マーク5
「来たか。」
そういって開いた扉のほうを見る。ふむ、勇者の称号を持っているというのはこいつか。
俺は初めて見た時もこいつが勇者の称号を持っているなんてことは全く分からなかったが、『ご主人様はすでに承知のことかと思われますが、あのものは勇者の称号を持っております。』とメイドたちが口をそろえて言うので、そういうことなのだろう。
現に私の所有するメイドにも勇者の称号を持っている者はいるので、その強さと価値はわかる。
「お待たせいたしました。」
ヴィオラが言う。
「いや、時間通りだ。」
手で離れろという合図をして、勇者の称号を持っている男のほうを見る
「お前がマークか。」
「ああ、そうだ。」
少し気分が悪そうだが、まあ、昨日まで死に目に会っていたのだ無理もない。
「ここで無断に侵入したようだな。」
自分の屋敷に侵入されただけで、死罪にするような頭のおかしい貴族どもがいるようだが、私はそんな馬鹿なことはしない。有能なものは取り入れてうまく使うに限る。
「あ、あぁ」
震えた声で答える。……やはりまだ具合が悪いのだろう。話が終わったら早急に休めるべきだな。
「まあ、それに関してはどうでもいい。」
……返事がない。ヴィオラに目配せをする。
「マーク様。大丈夫ですか?お気を確かに。」
声がかかると、はっと我に返ったようにこちらをみる。
「俺を、殺さないのか?」
「殺す?なぜだ。お前はここに侵入しただけだろう。金品も何も奪っていない、メイドだって殺していない。」
そこら辺の有象無象に殺されるほど私のメイドはやわではないが、もし万が一そのようなことがあれば、私は絶対に許しはしないがな。
「だが、ひとつ提案がある。」
そういってやつを見る。
「俺のもとで仕事をする気はないか?」
まあ急に言われてもそう簡単にうなずいてくれるはずはないよな。ではいくらほど金を出すべきだろうか……。
「……あぁ、わかった。」
そうだ聖金貨1枚……ん?わかったといったか?
「そうか、それはよかった。」
何とも心優しい男なのだ。ふつうは内容や報酬金のことを聞いてか決めるものだが、即答だ。気に入った。このようなすがすがしい奴は嫌いではない。いい人材を手に入れることができて笑みを抑えきれない。
「お前には、主に二つのことをやってもらう。ひとつは偵察だ。お前のその盗賊としての能力を生かして情報を集めてきてほしい。もう一つは今俺のもとにいる数人の勇者の称号を持っているものへの教育だ。」
勇者の称号は強い。しかし私はまだその能力について詳しくはない。基本的な聖法の扱い方はわかるが、魔法ほど私の専門分野ではない。
「偵察ならまだしも、誰かに何かを教えるなんてやったことがない!」
だから最初にやる内容を聞いておくべきだったのだ。今更言っても変える気はない。
「異論は認めんぞ?」
さて、そろそろ話しも終わりにするか。病み上がりでやつもつらそうにしている。最後にやつにかかっている呪いを解くために魔力密度を上げる。
「わ。わかった。できる限りやってみるぜ……。」
ふむ、物分かりもいいのか。ますます気に入ったぞ。
「詳しいことはそこにいるヴィオラに聞け。今日からお前の専属メイドとする。」
「かしこまりました。それではマーク様よろしくお願いいたします。」
ヴィオラが礼をする。グルンレイドのメイドとして一番力を入れているのはこの部分である。美しい礼をできないものはグルンレイドのメイドではない。
「では最後にお前の呪いを解くとするか。」
大規模な魔法陣を展開し、呪いの解析を始める。確かに複雑に封印がされているが、そんなものは私には関係ない。それを上回る魔力密度で押しつぶしてしまえばいいのだ。
「少し休むといい。」
そういって、魔力を解放させた。




