ロンド8
「はぁーっ!終わった!」
と腕を伸ばしているのは私が仕えている存在であるアシュリーだ。結局海賊を取りまとめていた黒幕は魔族だったということで、アシュリーがボコボコにしてグルンレイド辺境伯の屋敷へと運び込んだ。意識が戻ったらグルンレイド辺境伯との謁見があるだろう。死ぬことはないと思うが……一体どうなるのかは私もわからない。
「アシュリーさん!私の代わりに海賊退治ありがとうございます!」
「別にいいよ。フィオナこそ、大丈夫だった?」
「はい、問題ありませんでした。多少怪我をしてしまいましたが、一日寝たらすぐに治りました。」
「へー、フィオナが怪我をするなんてね。」
獣人メイドのフィオナが声をかけてきた。やや褐色がかった体に、癖っ毛の茶髪、そして犬の耳。引き締まった筋肉からちょっとやそっとじゃ倒れない力強さを感じる。
「今回の仕事は国家間の戦争の妨害でしたからね。」
国家間の戦争の妨害をたった一人でしておいて多少怪我をするだけで済むのはどう考えてもおかしいと思うのだが。
「まずは両国が交わる前に戦線に沿ってソウルヴェールを展開するんですよ。」
ソウルヴェールとは魔法障壁の一つだったはずだ。普通の魔法障壁と違いその障壁が受けたダメージは全て自分に降り注ぐものだ。その代わりに距離や厚さに関係なく強度が保たれる。
「その間に両国の主要戦力とトップを戦闘不能にさせるんです。これで一件落着です。」
「すごいね……多分フィオナにしかできないよ。それ。」
「そうでしょうか?」
2人の会話を聞き、私は苦笑いを浮かべるしかない。両国を分断するような魔法障壁には数千数万という攻撃が加えられるだろう。その全てを自身が受け止めているというのだ。
「あと、ロンドさんもありがとうございます。」
「あ、あぁ、気にするな。そんなに大変変じゃなかったからな。」
それではー!と行ってフィオナは走ってどこかへ行ってしまった。相変わらず元気すぎる……。昨日まで戦争をたった一人で止めていたやつとは思えないな。
ーー
「まさか休暇があるとは……」
私が一番驚いたのはこの部分だ。アシュリーもこのメイドという身だしなみから忘れがちが、身分的には奴隷なのだ。普通は休みなく働かせるものではないのか?まあこのグルンレイドに常識など通用しないということは知っているので納得はした。
「普通はないけど頼めばもらえるよ。」
いやそれもおかしいんだよな……。
「それはわかった……ではなぜ休みを取ったんだ?」
「別に。」
その理由は教えてくれなかった。
「せめてどこにいくのかくらい教えてくれよ。」
アシュリーの部屋でメイド服を脱いで私服に着替えているアシュリーに問いかける。
「カブの港。」
またか……だが今は仕事はないはずだ。単なる観光……なのか?観光に行くということならば、私も辺境伯との謁見にきていたフォーマルな服から、異世界の知識を取り入れた少しカジュアルな服へと着替える。
「飲み……」
「ん?何か言ったか?」
「飲みに行こう。」
真っ直ぐに私の目を見てそう言われた。そういえば魚を食べながら酒を飲みたいと言っていたな。
「あぁ、わかったよ。」
いつもは偽りか本心かわからないような言動だが、ごくたまに真剣な目つきになる時がある。いつもの目も好きだが、この目はもっと好きだ。
「それと。」
「なんだ?」
「あ……」
「あ?」
次の瞬間私の耳に伝わる振動がなくなる。音を遮断する魔法か……?私が驚いている表情をよそに、アシュリーは言葉を発する。
「 」
口だけが動く。しかし、アシュリーは一つ勘違いをしている。それは聖族は人間と違って、音を耳だけで聞いているわけではないということだ。翼や頭上の輪っかなどからの振動で、ある程度音が聞こえてしまうのだ。まあ、何が言いたいのかというと……。
「どういたしまして。」
「っ!」
顔を真っ赤にするアシュリーはとても新鮮だった。




