過去編:カルメラ1
多くのものが焼け死んだ。昨日まで私が生きていたこの場所は全て灰と化した。戦争……13年という短い時間しか生きていない私でもそれは恐ろしいものだということがわかる。ただ、私がその当事者になるというのは夢にも思わなかった。
「お母さん?」
返事はない。それもそのはずだ、すでに火は消えているとはいえもう誰もいなくなってしまった村では返事を返すものなどいない。だが私はまだ生存者がいるのではないかという希望を持ちながら歩き続けている。
「……本当に、誰もいないの?」
私が死ななかったのは本当に奇跡としか言いようがない。爆風によって吹き飛ばされた先が井戸で、その中に飛び込んだのだ。焼死する可能性は下がるが、生き埋めになる可能性だってあった。これが冬だったらあまりの寒さに意識を保って要られなかっただろう。しかし、今は夏、そして井戸の上には何も飛んでくることはなかったからこうして生きていられたのだ。
「ここがシス村か。ひどい有様だ。」
そう考えていた時、足音と声が聞こえた。私はサッと瓦礫の裏に身を隠す。
「私への要請がもう少し早ければ、ここも蹂躙されることはなかっただろうに。」
息を潜めながらその声の主を見ると大柄な……貴族、だろうか。この廃れた地には似合わない美しい装飾が目に入った。
「早急にご主人様へ助力を要請しなかったという罪に対する罰です。」
その隣には……メイド?なぜこんな場所にメイドを同行させているのだ。普通や騎士や魔法士といった戦闘能力のある護衛を連れてくるものではないのか。
「そういうなイザベラよ。私に声をかけたということを称賛するべきだろう。」
「……そうですね。」
この会話から推測すると、この貴族はかなり軍事力をもっているようだ。
「ご主人様のおかげで戦争は終わりましたが、なぜこのような辺境の村に?」
「それは、このためだ。」
そういうとその貴族は村にある唯一の祭壇の前に歩いて行った。石でできているため燃えて朽ちることはなかったが、爆風や飛石などでところどころが崩れてしまっていた。ただ、原型は保っている。
「これは……祭壇でしょうか。どこにでもあるようなものだと思いますが……。」
「確かにこれはなんの変哲もない祭壇だ。」
祭壇はとりわけ珍しいものでもない。少し大きな村にもなると大体は置かれている。その主な役割としては魔力を保存しておくことだ。例えば大勢の村人が怪我をしたとき、村にいる治癒魔法士ではせいぜい10人の怪我を治すことで精一杯だ。しかし祭壇があればそこに蓄えてある分魔力を回復できるので、もう数十人を治癒することが可能となる。
「だが、この立地は特別だ。」
「立地……そういうことですか。」
私は特にこの村が特別な場所にあるという話は聞いたことはないのだが、あの貴族曰くここにある祭壇は普通の祭壇とは異なるものらしい。
「この中にある魔力はグルンレイドの利益となることだろう。」
「回収します。」
そういってメイドは祭壇に触れる。
「なんですかこの魔力は……。とりわけ魔力密度が高いというわけではありませんが、なんというか……毛色が違います。」
「調べがいがありそうだな。」
貴族はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。……その表情や雰囲気といいどう考えてもこの貴族は極悪人だろう。善人の顔をしていない。
「それでは帰宅します。」
「その前に、もう一つやり残したことがある。」
っ!貴族が私の方を向く。私はすぐに覗くのをやめ、隠れながら体を縮こませる。貴族とは恐ろしいものだということを聞いた。もしバレてしまったら殺されるかもしれない……。震える体を無理やり抑え込んで口を手で塞ぐ。
「隠れていないで出てこい。」
バレている!?一瞬ブラフかと考えたが、どちらにしろ貴族は確かめにこちらへ歩いてくる可能性の方が高い!私はすぐにこの場を駆け出す。
「まさかあれほどの攻撃を受けて生き残りがいるとは……子供、ですか。」
メイドの呟きを背に私は必死に遠くへ行こうとするが、
「止まれ」
この一言で全身が石になったかのように硬直してしまう。体が……動かない……。




