天界編:邪神7
「神が不在の天界は、現在とても不安定な状態です。ご主人様、どうされますか。」
「ふむ、確かにそうだな。」
ご主人様が悩みながら、視線を少し先に向けた。私もそちらの方を見てみる。
「……なんでしょうか。あれは。」
神の……聖力だろうか。本来であればよりどころのなくなった聖力は自然に拡散され消えていくのだが、青く輝く特異な聖力はまだ消えてはいなかった。
「神の力……覚醒した勇者の力と同じようなものだ。」
ご主人様は本当になんでも知っている。私も常日頃から多くのことを知ろうと努力をしているのだが、ご主人様には届かない。
「コトアルに吸収させますか?」
「それは難しいだろう。コトアルにはもうすでに勇者の力で満たされている。入る隙間などない。」
「は、はい、私自身もそう思います。」
コトアルもそう答えていた。ということはコトアル以外で聖力を扱える存在となると……イリス、だろうか。
「マークよ、そこにたて。」
「お、おう。」
ご主人様が急にマークを呼び出し、その光の前まで歩かせる。
「そしてヴィオラ、マークのそばへ行け」
「かしこまりました。」
それに加えヴィオラまで光の中まで歩かせていた。一体何をしようというのだ……。
「やはり、私が認めた存在だ。最後の最後まで気が回る。」
ご主人様はそうとだけいうと後ろを向き、神殿の階段へと歩き始める。
「ご、ご主人様!」
私はマークたちの方を見ながら、後をついていく。すると徐々に青い光は二人の元に近づいていき……体の中に入り込んだ。
「な、なんだこれは!」
徐々にマークの体の中から、以前のような聖力が溢れ出す。
「これは……!」
ヴィオラの瞳を見ると、そこにも以前あったような青い粒子のようなものが浮かび上がった。特殊瞳に差はないと言われているが、どことなく以前の瞳よりも輝きが強いように感じる。
「あれは、なにがおこって……」
「神の残滓だ。奴は自身が滅ぼされても、その力だけは少しの間だけ消失しないようにしてくれたようだ。」
「その力は……再びマークを選んだ、ということでしょうか。」
「うむ、その通りだ。」
おそらく神の残滓とやらは覚醒した勇者の力に似ている。ということは新たな器となる人間を探しに本来であれば地上へと降りていくはずだ。しかし、出会った最初の一人目でそれが決まった。
「特殊眼もまた、ヴィオラを選んだようですね。」
才能や力というのは無作為ではなく、与えられるべくして与えられているのかも知れない。一番近くにいたからではなく、マークだから選ばれたのだろう。
「……すごいな。」
「えぇ……。」
二人とも自分の力に驚いているようだ。それをみていたグルンレイドのメイドたちも、その神秘的な出来事に目が離せないでいた。
「これで天界も安定するというものだ。」
「……なるほど、そういうことですか。」
この世界に神は必要。だが誰がなるのが一番なのだろうかと、そう考えた時に挙げられるのが、元四天王であるイリスなどだがやはりまだ力不足ではあるだろう。しかしそこに丁度神の力を取り込んだ存在が誕生した。
「おぉ、すごいな、段違いの力だ……。」
当の本人は手に入れた力の凄さにはしゃいでいる様子だ。
「ご主人様、それは素晴らしいお考えかと思います。」
「うむ、私もそう思っていたところだ。」
マークが神になればいい。一応魔王でもあるが、そんなことは関係ない。ご主人様の意見は神や魔王よりも絶対なのだ。そして仕事量も格段に増えるだろうが、マークであれば私の心も痛まない。これほどの適材は他にいるだろうか?私はご主人様の考えに感動しながら、ゆっくりと階段を降りていった。




