アナスタシア・ローズ14
「……わかりましたわ。」
納得してもらえたようだが、このぶんだと私の方が有利な条件になってしまいそうである。その理由としてはもうすでに私の一撃でオーロラさんの騎士が重傷を負っているからだ。
「ヒール」
私は騎士であるリアムさんを回復させる。
「何をして……」
「これで対等な交換条件ですわね。」
オーロラさんもリアムさんも驚いているようだったが、私としてはこの方が引け目なく戦えるのでこの行動は私のためと言える。
「お礼は言いませんわよ。」
「ええ、かまいませんわ。」
ちょうどソフィアさんが剣を持ってやってきた。私の扱う剣は気軽に持ち運びできるような大きさではないので、寮の部屋に置いているのだ。
そして私は剣を構える。
「あなた、魔法士ではありませんの?」
「魔法学校に入学しておいてなんですけれど、剣士でもありますわ。」
驚くのも無理はない。普通魔法を使えるものは剣士にはならないからだ。
「どこまでもおかしなことを言うのね。」
「おかしなことなどありませんわ。」
オーロラさんが私を睨むと騎士に命令を出した。その瞬間騎士がこちらへ走り出すのが見える。……きっと陽動だろう。私が騎士を攻撃しているうちにオーロラさんが魔法を叩き込むという作戦のはず。
「ハァァっ、バルザ流・断頭!」
……遅い。鎧を纏っているから仕方ないのだが、そのスピードだと纏っていなくても私は遅いという判断をすると思う。周囲は「速い……」などと呟いていたが私の聞き間違いだろう。
「華流・剪定」
私はその攻撃を剣で受け止める。驚いたような表情をしていたので、エネルギーを拡散される感覚を味わうのは初めてなのだろう。
「はあっ!」
私は身体強化魔法を少し強め、そのまま騎士を吹き飛ばす。
「リアム!くっ、ファイアーアロー!」
「華流・」
私は地面を蹴り上げ、距離をつめる。
「剪定」
先ほどと同じ剣技でファイアーアローの魔力を拡散させる。そのまま音速に迫るスピードでオーロラさんの懐に潜り込み、喉元に剣先を置く。
「ぇ……」
しんと静まり返った空間の中でオーロラさんの吐息だけが聞こえた。何が起こったが理解できていない様子だが、自分が負けたということはわかっているだろう。実際に斬っても良かったが、さっきみたいにいちゃもんをつけられたら面倒なので寸止めにしておいた。
「これで文句はありませんわよね。」
「は……はい……。」
ペタリとオーロラさんの膝が折れ、地面に座り込んでしまう。三大貴族至上主義もこれでおさまってくれるといいのだが、それは今後に期待ということでいいだろう。
「それではみなさん、貴族院へ戻りましょう。」
驚きの表情を見せている生徒が大半だったが、それとはまた違った雰囲気でわたしを見つめている存在を観測した。が、今はそれを気にする必要はないと判断し、わたしは貴族院の建物へと歩いていった。
「ソフィアさん、リアムさんの様子を見ていただけます?」
「かしこまりました。」
と言ってソフィアさんは地面に転がって体を起こそうとしてる騎士の元へと駆け寄る。体を動かせている時点で重傷というわけではないだろうが、どんな傷でも適切な回復を行うことは悪いことではない。
「アナスタシアさん……あなた、一体……」
オーロラさんのそばを通った時、彼女がそのように呟く。わたしは座り込んでいるオーロラさんに手を差し伸べ、引き上げる。
「私は普通の海外の貴族、ですわ。」
「でもどう考えても普通では……」
「普通、ですわ。」
私はオーロラさんの瞳を覗き込むようにそう答える。
「は、はい。」
ビクッと体を震わせ、すぐに目を逸らされる。……そんなに怖がる要素があっただろうかと考えながら掴んでいた手を離す。
これだけやってもまだ私に突っかかってくるのであれば私は相手をするのだが、正直めんどくさいのでやめてほしい。
「それでは、ごきげんよう。」
「ご、ごきげんよう。」
私は今後声をかけられないようにと願いながらその場を離れた。




