柏城・春3
「貴様が柏城・春。異世界人だな。」
「は、はい!」
帰りたい……。その圧倒的な圧の前で私は立っていることすらも苦しくなっていた。グルンレイド領はかわいいメイドさんたちばかりで楽園のような場所かと思っていたが、そりゃ領なんだから領主もいるよね。にしても圧が強すぎませんか。
「私はジラルド・マーグレイブ・フォン・グルンレイドだ。この領を治めている。」
存じ上げております。といいたいところだが、言葉を発する際に使用する酸素で酸欠になってしまいそうだったので、言葉は出てこなかった。私達異世界人は魔力酔いが起こることはない。体に魔力を蓄える機能や場所が存在しないからだ。魔法はすべてスキルによって制御されている。ちなみに瘴気は別で、長く浴びすぎると普通にダメージをおう。
「身の安全は私が保証する。協力してくれ。」
「は、はい!」
私は深々と頭を下げる。おそらく周囲は高密度の魔力で満ちているこので、普通ならば倒れていることだろう。しかしなぜ私のような魔力酔いを起こさない人間がこのようにうまく呼吸ができていないのかというと、領主様の単純な圧力である。……怖い!
「詳しいことはイザベラに聞け。」
そういうと領主様はどこかへ行ってしまった。
「は、はぁ……。」
「どうされました?」
そばにいたリアちゃんが声をかけてくれる。
「リアちゃんは大丈夫なの?」
「何がですか?」
けろっとした表情でそういっていた。領主様の隣にいたメイド長さんも特につらそうな様子もなくそこに立っていた。彼女たちはこれが日常のようだ。
「いや……何でもない。」
グルンレイド領に泊めてもらえるのはとてもありがたいのだが、できればもう顔を合わせたくはないなと思った。
「リアから聞いていると思いますが、ハル様は寝ていただくだけでかまいません。」
メイド長さんが説明を始める。
「私たちの仮設では、おそらく魂がこの世界とあちらの世界を行き来しているという結論になりました。それを観測させてください。」
確かに、こちらでおった傷があっちの世界では無かったりしていたので、肉体は移動していないと思う。
「ということはリアちゃんの部屋に、観測する方たちがきて私をずっと見てるってことですか?」
私も寝つきがいいほうではないので、緊張しすぎて寝られないかもしれない。
「いいえ、別室で観測させていただきます。」
ということは監視カメラが置かれるみたいなものか、確かにそれだったらあまり気にせずに寝ることができるかもしれない。でも寝顔を見られるのは恥ずかしいな……。
「質問はありますか?」
「特にありません。」
私もどのようにして私の魂が世界を移動しているのか気になる。この場所ならきっとこの謎を解き明かしてくれる、そんな気がした。
「それでは、食事にしましょうか。」
「ほんとですか!やった!」
グルンレイド領の食事は最高。この世界の常識です。
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食事は部屋で食べてもよかったのだが、食堂のようなところもあるらしく、一度見てみたいといったらそっちで食べることになった。
「メイド長はまだお仕事があるので、私とメルテちゃんで行きましょう。」
そういうと三人で食堂へと向かっていた。
「基本的にここで働いているものが食事をする場所です。」
「え、本当に私がいっていいの?」
「かまいませんよ。」
食堂へ行くと数人のメイドさんが食事をしていた。メニューはどれも同じなんだね。
「量は変更できますが、メニューは変更できませんのでご了承ください。」
「すごくおいしそう。」
「栄養バランスなどを考えられて作られておりますので、体にもいいそうですよ。」
この調理もグルンレイドのメイドさんが行っているようだった。ちらっと厨房の中を見ると、ウェーブがかった金髪のお姉さんが魔法を使って調理していた。鍋やフライパンを空中に浮かべて、空中に火をつけて料理を行っている。
「エミリアさん、三人分お願いします。」
「はーい。ライスかパンどっち?」
「私はライスで。」
「パンで。」
「ライスでお願いします。」
ここは勿論ライスでしょう。もちろん今日寝ればあっちの世界で私の妹の美味しい朝ごはんを食べることができるのだが、こちらの世界でのライスはかなりレアだ。以前ユウトさんがもらっていたお米は、私たちに分けるといってくれたのだが、ユウトさんは元の世界に戻れないことを考えるともらうのは気が引けたので食べていない。
「はいどーぞー。」
ざっと3分くらいで完了した。は、早い!厨房には1人しかいないはずなのに、メインディッシュにスープ、サラダ、そしてデザートまで揃えられたものが三人分置かれていた。
「ありがとうございます。」
三人でお礼を言って、近くのテーブルに座る。この食堂には4人ほどするわれる大きさのテーブルが6席ほどあった。
「いただきます。」
そういってエミリアさんが作ってくれた料理をいただく。見た目はフレンチという感じだ。味は……
「お、おいしい!」
「それは良かったです。」
冒険していく中でも宿の料理を食べる機会はたくさんあったのだが、あまりおいしいと言えるものではなかった。しかしここは、あっちの世界の本物のフレンチに匹敵するような美味しさだった。
「私、ここに、住みたい。」
「なぜカタコトなんですか!」
あまりの感動にうまく言葉がでてこない。




