過去編:アシュリー3
「アシュリー、お前は観測魔法に長けているようだ。」
ご主人様からそう告げられた。確かに私は人と会う時はとりあえず観測魔法で相手の情報を抜き取るということをしながら生きてきたので、誰よりもその魔法を使用している自信はあった。
「そこで一つ頼みがある。」
「何なりとご命令ください。」
イザベラ様やスカーレット様ではなく私に直接のご命令は初めてだったので、緊張が駆け巡った。
「天界は知っているか。」
「はい。」
天界とは魔界と対をなす世界。トップには神が君臨し、聖族が住んでいる場所だ。私たち人間とは無縁の場所だと思うが……。
「そこに通じる門が人間界の上空にある。それを調査しろ。」
「申し訳ありませんが、この広い人間界の中から探すというのは……」
無理なことだった。今の私が全力で観測魔法を展開したとしても精々グルンレイド領全域くらいが限界だろう。全世界を観測だなんて夢のまた夢だ。
「ある程度の場所は絞れている。その範囲だけでよい。」
そして見つからなければ見つからないで良いのだ、と付け加えられた。まあそういうことならば一日では無理でも、数日かければ可能かもしれない。
「かしこまりました。」
私が調査するべき場所を伝えられる。それを聞き考えるに、私の能力では3日もあれば十分に調査可能な範囲だった。
「ヴァイオレット連れて行け。」
ご主人様の部屋を出ようとした瞬間、そのようなことを言われた。
「はい、ヴァイオレットにも伝えておきます。」
一体どのような理由でヴァイオレットを連れていくのかわからないが、私の安全度はかなり高まるので悪い話ではない。強敵が現れても、最悪ヴァイオレットを囮にすることができる。彼女はやわなことでは死にはし、私の心も痛まないからね。
—
「ということでついてきて?ヴァイオレット。」
「まず私のベッドでくつろぐのをやめろ。自分のがあるだろう。」
だって仕方ないじゃん。私のベッドで寝ながら異世界のお菓子、クッキーを食べると汚れるんだから。まあでもあまり怒らせるとついてこないかもしれないので私はベッドから降りる。
「天界の調査か。」
「いいや、天界の門の調査。」
「天界の門?」
ご主人様曰く人間界から天界に行く一番簡単な方法は天界の門を通ることらしい。しかしその場所が知られていないから調べてきてほしい、というようなことをヴァイオレットに説明する。
「門か……確かに天界そのものの調査ともなると私たちだけに指示をするはずがない。」
確かにイザベラ様やスカーレット様が必ずついてくるだろう。
「ついていくのはいいが、私は何をすればいいんだ?」
「んー、それは聞いてないね。あ、私を守るという役目とかいいんじゃない?」
「断る。」
即答……ヴァイオレットに守られるほど私も弱くはないけど、それでもヴァイオレットの純粋な強さと比較すれば私は確実に劣っている。だから正直戦闘面は任せたいと思っていた。
「ま、まあ、私もぼーっとつったているわけにもいかないしな。だ、だからそんな顔で見るな!」
私は今にも泣きそうな表情を作り、ヴァイオレットを見つめる。私は貴族たちから買われやすくするためにか弱い表情を作る練習をしていたのだ。ヴァイオレットを騙すくらい容易い。
「わ、わかった。戦闘は私がやるから……」
「本当に!ありがと!じゃあよろしく!」
言質も取ったことだしこれで安全に調査をすることができる。まあ、そもそも私たちの命を脅かすような存在が現れるとは思えないけど。
「お前ってやつは……」
ヴァイオレットはなんか頭を押さえていたが、私は気にすることなクッキーを口に放り込んだ。




