過去編:セレーナ4
「断ると言っているのだ。なぜならこやつはたった今“グルンレイドのメイド“になったからだ。」
「一体何を言って……。」
ステラは驚いた表情を見せ、そのようにつぶやいた。
「そんな急は話聞けるわけ……」
「だったら私は貴様をこの精霊に渡すだけだ。」
「別にそれでいい。その全ての精霊を払い退けて私は自由になるだけ。」
周囲の魔力密度が上昇し、戦闘体制にはいる。
「確かに貴様の実力からすれば多くの精霊を殺すことは可能だろう。しかし目の前にいるような上位精霊が数十人現れた場合はどうする。奇跡的にそれらの手から逃れたとしても、三大精霊が現れたらどうだ?おそらく貴様は三大精霊のたった一人にすらも勝つことはできないだろう。」
待っているのは確実な死……今のご主人様の言葉を聞いてステラも理解したことだろう。ここで精霊国側へ渡されるということは、この世から消えるということだ。しかしただ一つだけ生き残る方法がある。
「グルンレイドのメイドになれ。貴様のその力はグルンレイドの利益に繋がる。手を取るのであれば、大いに歓迎しよう。」
ステラは急速に思考を回転させているようだった。
「どちらにせよ、洗脳の解けた人間は始末せねばならないからな。」
キリルがステラに向かって何か魔法を唱え始める。そして……
「消えろ!」
攻撃魔法がステラの方へ向かって飛んでいく。
「わかっ……りました。私はグルンレイドの配下になる……なります。」
ステラはこぼれ落ちるように言葉を発した。今度は精霊ではなく人間の道具になり再び苦しいことが待っている、とでも思っているのだろうがそれは大きな勘違いだ。グルンレイドのメイドは確かに道具だと私は思っている。しかしそんな道具である私たちをご主人は、“人間よりも大切に“扱ってくれるのだ。だから私は人間になるか、グルンレイドのメイドになるかを選ベと言われれば迷わずにグルンレイドのメイドを選択する。
「イザベラ。」
「はい。」
その心の底に響くような声に私は返事をする。その瞬間私は地面の蹴り上げ、ステラと攻撃魔法の間に移動する。
「エアヴェール」
ドォン!という音とともに攻撃魔法が空中で爆散する。私はステラを守るよう立ち、キリルの方に視線を向ける。
「どういうつもりだ?」
「見てわかりませんか?私は私の同胞を守ったのです。」
「貴様らには利用価値があった。だから殺さないでやっただけだ。ただ邪魔をするのであれば……殺す。」
この魔力密度はさすが上位精霊と言ったところか……今まで出会ってきた精霊たちとは一線を画すようだ。
「……グルンレイドのメイドを攻撃するという意味はご存じですか?」
「話にならんな。」
グルンレイドのメイドに手を出すということは、ご主人様に喧嘩を売るということと同義だ。グルンレイドの全勢力を持ってその存在を排除するしかない。
「キリルとやら、貴様の判断はそれで決まりか?」
ご主人様が最終確認を取る。これで頭を地面につけ、許しを請うのであれば許そう。
「やはり人間は愚かな存在だ、な!」
しかしキリルは頭を下げるどころか、攻撃魔法をこちらへ飛ばしてきた。
「華流・剪定」
私はそれを拡散させ、ご主人様を守る。
「これで貴様の運命は決まった。イザベラ。」
「かしこまりました。」
私はご主人様に頭を下げ、キリルの方を向く。愚かな精霊……。グルンレイドへたてつく行為がどれほどの大罪か思い知らせる必要がある。
「ファイアーアロー」
「華流・剪定」
炎の槍を、私の剣で拡散させる。確かに強い、が所詮その程度。いつものグルンレイドの訓練で飛び交う魔法の強さと比べるとないようなものだ。
「アイスロッ……」
「華流・周断」
首が綺麗に切断された。人間よりも生命力があるので、首と体が離れた状態でもそう簡単に死ぬことはないだろう。なんならしばらくすれば再生するはずだ。なので私は回復魔法を唱えることなく、ご主人様の元へと歩いて戻る。
「……強い。」
ステラは私の方を見てそう呟く。別に私が強い訳ではなく、相手が弱かっただけのことだ。ご主人様ならこの程度、手を触れることなく消滅させることができるだろう。
「こ、これは……何事ですか!」
そんな声のした方を振り向くと、そこにはここまで案内してくれた精霊が立っていた。
「こやつが私のメイドを攻撃してきたから、大人しくさせたまでだ。」
「に、人間が精霊に手を出すなど……大罪です!」
「殺してはいない。」
「それでもです!あなたたちは、ここから生きて帰ることができないと思ってください!」
するとその精霊は空へと飛んでいった。きっとその他の上位精霊たちをよんでくることだろう。
「帰るぞ。」
そんなことはどうでもいいように、ご主人様はそういった。
「かしこまりました。」
私とメアリーは頭を下げる。
「ステラ。」
私はそう言葉を発すると、私たちに続いて頭を下げた。




