過去編:ミクトラ1
「捕獲した霊族はどういたしますか?」
屋敷に戻ったときに私はご主人様にそう聞く。罪深きことにこの霊族はご主人様に向かって“信用できない“や“逃がさない“などという言葉を使用したのだ。あまり良い印象ではない。
「一度魔法を解くとするか。」
そういうとご主人様の唱えたアイスロックが解除され、徐々に氷が溶け始める。そして気を失った霊族が空中に浮遊し始めた。体型的にはまだ私たちよりも年下……15歳くらいのように見える。実際は私なんかよりも長い時を生きてきているのだろうけど。
「イザベラはどうすべきだと考える?」
「そうですね……ご主人様に叛逆した罪は許せませんが、その罪を償い従うというのであれば、私は許してもいいかと思います。」
「ふむ……」
ご主人様が思考を巡らせているときに、霊族が目を覚ました。
「こ、ここは……」
「グルンレイドの屋敷です。」
「人間!」
魔力密度を上昇させてこちらの方を向く。私はご主人様を庇うように前に出る。
「あなたのこの判断が、自身の今後の運命が決まると知りなさい。」
私は睨みながらそう応える。
「っ……!」
怯えた表情を見せて後退りをする。私の睨み、というよりは後ろにいるご主人様の圧に屈したのだろう。さすがである。
「私に、どうしてほしいのよ……」
「そうだな、我メイドとなるというのはどうだ?」
っ!なんと慈悲深いのだろうか……ご主人様に危害を加えてもなお、メイドとして働ける選択肢を与えるとは。
「そんな、メイドになるわけ……」
「ふむ、断る、ということか?」
ビクッとミクトラは体を震わせた。彼女もわかっているのだ。この言葉を聞き入れなければ身の安全は保証されないということが。実質選択肢など一つしかない。
「……はい、かしこまりました。ご主人様。」
そうしてミクトラは絶望した表情で頭を下げた。
「ふむ、それでいい。それでは引き続き、天界の門の守護をしろ。」
「……へ?」
「なんですかその間の抜けた返事は……。あなたもこの瞬間からグルンレイドの一員になったのです。しっかりとした返事をしてください。」
「は、はい!もっと残虐な実験をさせられるものと……」
「何か言いましたか?」
「い、いいえ!」
仕草や行動を見る限り、礼儀やマナーに完全に疎いというわけではないようだ。所々に美しい所作が垣間見える。スカーレットなどに指導して貰えば、どこに行っても恥ずかしくないグルンレイドのメイドとなることだろう。
「細かなことはイザベラに聞け。」
「かしこまりました。」
そういうとご主人様は時空間魔法を使用し、他のところへ行ってしまった。
「さあ、まずはこの屋敷のことから……」
「私はあんたにまで従うつもりはないから。」
私が説明しようとすると、ミクトラはこのようなことを言ってきた。
「グルンレイド……ご主人様にしか私は従わない。」
はぁ、よかった。ここで呼び捨てなどにしようものなら私はミクトラを叩き切っていたかもしれない。
「グルンレイドのメイドである以上私に従っていただきます。」
「だから嫌。」
「……強情ですね。であれば力づくで従わせるしかなくなるのですが……。」
「やれるものならね。」
さっきの怯え切った表情とは真逆の、とても舐めた態度を見せる。……生意気ね。
「わかりました。後悔だけはしないようにしてくださいね。」
「そっちこそ。」




