のメイドとして、そのような手を抜いた真似はできない。
「ご飯になさいますか?お風呂になさいまいますか?」
「風呂だな。」
時刻は夜の七時を回っている。今日も訓練でご主人様はかなりボロボロだった。この剣の後はおそらくヴァイオレットさんだろう。
「回復聖法はどうしたんですか?」
「今日は回復を制限されてたんだよ……。」
げんなりした顔でそう答える。
「そうですか……今治します。ヒール」
これで傷口が塞がったので、お風呂に入っても染みることはないだろう。
「あ、それと明日俺休みになった。」
「随分と急ですね。」
「明日の訓練相手のスカーレットだが、ボス直々の命令で訓練できなくなったらしい。」
ということは明日はご主人様を起こさなくてもいいということだ。
「あ、だったらヴィオラさんも明日休めばいいじゃないですか?」
急に後ろからそのような声が聞こえる。
「コトアル、急にそんな……。」
私が急に休んでしまったら、訓練相手などに迷惑がかかってしまうだろう。
「でも、せっかくご主人様が休みだから、本当は休んで一緒に過ごしたいんでしょう?」
「べ、別に、そんな事ないけど。」
「そうだぞ。無理に俺に合わせる必要はない。」
コトアルはニヤリと不敵な笑みを浮かべると頭の中に声が響いた。
『ヴィオラ、明日休んでいいよ。』
これは……アシュリーさん!?
「で、ですが!」
『ま、たまにはデートでもしてきたら?』
「デっ、デ、デ……」
デートとはなんだ!私とご主人様は主従関係であって、決してそのような関係性では……。
「どうした、ヴィオラ?」
「さ、ご主人様、ヴィオラさんは私が何とかしておきますので、お風呂へどうぞー」
「お、おう。」
そうして明日の休みが決まった。
—
「でな、わしがそこで攻撃魔法を唱えたのじゃ!」
「それは私の補助があったからでしょ?」
「いや、あれはわしの力じゃ!」
今日も美味しいコトアルの夜ごはんを5人で食べている。
「こら、口に入れながら話さないでください。」
注意している姿をみているとコトアルは子供たちにとって、歳の離れた姉のような立場に見えてくる。とすると私とご主人様は……って、なにを考えているんだ!
「さ、お風呂に入りましょうね。」
ご飯を食べ終えた後、ミクトラは子供たち3人をお風呂に連れていく。グルンレイドの大浴場はとても良かったが、ここのお風呂はまた違った良さがある。安心できるというか、落ち着く感じだ。
「あ、そういえば、これつかうか?」
と言ってご主人様はとある袋を子供たちに渡す。
「なに?……アヒル?ぷにぷにしてる。」
ディアナが袋の中から黄色い何かを取り出してまじまじと見ている。
「風呂に入れるんだとよ。」
「お風呂に入れていいの!?よし行こう!」
キャーと三人でお風呂まで走って向かう。騒がしいけれど、それがまたいい。
「ご主人様、先ほどのあれは……。」
「あぁ、ヴァイオレットからもらった。子供たちにあげるってな。」
「やはりそうでしたか。」
ヴァイオレットさんは見た目は凛々しく硬派な印象なのだが、実は可愛いものがかなり好きなのである。おそらくあのアヒルも可愛いと思って購入し、つかう機会がないので私たちに譲ってくれたのだろう。
「ふぅ、一段落ですね。」
と言ってミクトラがこちらへ戻ってくる。無事に子供たちをお風呂まで誘導できたようだ。
「お疲れ。」
「お疲れ様。」
「これも私の仕事ですからね。任せてください!」
本当に素直でいい子である。肉体的には数百年以上も前から存在しているので年上なのだが、精神的には最近誕生したばかりなのでまだ年下とも言える。マーク様のメイドという視点から言えばどちらにしろ私の方が先輩なので、そこら辺はあまり気にしてはない。
「ところで。」
そう言ってニヤニヤした表情でこちらをみる。
「お二人は明日お休みですので、今日は夜遅くまで起きていられますよね。」
「まあ……そうだが。」
確かに次の日が休みという日は夜遅くまで起きている。
「そして子供たちは明日休みではない。……ということは二人きりで夜を過ごすことができるというわけです。」
そういうとチラッと私の方を見る。……なに。
「いや、子供たちが駄々をこねるだろ?俺たちだけずるいって。」
「そこは私が言い聞かせますから。子供たちのことは私に任せてゆっくりとしてください。」
「そうか……ありがとな。」
えっ……これ二人きりで夜を過ごすことになった?
「たまにはお酒とか、いいんじゃないですか?」
そう言ってどこからか取り出してきたワインをテーブルの上に置く。普段は誰もお酒を飲まないので酒類は家にないはずだが……。
「おつまみも何品か作りますね。」
と言ってキッチンへ向かう。
「別に無理に起きてる必要もないぞ。いやだったら先に寝ても……」
「嫌じゃありません!」
「そ、そうか……」
沈黙が流れる。普段ミクトラや子供たちがいれば問題なく会話ができるのだが、いざ二人きりで話すとなると妙に緊張する。
「ま、まあ、せっかくだし、これ飲んでみるか。」
「そ、そうですね。」
私はお酒をあまり飲まないのだが、別にそこまで嫌いというわけではない。ワインなどは好きな部類である。強いかと言われれば……そこまで強くはないだろう。




