過去編:ヴァイオレット12
「スカーレット、今日からヴァイオレットとの二人部屋となります。いいですね?」
「はい。わかりました。」
そのような会話を聞きながら私はグルンレイドの屋敷を歩いている。その外見と内装は辺境伯という地位にいるとは思えないほどの、立派なものだった。しかし使用人の姿は一切見当たらない。
「ヴァイオレットもいいですね?」
「はい。」
イザベラ様からの指示に私は返事をする。スカーレット様と一緒の部屋だとは思わなかったので、少し驚く。
「当分はあなたがヴァイオレットの面倒を見てください。わからないことがあったら私に。」
そう言ってイザベラ様はどこかへ行ってしまう。スカーレット様の方を見ると、少し不安げな表情をしていた。
「私、イザベラさんのようにうまく教えられないかもしれないけど。許して欲しいわ。」
「そんな、私は全然!」
本当にそんなことはないと思う。確かにスカーレットさんは口数が少ない方かもしれないが、しっかりと行動で示してくれる人である。
「私たちの新しい部屋はこっちらしいから、ついてきて。」
「はい!」
廊下を歩きながら周囲を見渡す。美しい絵画がいくつも飾られてあり、それ一つだけで家が立ちそうである。そして不思議なことに掃除が行き届いているようだった。
「使用人は、どちらに?」
「いないわ。」
「では食事や掃除はどのように……」
「全てイザベラさんと私でやっているわ。あなたも手伝うことになるわね。」
この広い屋敷の全てをたったの二人だけで管理しているというのは考えられない話だった。しかし本当のことなのだろう。
「ここね。」
スカーレットさんがそういうと、扉の前で立ち止まった。どう見ても使用人が寝泊まりするような部屋ではないほど立派だ。
「本当にここなのでしょうか?」
「そうね。イザベラさんの部屋よりも劣っているから、私にはちょうどいいわ。」
ということはイザベラさまの部屋はこれよりもすごいところなのか……。私はとんでもないところに来てしまったのかもしれない。
中に入ってみるとやはり想像通りにとても綺麗な部屋が広がっていた。
「す、すごい……」
「そう?……そうね。私の方が感覚が麻痺していたわ。」
龍族は基本的に芸術に興味がない。このような立派なベッドもなければ、椅子もない。あるとしたら姫さまの部屋くらいだろうか。
「まずはメイド服に着替えなさい。」
そう言ってスカーレットさんはメイド服を私に渡してきた。が、わたしはメイド服を着たことがないのでどのように着ればいいのかよくわからない。
「着せてあげるわ。」
「あ、ありがとうございます。」
それを見かねがスカーレットさんが着るのを手伝ってくれる。……なんか恥ずかしい。
「尻尾をしまってくれるかしら?」
龍族は人型の時も基本的に尻尾を出して生活するのだが、メイド服を着る以上尻尾は邪魔になってしまようだ。私は尻尾をしまう。
「似合っているわ。」
着替え終わり、私が鏡の前に立つとスカーレットさんはそのようなことを言う。生まれた時から兵士が着るような服しか着せてもらえなかった私にとって、このような可愛らしい服を着るのはとてもむず痒い。
「そう、でしょうか。」
今まで言われた、似合っていると言う言葉は戦士姿が様になっているとかそういうものだった。可愛らしいという意味で言われたことがなかったのでとても嬉しい。
「まずは、この屋敷を案内するわ。」
ということでスカーレットさんについて行きこの屋敷を見てまわる。何度見てもご主人様とメイド三人が暮らすところにしては、広すぎると感じた。




