過去編:ヴァイオレット3
しばらく飛んでいると、巨大な建造物が見えて来た。その周りには小さな家?のようなものがいくつかある。
「こちらが姫がいる場所です。どうか命をお助けください。」
巨大な建造物の前で止まる。そういえば龍族の姫の命を助けるためにここに来たんだった。しかし本当にご主人様はエリクサーというものを持っているのだろうか。
「止まれ、ナビル。此奴らは何者だ!」
「はい。この方は……えっと、あれ?」
「精神支配か!何者だ貴様ら!」
同じく龍族であろう人が、こちらに向かって叫んでいる。
「私の名はジラルド・マークレイブ・フォン・グルンレイドだ。」
「に、人間か!」
驚いた表情を見せ武器を構える。私もすぐに攻撃ができるように準備をする。
「侵入者だ捕らえろ!」
「いいのか?お前たちの姫が死ぬぞ?」
「なぜそれを……ナビルか……」
徐々に私たちのことが知れ渡ったのか、龍族が集まってくる。
「これはなんの騒ぎだ。」
する遠くから魔力密度の高い龍族が現れてそういう。
「ザン様、人間が現れました。」
「人間……」
そう言いながらこちらを睨む。
「何用だ。」
「姫がどんなものか見に来たのだ。」
……なぜご主人様は龍族の姫のことに意識を向けるのだろうか。極論別に無視してしまっても良かったのではないか?だが、おそらくこれも崇高な考えがあってのことだろう。
「見ず知らずの人間を姫さまに合わせるわけにはいかない。」
「そうか、ならば私は帰ってもいいのだぞ?」
「くっ……本当に治せるのか?」
「それはわからんがな。」
人間の病気ならまだしも、龍族の病気はあまり想像がつかない。同じようなものだったら簡単に治せそうだが,おそらくそんなものではないだろう。
「……こっちだ。」
「ザン様!」
「狼狽えるな。この人間が何かしようものなら,私が始末する。」
周囲の龍族が驚く中,ザンという人はそんなことをいう。
「失礼な……」
私は少し魔力密度を上昇させる。
「落ち着いてください。」
「……そうですね。」
イザベラさんに声をかけられ魔力を元に戻す。
「ザン。これは一体どういうことだ。」
巨大な建物内にある部屋の一つに入ると、数人の龍族が椅子に座っていた。来ている服から想定するに、かなり位の高い龍族なのだろう。
「姫様を治せるという人間を連れてまいりました。」
「人間なんぞに頼るか!」
一人の龍族が叫ぶ。
「この際なりふり構っていられませんぞ。」
「いや、やはり人間は駄目だ。」
「だが……」
そのような会話が繰り広げられる。
「ザン、といったか。ここが龍の里の中枢だな。」
「そうだ。」
ご主人様がそう聞いていた。すると魔力を解放させる。……っ、私も常時張っている魔法障壁では耐えられないくらいの密度なので、新たに魔法障壁を展開する。
「姫とやらを見せろ。」
「……なっ、」
その魔力密度に驚いてこちらを見る。しかしそれができたのはザンという龍族一人だけだった。ほかのものは床に倒れてしまう。
「何をした!」
「おっとこれは申し訳ない。魔力密度を上げすぎたようだ。」
「ただの魔力の開放……だと……。」
やはりこの龍族はかなりの力を持っている感じがした。しかしまだ私たちの敵ではない。
「お前たちは私を信じるか、信じないかを判断しかねているようだが、それを決めるのは私だ。」
そう言い放つ。お願いではなく、命令。その鋭い目は、今にも龍族を滅ぼさんばかりの圧があった。
「や、やはり貴様は危険だ!姫のもとには近づけさせん!」
腰に下げている剣を取り出す。そしてこちらへと飛んでくる。人間では出すことのできないような速さだった。
「スカーレット。」
「かしこまりました。」
私はご主人様に名前を呼ばれた瞬間、龍族に切りかかる。
「華流・剪定」
短剣に触れた瞬間に、相手のエネルギーがすべて消失する。華流はイザベラさんとの訓練で教えてもらった。魔法と剣技を融合させるというとても面白いもので、私はすぐに身に着けた。
「なっ!」
「驚いている暇はないわ。」
そういってわき腹めがけて短剣をふるう。しかし切れることはなかった。魔法障壁に加え、頑丈なうろこが短剣を止めていた。もう少し短剣の魔力密度を上げる必要がある。
「ファイアーナックル!」
炎をまとったこぶしが飛んでくる。……これは防がなければダメージを追ってしまうだろう。
「エアヴェール」
空気の層を展開して止める。ファイアーナックルという技は、華流に似ている。華流は剣に魔力を流し込むのだが、あれはこぶしに魔力を流し込んでいた。確か魔力の流れはこんな感じだったはず。
「ファイアーナックル」
龍族の顔をめがけてこぶしをつきだす。
「がぁぁっ!」
顔にもろにくらって後ろに飛んでいく。
「はぁっ、はっ、なぜ人間がその技を使える!」
驚いた。血を流しているものの、致命傷には至っていないようだ。
「あなたが教えてくれたのでしょう?」
私に技を見せるということは、教えてくれるということ同意義なのだ。一度見れば、だいたいのことは分かる。それを私がくらったとなればなおさら情報を与えてくれるようなものだ。
「ば、馬鹿な。」
「今すぐ、ご主人様に従い姫とやらのところに案内するのであれば、この短剣はしまうわ。」
魔力を込めた短剣を向けながら私はそういう。
「な、何事ですか!」
その瞬間にこの部屋の扉が勢いよく開かれる。何人かの若い龍族が見えた。
「に、人間!ザン様から離れろ!」
そういって若い龍族の一人が切りかかってくる。
「華流・一線」
「ぐあっ!」
少し吹き飛ばすつもりが、持っていた剣ごと体を切り裂いてしまった。……まだ調整に慣れていないようだ。難しい。
「ヒールルーム」
イザベラさんが治癒空間を展開してくれる。
「スカーレット、そういう時は相手に魔法障壁や強化魔法をかけるといいですよ。」
そしてアドバイスもくれた。確かに相手が弱ければ、相手を強化すればいいのか。
「確かにそうですね。」
さすがイザベラさんである。
「お前たち、手を出すな!」
「ですがギン様……。」
残りの若い龍族たちにギンという人はそう叫ぶ。
「案内する。だからあやつらには手を出さないでくれ。」
そう頭を下げる。
「……それをご主人様に伝えなさい。」
私に言われても答えることはできない。それを決めるのがご主人様だからだ。
「スカーレット下がれ。」
「かしこまりました。」
ご主人様は手を出さないということに決めたようだ。私程度の実力にこのざまでは、この二人の前では立っていることすら難しいのではないだろうか。
「ふむ、いいことを思いついた。」
ご主人様は唐突にそのようなことを言う。
「貴様らも自分たちより弱いはずの人間ごときに姫の命を任せたくはないだろう?この里で最も強いものをよべ。」
ご主人様の後ろの空間が異常な魔力密度によって歪む。
「い、いや、そんなことは……。」
「従えないのか?」
「くっ……。」
もはや選択肢は一つしかないだろう。
「分かった。呼ぶ。だが、姫を先に見てはくれないだろうか。一刻を争うのだ!」
「ふむ、よかろう。」
そういってまずは姫のところは向かうようだ。
「ヴァイオレットをよべ。」
ギンが若い龍族たちにそういう。
「はい、直ちに!」
若い龍族たちはすぐにこの部屋を出ていき、ヴァイオレットというものを呼びに行ったようだ。




