天界編:その後2
「それで魔界の門の守護だが、ミクトラお前に任せたいと思うのだが、どうだ。」
「問題ありません。私は毎日のように魔界の門を見て、コトアルの仕事を覚えていましたから。」
ご主人様の問いかけに対して、私はすぐに答える。
「えっ、どういうことですか?」
「言った通りよ。あなたのエネルギー供給のために開けた穴から私は見てたわ。」
コトアルがまだ完全な機械だった時のエネルギー源は太陽光だ。それは魔界の門付近には全くないものなので、常に太陽が見える天界の門と空間をつなげて太陽光を確保していたのだ。
「で、ですがこちらからは天界の門は見えなかったのですが……」
「逆光って知ってる?」
「あ……」
なんでも計算できる頭脳を持っているはずなのに、たまに抜けているところがあるのはなんでなのだろうか。それも計算で算出しているの?
「楽しかったわよー?あなたが一人で挨拶の練習をしていたのも、笑顔の練習をしていたのも丸見えだったんだから。後たまに鼻歌なんか……」
「なっ……なあぁぁぁ!」
「な、何するのよ!あ、危ないから!」
コトアルが私につかみかかってきた。確かに危ないのだが、コトアルに触れることができるのはちょっと嬉しいとも思ってしまった。今まではすり抜けてしまっていたから。
「二人とも、ご主人様の前です。」
メイド長がから声がかかる。
「申し訳ありません。」
「す、すみません。」
私たちはすぐに取っ組み合いを止める。以前であっても恥ずかしがるという行為をしていた気がするが、どこか不自然な感じだっただろう。今は顔を真っ赤にして、心の底から恥ずかしがっているというのが伝わってくる。こういうところからもコトアルが『人間』という存在になったのだと実感する。
「ミクトラよ、お前のかかる負担について知りたい。」
ご主人様が私にそう問いかける。確かに単純に考えて仕事量は二倍になると言ってもいい。ただ、その仕事量が少ない場合二倍になったところでなんら問題はないのだ。
「負担はほとんどないと思われます。人間界から天界に、天界から人間界にやってくる存在などごくわずかです。その中でも悪意を持って侵入してこようとする存在などほとんどいません。」
「ま、魔界もそのような感じでした。」
コトアルもそのように付け加える。
「天界の門から魔界の門までの移動は、私が数年かけて開けた半永久の時空の歪みを利用すれば一瞬です。」
今まではコトアルに太陽光を届けるために開けていたが、これからは私の移動手段として使用することになりそうだ。これを開けるのにかかった労力は少なくないので、無駄にならなくてよかった。
「そうか、それならいい。不満があったらいつでもいえ。」
「かしこまりました。」
現在の待遇に不満があるはずがない。まあ人間や魔族、聖族など普通の種族にとっては寝床や食料がない分この役目は大変かも知れないが、私はそのどちらも不要だ。眠ることもないし、食事をとる必要ない。基本的に魔力さえあれば生きていけるのだ。
「それでは契約は成立だ。スカーレットにはお前から声をかけろ。」
そういうと私たちは頭を下げて部屋を出て行く。普通、グルンレイドのメイドたちの報酬は不自由のない衣食住とお金だ。しかし私はそのどれもが必要ない。だから報酬として“スカーレット様の魔力“をもらっている。あの人の魔力はなんというか……すごい。見た目も美しいが、魔力も美しいのだ。
「なんか、すみません。」
「何謝ってんの?」
「結果的にミクトラの仕事が増える形になってしまって……。」
「はぁ、あんたが気にする必要ないの。増えた仕事量だって誤差みたいなものだし。」
本当に何も気にする必要がない。コトアルは新しい存在へと生まれ変わり、新しい生活を始めようとしている。それは喜ぶべきことなのだ。ただ一つ懸念点があるとすれば、例の時空の歪みからコトアルを見られなくなったことくらいだろう。残念だけど、仕方ない。
「まあ、たまに顔出しなさいよ。」
「は、はい!」
そうして私たちは真実の間へと歩いていった。




