アナスタシア・ローズ10
次は対人テストである。
「さ、さっきのはたまたまですわ!」
エリザベスさんがそういいながら近づいてくる。
「私と勝負しなさい!」
そういうと綺麗なドレスをはためかせる。確かにあれくらいの魔法では、マーティン家は驚きもしないということか。
「分かりましたわ。」
「このクラスでどちらが上かはっきりさせませんと。」
魔力密度でいえば私とソフィアさん以外ではこの方が最も濃かった。別に驚くほどのものではないが、きっと実力を隠していることだろう。
先生の合図で試合が始まる。
「けがをしても恨まないでくださいまし!ライトニング!」
これほど弱い魔法はきっと牽制に違いない。『避けなくてもいいものは避けるな』ヴァイオレットさんに教わったことだ。私はその場を動かずに次にエリザベスさんがどう動くかを観察する。
「アナスタシア様!」
アナさんが叫ぶ。その瞬間にライトニングが直撃する。
「反応できていませんわね!やはり私の方が上……」
……何もしてこない?ではさっきのライトニングは何のために放ったのだ。
「な、なぜ倒れませんの!」
あの程度で倒れるほうがおかしい。しかしいまだに相手の考えていることが分からない。こういう状況では自分の最も得意とする戦闘スタイルで臨むことなのだが、これは魔法の試験だ、剣と闘気で戦ってはいけない。
「様子見ですわね。」
そうつぶやくと、自身の周りにもう一段階強化した魔法障壁を展開する。そして無償詠唱に備えて自身と魔法障壁までの空間を極限まで狭める。
「バニッシュルーム」
リアさんのように瘴気を扱ってくる可能性を考慮し、あらかじめ魔力拡散結界を展開する。さらに特殊眼を考慮し相手の目を直視するのを避ける。目を見ているときに急に発動されると対処法がないからだ。ちなみに私は一度もヴィオラさんやビクトリアさんに戦いで勝ったことはない。正直特殊眼との戦闘は苦手だ。
「な、何をしているんですの?」
エリザベスさんがたじろぐ。見るからに隙だらけだが、罠かもしれない。華流が使えたらもっと楽に戦闘を進めることができるのだが……。
「ア、アイスロック!」
「アイスロック」
力比べですわ。何方の魔法力が上か確かめるために『合わせ』を行ったが……。
「あぁっ……!」
エリザベスさんの右腕が凍る。
「大丈夫ですか……」
いや、これも罠かもしれない。近づいたところを攻撃される可能性もある。相手の裏を読めとアシュリーさんに教わったのだ。
「だまされませんわ。ヴィンドカッター!」
風の魔法によってかまいたちを起こす。しかし相手は防御をすることもなかった。そもそも魔法障壁を自身の周りに展開していないのか⁉
「がぁっ……あっ」
右肩と左太ももがざっくりと切れる。
「あ、あぁ……ち、血が。」
ぽろぽろと涙が流れ始める。
「い、痛い!痛いですわぁぁ!」
そのまま地面に倒れこんで苦しんでいた。……嘘をついているようには、見えない。
「ソフィアさん!」
「かしこまりました。ヒールルーム」
私が叫ぶとすぐに治癒空間を展開する。確かに魔法障壁を張っていない状態で私のアイスロックをくらっては、数分で壊死してしまうだろう。また自身で治癒空間を展開していないということは、あの出血では命にかかわる致命傷となってしまうということだ。
「エリザベスさん!」
そう声をかけても返事がない。あまりの痛さに気絶してしまったようだ。
「お、お嬢様!」
倒れているエリザベスさんのもとへ付き人であろう方がよっていく。
「だ、大丈夫なのでしょうか!」
「気絶しているだけですわ。」
「よ、よかった……。」
「少しやりすぎてしまいましたわ。目が覚めたときに、申し訳ありませんでしたと、伝えておいてくださいまし。」
本当にやりすぎてしまったようだ。周囲の視線からは恐怖の感情が伝わってくる。
「治癒空間を展開できるものは?」
「そ、そんな高度な魔法を使えるものはおりません。」
それほど難しいものではないと思うが……。
「ソフィアさん」
「はい、かしこまりました。完全に治癒できるまでそばにおります。」
エリザベスさんの治療はソフィアさんに任せておくことにした。次はやりすぎないように気をつけなければ。
「さて、他に私とテストをしてくれる方はいらっしゃいますか?」
周囲を見渡したが、誰もいなかった。




