過去編:ヴァイオレット6
やはり人間は敵だ。人間界に友好関係を結びに行った同胞がことごとく殺されている。こいつらのように龍の里まで乗り込んでくるものまでいるとは思わなかった。やはり龍の里は私が守らなくては。
「もうあきらめろ。そして龍の里へ来たことを後悔するがいい。」
地面に倒れている白髪の少女に声をかける。見た目は私と同じくらいだが、魔法の力はかなり強い。この聖剣がなかったら私も勝つことは難しかっただろう。その後は後ろに控えている二人だ。
「イザベラさん……私の剣を、出してくれますか?」
「なっ!」
少女は立ち上がっていた。わき腹からは大量の血が出ている。もはや立てるような体ではないだろう。
「わかりました。」
そういうと後ろのメイドが、どこから持ってきたのかわからないが剣を取り出していた。そしてそれを白髪のメイドに渡す。
「なぜそこまで……。」
「私が、グルンレイドのメイドだからよ。」
グルンレイドとは何なのだ。私は聞いたことがない。しかし、彼女の目からは死なないという強い意志が感じられた。
「だが、血を流し続けている。もうじきたってもいられなくなるだろう。」
「気にしないで、ちゃんと戻してるから。」
どういうこと……っ!流れ落ちている血が、地面に落ちずに空中で切り返し再び自身の体へと戻っている。おそらく雑菌や余計な空気などを含めずにその精密な動作を行っているのだろう。やはりこの少女が一番の危険分子だ。
「本当に人間か?」
「よく言われるわ。」
足に力を入れ、切りかかるが剣で受け止められる。さっきの短剣に比べてかなり大きい。私の聖剣くらいの長さはある。しかし私がやることは変わらない。剣技で相手を倒す。
「シド流・宵凪!」
が、その少女は剣で守ることもしなかった。そのまま数メートル吹き飛ばす。
「あきらめたの……か?」
しかし砂埃の中から、再び少女が立ち上がる。私の切った部分だけ魔法障壁を分厚くしていたようだ。血は流れているものの、わき腹ほど深くはない。
「足運びはこうね。」
「……何か言ったか?」
少女は何かをつぶやいていた。しかしあまりの声の小ささに聞き取ることはできない。
「シド流・嵐」
まただ。よけずに少女は吹き飛ばされ、立ち上がる。これではダメージを追う一方ではないか、何がしたいのだ。
「剣の軌道はこう。」
「だから、何がしたいのだ!シド流・鉄火!」
次で終わりだ。徐々にダメージは蓄積している。これを食らって立ち上がれることなど……。
「シド流・宵凪」
そんな声が聞こえた。私の剣がはじかれ、体制が崩れる。……何が起こった!?
「こんな感じね。覚えたわ。」
こちらを見る少女の目が、さっきまでとは雰囲気がまるで違う。圧倒的な集中。どんな強大な魔力でもない、ただその集中力が私は怖かった。
「シド流・月下!」
「シド流・月下」
受け止められる。私と同じ技、そして同じ動きで。
「な、なにが!」
ありえない。私は数年間修業をしてやっとこの剣技を手に入れたのだ。実はこの少女は昔から剣を握っていた?昔からシド流を習っていたというのならば納得がいくが……。
「なにもしてないわ。ただあなたの剣技を見て、覚えただけ。」
嘘はついていないようだった。この数撃で、私の技術を吸収している。そんなことは不可能だった。剣というものは長年の修業があってこそ、技術が身につくのだ。こんな数分で身に着けるなど……
「あ、ありえない!シド流……」
「シド流・嵐」
「があっ!」
剣がはじかれ、今度は私のわき腹が切られる。……少女と同じ場所だった。体中から血が流れていくのを感じる。止血しなくては……。
「これでおしまいね。シド流・」
まずい、この状態は。私の、本能が……。
私は止血を後回しに、握っている剣に力を込めた。
「シド流奥義」
「回復をしなくていいのかし……」
「三千世界」
メイドは地面に倒れ、私の剣からは血が滴り落ちていた。
そして、香り立つ血の匂いを前に、私は笑っていた。




