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極悪辺境伯の華麗なるメイドRe  作者: かしわしろ
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ロンド3

カブの港へ到着したわけだが、私が想像していたよりもにぎわっている港だった。おそらく王国周辺の港の中では最も栄えているのではないだろうか。


「これもグルンレイドのおかげなのか?」

「そうだね。魔物の被害もないし、盗賊や海賊も手を出してこないからね。」

「まあ、今回は海賊が手を出してきたけどな。」

「ほんとに。どれだけ愚かな行為かわかってるのかな。」

私としてはその恐ろしさは十二分に知っているのだが、噂しか耳にしないやつらは『所詮辺境伯だろ?』と判断してしまうのも分からなくはない。


「お待ちしておりました。」

大きな建物の前に立っていた時、アシュリーにそう声がかかった。ここもグルンレイド領の町と同じで隣に翼のある珍しい聖族が立っていようとも、メイドの方に声がかかる。面白いことに地位としては聖族よりメイドの方が高いらしい。


「外でのお話はなんです、こちらへどうぞ。」

ここは……冒険者ギルドのようだ。その受付嬢らしき人間の女が、大きな扉を開ける。私達がその建物に入ったその瞬間、先ほどまでがやがやしていたであろう空間に糸を張り詰めたような静寂が訪れた。


「お、おい……あれが噂の……」

「グルンレイドのメイドか……」

私たちに聞こえないようにしゃべっているつもりだろうが聖族である私は人間よりも数倍聴覚が優れている。もちろん観測魔法を常に発動しているアシュリーには丸聞こえだろう。


「絶世の美女と聞くが……」

「だな、実際に目にすると恐怖の方が勝つような……」

「見ろ、隣は聖族だ。初めて見た……」

「俺はそっちの方が好きだ。」

「確かに美人だ……」

私は男だ……って、うお!な、なんだ、アシュリーが私を殺す勢いでにらんでいる!?ま、まて私は何もしてないぞ!


「ロンド、顔を隠しなさい。それか自分で殴って顔の形を変えて。」

「理不尽だ……」

確かに人間よりも聖族の方が顔が整っているとはいえ、アシュリーだって整っているほうだ。しかしそのような評価になってしまうのはアシュリーから漏れ出る高密度の魔力のせいだろう。抑えているとはいえ、普通の人間にとっては十分すぎるほど濃い。


「この奥へどうぞ。」

受付嬢に案内されたのは多くの人間がいた広い部屋ではなく、その奥にある少し小さめ綺麗な部屋だった。


「グルンレイドのメイド様、ようこそお越しくださいました。」

そして奥から出てきたのはかなりしっかりとした装備に身を固めた男の人間だった。


「カブの港のギルドマスター、ラキウスと申します。」

強さで言えばランクA+くらいだろう。グルンレイドのメイドを日々見ている私からするととても弱いという評価だが、人間にしては強いのかもしれない。


「初めまして。グルンレイドのメイド、アシュリー・マリー・ローズと申します。この土地の担当のフィオナ・ローズの代わりこちらへ伺いました。」

本来であればフィオナがカブの港の管理を任されているようで、海賊の討伐もフィオナが行う予定だったのだと思う。だがフィオナは今別の任務が入っているということだったので、代わりに私たちが来たということだ。


「……。」

「どうされました。」

アシュリーが声をかけると、はっとした様子で再び話始める。初めてグルンレイドのメイドがするお辞儀を見た人は必ず見惚れる。何か私の知らない魔法でも使われているんじゃないか?と思うほどだ。


「そ、そちらの聖族様は……」

アシュリーに目線で合図される。自分で自己紹介を白ということだ。


「私の名はロンド。グルンレイドのメイド、アシュリー・マリー・ローズに仕えているものだ。」

メイドに仕えるってどういう概念なんだ……と思うが仕方ない。そもそもグルンレイドにおいてメイドという立場は領主の次に高い立場なのだ。メイドに仕える存在がいてもおかしくはない。……いや、おかしいな。


「よろしくお願いいたします。」

そういって私に深々と頭を下げる。


「海賊が出ると聞きましたが、具体的に教えて下さい。」

案内されたソファーに座り、私は目の前に出された紅茶と焼き菓子に目を向ける。グルンレイドの食事を知ってしまうと、他のところの食事があまりおいしく感じないんだよな……。


「ここ数日、夜になると港の漁船や市場が襲われるのです。」

「漁船が……?」

「はい、おそらく海賊の目的は新鮮な魚介類でしょう。」

「分かりましたが……魚のために漁船を襲うものでしょうか。」

アシュリーとギルドマスターの話を聞きながら私は焼き菓子を手に取る。少し温かい……焼きたてか。口に入れると思ったよりもおいしくて驚いてしまう。もしかしたらグルンレイドの料理の技術などもこちらへ伝わっているのかもしれない。


「そこなのですが、もう一つ理由があると考えました。それはとある貝の中にまれに入っている”宝石”です。それはとても価値の高いもので、一つで大金貨1枚(100万円程度)ほどになるといわれております。」

「宝石……それなら動機としては納得がいきますね。」

宝石は普通であれば山などでとれるイメージだが、海でとれるものは一体どのようなものなのだろう。ちょっと気になってきた。


「分かりました。調査してみます。」

「ありがとうございます。ここにいる冒険者の方々も海賊の討伐を行っているのですが、毎度返り討ちにあってしまうのです。お気をつけて。」

さっき見た冒険者はざっとランクB程度の実力だった。敵はそれ以上という可能性が高いということか。私は立ち上がり、この部屋を出ようとするが


「ここらへんで一番有名な宿を教えてください。」

アシュリーがそのようなことを聞く。


「マリネ亭が有名でしょう。」

「お、おい、宿泊する必要あるか?」

「イザベラ様は"明日の午後までに帰ってくれば問題ありません"といっていたから大丈夫。」

「そういう問題か……?」

まあ私がアシュリーに逆らえるはずもないし、別にここで宿泊することに反対のわけではない。むしろ人間界の宿泊施設を体験できるという点では私にとってもプラスになるのと思う。


「分かった、泊まる。」

「ん?あんたも来るの?」

「はぁ!?私は泊めないつもりだったのか!?」

アシュリーは私の問いには答えずに、鼻歌を歌いながらギルドを出ていった。

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