過去編:セレーナ2
精霊国近隣の森上空へと移動した。この森はグルンレイド領にある大森林よりも広大で、潜んでいる魔物も比較的強い。と言っても私たちグルンレイドのメイドにとっては何の脅威にもなり得ないが。
「あれが精霊国ですか……。」
かなり距離が離れているが、巨大な樹木が複雑に入り組んだ幻想的な風景が見えた。私たちは飛行魔法を唱えて空を飛んでいるが、ご主人様にはなるべく楽をしてほしいということで、ご主人様の分は私が唱えている。
そしてゆっくりと精霊国の入り口と思われる場所へと降り立った。
「私はジラルド・マークレイブ・フォン・グルンレイドだ。ダンジョンの通行許可をもらいにきた。」
みるところ門番などはいないようだが、私の観測魔法には幾らかがひっかかっていた。精霊は肉体を持たない種族だが、霊族ほど完全に存在しないというわけではない。剣を振ればダメージを与えられるし、魔法も普通に聞く。
「ご案内いたします。」
すると魔力の塊が徐々に集まっていき、人の形を模っていく。ちらっとステラの方を見た気がするが……気のせいだろう。
「こうも簡単に入国できるとは思ってなかったな。」
「そうですか?ここまで来られる人間が少ないだけで、そんなものですよ。」
ご主人様の問いにそのように答える。精霊国に言った人間の話などは聞いたことがなかったから、勝手に入国拒否されているものかと思っていたが、ただ単純にここまで辿り着ける人間が少なすぎるということだった。
「本日は精霊国地下のダンジョンを管理している上位精霊、キリル様と面会していただきます。」
その瞬間ステラの体が一瞬反応した。それもそのはず、このキリルという名前を私は数日前に聞いたばかりだ。
「ステラ、あなたをグルンレイド領へ送り込んだ張本人……ですね。」
「……。」
ステラは無言のまま、ただ真っ直ぐ前を向くだけだった。
「こちらへどうぞ。」
そういう案内人の背中を飛行しながらついていく。綺麗に連なった樹木、その先についている緑色の葉っぱ、木漏れ日……大自然の美しいところを凝縮したような空間だった。メアリーも物珍しそうに周囲を眺めている。
「三大精霊はいるのか。」
「……えぇ。現在はセレーナ様が滞在しております。」
「ふむ。」
三大精霊というのはこの世界に存在するすべての精霊のトップに君臨する存在であり、他の精霊の追従を許さない強大な力を持っていると言われている。文献によると三大精霊はペルシエ、ロズモンド、セレーナという名前らしい。それぞれ同格の地位にいるのでこの国の王は3人ということになる。外交をするとき大変だと思うが、そもそも精霊はあまり人間や多種族と関わることはないからそこまで問題でもないのだろう。
「どうしてそのようなことをお聞きになるのですか?」
「せっかくだ、一目見てみたいと思ってな。」
「……人間ごときが、大精霊様に会えるなんて思わないでください。あなたが想像するほど上位の存在なのです。」
私は思わず異空間から剣を取り出しそうになったが、ご主人様に手で制される。
「そうか、そういうことであれば仕方ないな。」
ご主人様は特にこれといった反論はせずにそう返事をする。この精霊、ご主人様に対してなんて無礼な言動を……メアリーも鋭くその精霊のことを睨んでいた。
ご主人様に限らず、基本的に精霊は人間をはるか下に見ている傾向がある。それもそうだ、魔族や獣人でさえ下に見ている聖俗が、魔族と比べて魔法も使えない、獣人と比べて力があるわけでもない、そんな“全ての種族の中で最も劣っている種族“という評価をしているのだ。




