魔王城探検記1
ここが魔王城。
私の名前はディアナ。魔界にはマークと一緒に来たことはあるが、魔王城には初めて来た。
急に屋敷が攻撃された時はかなりびっくりしたが、マークとヴィオラがすぐにそばに来てくれたので特に不安はなかった。アイラもいたしね。
それでこのままだと再び危険なことが起こるかもしれないということで、みんなでここに来たというわけだ。
「アイラ。広いね。」
「うん。」
私と同じ勇者の称号というものを持っているアイラ。私の妹みたいなものだ。年は同じだけど。
「そうじゃろ!わしの城じゃ!」
「そうなの!?ビクトリアちゃんすごい!」
アイラとビクトリアちゃんが話している。ちなみにビクトリアちゃんは、最近私達と生活することになった子である。見た目は同じくらいだけど、年はマークよりも上らしい。
「今はマークの城だよね。」
「むぅ。いいではないか!」
私が一言付け加えると、ビクトリアちゃんはむくれた顔をする。
「だったらこの城、案内できる?」
「うっ……ま、まあ、その程度朝飯前じゃ。」
マークから聞いた話だが、ビクトリアちゃんが魔王だった頃も自分の部屋から出ることはなかったらしい。ひきこもりというやつだ。だからこの広い魔王城に関して知っていることはほぼ無いだろう。
「あーあ、じゃあビクトリアちゃんは行かなくていいね。」
「ん?なんの話じゃ?」
ビクトリアちゃんは私の突然の話題に戸惑っているようだ。
「アイラとこの魔王城を探検しようって話。」
「ど、どういうことじゃ!?」
「わ、私も聞いてない……」
まあ、誰にもいってないからね。
「そのままの通り。ビクトリアちゃんも誘おうと思ったけど、既に知っているんだったら誘わなくてもいいよね。」
「い、いやじゃ!わ、わしも……」
「知ってるんだよね?」
「……ごめんなさいなのじゃ。」
ということで三人で探検に行くことになった。
「で、でもいいのかな?勝手に部屋を出ても。」
ビクトリアちゃんは乗り気だが、アイラはいつも通り渋っている。まあ心配性なのはいつも通りだから問題はない。
「大丈夫だって。」
「そ、そうかな?」
押せば何とかなる。
「わしも魔王の間から出ることなんて一度もなかったからのー。」
ビクトリアちゃんはさっきまでの嘘を悪びれもなく、堂々とそう言った。
今はマークとヴィオラさんも魔界にはいないのでチャンスである。私たちの面倒を見てくれているエミリアさんも会議室みたいなところで話し合いをしている。ようは話し合いが終わる前にこの部屋に戻ってくればいいということだ。
「いくよ!」
「いくのじゃ!」
「ま、待って!」
そうして私たちは部屋の扉をあける。
—
「さて、どこから行こうかな。」
まずはこの廊下を右に行くか、左に行くかを選ばなければいけない。
「アイラ、どっち!」
「わ、私!?え、えっと……左!」
「よし!」
そういって三人でずんずん廊下を進んでいく。
「人影じゃ!」
その声と同時に私たちはぴたっとその場にとまる。聖法を使ってグルンレイドのメイドの人か確かめたいが、魔王城を囲むように魔力拡散結界が貼ってある。少しでも魔力や聖力を使ったらばれてしまうだろう。
「みんな、魔力、聖力は使わないでね!」
「分かってるのじゃ……でも。」
そう、このままでは向かい側からすれ違う形になってしまう。お願い!ばれないように……。そう思いながら飾ってあった壺の陰に三人が隠れる。
「……あら?誰でしょう?」
ば、ばれてしまった!ここまでか……。
「に、人間!と、魔族様?」
よ、よかった!グルンレイドではなく魔王城に仕えているメイドだった。
「メイドさん、私達探検中だから、誰にも言わないでね。」
「え、えぇ。」
そういって私達は先に進む。
「わしは外に出なかったからの。一介のメイドには顔を知られてはいないようじゃな。」
それは魔王としてどうだったの……とは言わなかった。
獣人のメイドと別れてから真っ直ぐ歩いていくにつれて、だんだんといい匂い鼻をついてきた。
「すごい、いい匂い。」
「厨房かの?」
ビクトリアちゃんの予想が当たる。扉の隙間から覗いてみると、多くの魔物たちが料理を作っているところだった。
「グルンレイドのメイドは見える?」
「いないようじゃ。」
どんな料理を作っているのか見たい!
「入ろう!」
「め、迷惑じゃない?」
「よいの!」
そういってさっと扉を開けてかがみながら中に入る。するとさらにいい匂いが漂ってくる。
「いい?大きな音を立てちゃダメだよ?」
「分かっておる。」
厨房は料理をしている音が響き渡っているが、耳がいい魔物もいるということを前に魔界に来た時に学んだので、些細な音も気を付ける必要がある。
「よし、進も……。」
ぐぅぅぅー。
「あ、ごめん。」
「何をしておるのじゃ!」
「ディアナちゃん……。」
「だ、だれだ!」
すぐに近くにいた料理人にばれてしまう。
「に、人間が侵入……子どもか?」
「人間か!どこだ……子供ではないか。」
「それと魔族様もいるぞ。」
大騒ぎになると思ったが、そうではなかった。
「なんでここにいる!」
「おい、そんなに怖がらせるような言い方するなよ。」
「そ、そうだな。」
別に怖くはないんだけど。
「何しに来たのかな?お嬢ちゃんたち。」
「探検じゃ!」
「そうだね、探検だね。」
「ほう、そうかそうか。探検か。なら……仕方ないよな。」
「探検なら仕方ない。」
「仕方ない仕方ない。」
厨房にいる大柄の魔物たちが口々にそういう。
「でも、グルンレイドのメイドの人には言わないでね!ばれると怒られるから。」
特にヴィオラさんにばれるのだけは勘弁してほしい。
「了解した。あの人間たちにはいわんぞ。なあ、みんな。」
「言わん。」
「俺も、言わん。」
いい魔物ばかりでよかった。これで探検の続きができる。
「ところでお嬢ちゃん。さっきおなかが鳴っていたようだけど。」
「あ、やっぱり聞こえてたんだ……。」
「ちょうど味見役が欲しいところだったんだ。どうだ?」
そういって焼かれた肉のかけらが目の前に出される。
「おい、お前だけずるいぞ!ちょうど俺の作ってたスープの味見役もいなかったんだ!」
そういってスープも出される。
「まてこのコルンのシャーベットもうまいぞ!」
次々に料理が出されてくる。
「いいのか!食べるのじゃ!いただきます。」
ビクトリアちゃんがおいしそうに食べる。私も食べようと思ったが、あとで夜ご飯を食べることを考えると、どれも少し食べるくらいにしておく方がいいと考えた。
「私もいただきます。」
「わ、わたしも。いただきます。」
アイラも私がちょっとずつしか食べていないのを見て、気が付いたようだ。同じように少しずつしか食べていなかった。
「おいしいのじゃ!」
「ほんとにおいしい!」
「お、おいしい。」
魔界の料理を久しぶりに食べたが、やはりおいしい。人間界で食べるものとは材料も味付けも一風変わっていて面白いし。
「だろ!やっぱり俺の焼いた肉が一番だぜ!」
「おい、俺のスープのことをいったんだろ?」
「俺の作ったシャーベットだ!」
「全部おいしい!」
私たちがそういうと料理人はみんなすごくうれしそうな表情をしていた。
「次は二階の角にある図書室に行ってみるといい。本もいいが、そこから見える景色は絶景だぜ!」
料理人たちが図書室までの行き方を教えてくれたので、そこへ向かってみることにする。
「ではさっそく……。」
「ビクトリアちゃん、ごちそうさまでした、しよ?」
「そうであったの。ごちそうさまでした。」
私とアイラもごちそうさまを言って厨房を出る。




