マーク1
俺の名前はマーク、こう見えても割と名の知れた盗賊だ。ここではその人物の強さや影響力を『危険度』というもので表される。盗賊だと盗んだ回数や金の量などが目安となるのだが……俺は危険度Aらしい。
もちろん冒険者ギルドと盗賊は全くの別物だ。俺らは人の金を盗んで生きていくのに対して、冒険者は人の手助けをして生きていく。
危険度は一般的にはCからAが付けられる。Aに近づくほど危険ということだ。だから俺もそれなりに強い……はず。
そんな俺に一つの依頼が届いた。
『華持ちの調査、報酬聖金貨一枚』(聖金貨1枚:1000万円)
……おい、聖金貨一枚だと?一生遊んで暮らせるじゃねぇか!しかし、華持ちというのは、あの有名なグルンレイド辺境伯のメイドだろ?強いと噂だが、所詮メイド。本当の戦闘の怖さを知らないやつらばかりだろう。さっそく情報を集めに酒場まで向かった。
「なあ、華持ちって知ってるか?」
そういってポケットから金貨一枚を取り出す。マスターはそれを受け取り、話し始める。
「グルンレイド辺境伯のメイドだろ?知っているさ。何でも強く、そして美しいという噂だ。そんなメイドを雇える奴らなんて、本当の大貴族様くらいしかいないだろうよ。」
「だいたいいくらなんだ?」
「噂だと、聖金貨百枚らしいぜ。ま、俺も信じちゃいないけどな。」
おいおい、それはいくらなんでも盛りすぎなんじゃないのか?聖金貨百枚なんて、村どころか小さな国すらも買えるぞ。
「……俺も信じねぇよ。」
「他には……そうだな、魔法だけじゃなく、剣も扱えるらしいな。」
「剣だと!魔法は多少使えるということは知っていたが、まさか剣を扱えるとは驚いた。」
メイドが剣……想像すればするほどシュールな光景が浮かび上がる。常に剣を腰につけているのだろうか?
「あと、ほとんどが奴隷だとも聞いた。」
「奴隷!」
「……お前さっきから驚きっぱなしだぞ。もう少し静かにしてくれ。」
「あぁ……悪い。」
しかし、奴隷というのは本当に驚いた。基本的に貴族のメイドというのは平民出身がほとんどだ。というかすべてだろう。奴隷をメイドにすると、『平民を雇う金もないのか』と笑いものにされると聞いた。そんなことを聞くと、貴族どもも生きにくい世の中なのかもしれんな。
「グルンレイド辺境伯は笑いものにされたりはしなかったのか?」
「どうだろうな。そんな噂は聞かんな。だが、ヤツを笑いものにするような貴族がいると思うか?」
「……だな、きっとそんな貴族がいたら今頃息をしてないだろ。」
辺境伯という身分は決して高いものではない、その上には侯爵や公爵などが存在する。なぜグルンレイドが辺境伯止まりなのかというと、ひとつはヤツ自身がそこまで爵位に興味がないということ、もう一つは『若すぎる』からである。まだ三十にもなっていないのに、辺境伯という地位にいることがすでに異常なのだ。
「何か辺境伯がらみで面白い噂とかはないのか。」
「それならいっぱいあるぜ?さっきみたいな『華持ちは聖金貨百枚』とかもその一つだ。」
華持ちに関してそんな突拍子もない噂をよく聞く。……本当だったりするのだろうか?いや、そんなはずはないな。
「あとはそうだな、華持ちのメイド一人ひとりが王宮騎士団の団長より剣の腕があり、王宮魔法士団の団長よりも魔法が使える。とかな。」
「はは、本当にそうだったら国を滅ぼせるな。」
「ちがいねぇ。」
その他にもいろいろな話を聞いて、酒場を出た。ほとんどがおとぎ話のような話だったが、いくつか有用な情報もあった。下準備をして、明日の夜グルンレイド領へと侵入しよう。




