天界編:邪神6
「神撃」
ギリギリでその攻撃をかわす。頬に傷が少し入るが、かわすことができる。さっきよりも格段に感覚が研ぎ澄まされているようだ。
「それが本当の貴様の力か。」
「そう、みたいですね。」
人間の希望が作り出した勇者の力。さらにそのもう一段階上のものだ。
「覚醒した勇者を我は初めて見た。」
この状態を“覚醒した勇者“と言うらしい。これは私の力だけではできなかっただろう。マーク様からもらったこの力は、すでに覚醒に対する抵抗がほとんどなかったように思える。私の気持ち一つで簡単にできた。私にこの力を譲渡する前から、マーク様は覚醒していたのだ。
「セイントスペクトルキャノン!」
無数の光線を発射し、その全てに聖力を付与する。
「速いな。」
そう言いつつも全ての攻撃を避けていた。攻撃速度を上げなければ、相手にかすりもしない。……時間に干渉するしか、ない。
「超加速砲・セイントエレキレールガン!」
「神撃」
二つの攻撃が交わり、爆散する。私の肩が抉れる。
「あぁっ……」
まだ、足りない。物理エネルギーではどう足掻いても時間に干渉することはできない。私が持っている力の中でそれを可能にするのは、聖力という精神エネルギーしかない。
「お願いです、私に、力を貸してください!」
この力と体を創り上げてくれた人間たちにそう願う。そしてもう一度、守るべき存在を思い浮かべる。……すると私の体から、青い聖力が溢れ出てくる。私はそれをどこかで見たことがあると思った……そうだ、ヴィオラ様の瞳の中に浮かんでいた、あの光に似ている。
「完全に力を自分のものにしたか……。おそらく、次が最後になるだろうな。」
邪神は聖力を集める。そして私も。
「神撃」
「超超超加速砲!セイントエレキ……」
大気が振動する。地面の石などが宙へ浮び、私の発するプラズマによって粉々に砕け散った。
「わしが完全に操られる前に、終わらせることができて幸せだ。」
「っ!神様……!?」
私は全力で攻撃を止めようと思ったが、もうすでに間に合わない段階まで来てしまっていた。
「止めるな、太古の人間よ。……さらばだ。」
二つの攻撃がぶつかるが、それも一瞬。私のくり出した高エネルギー体に飲みこまれる。
「か、神様!」
叫んだ先にはもう何も残っていなかった。邪神は私の手によって滅ぼされた。そしてそれと同時に、人間が憧れた唯一の存在も消えてなくなった。
—
「コトアル、大丈夫ですか。」
「……はい。」
イザベラ様の問いかけに私は力なく答える。私は邪神ではなく、神を滅ぼしてしまったこと。そして“誰一人として殺すことは許さない“というご主人様の言いつけを破ってしまったこと。どちらも万死に値する罪だろう。
「まずや治癒魔法を。」
そう言って私の体を回復させてくれた。体中の至る所が痛かったがすぐにそれも治まってきた。しかし、この心の痛みだけは全く治る様子はない。
「コトアル」
「は、はい!」
心の底に響くような声が聞こえた。その声の先には……ご主人様。
「あ、あの、も、申し訳ありません!」
私は深く頭を下げる。命令に反くメイドなどいらないはずだ。
「何を謝っているのだ。よくやった。」
「え……。」
私は罪に対する罰を与えられるものだと思っていた。
「邪神も神も元々生きてなどいない。コトアル、お前は概念を消滅させただけだ。」
ということは殺してはいない、ということだろうか。……いや、だがこれは屁理屈だ。ご主人様はその優しさを持って、私の罪を無かったことにしてくださったのだ。その寛大な心と優しさに思わず涙を流してしまう。
「太古の人間の意思を受け継ぎ、今を生きる人間を守ったのだ。悪いことなど一つもないではないか。」
私は地面に膝をつく。私のやったことは間違っていなかった、そう言ってもらえたことがどれほど嬉しいことなのか、私以外にはきっとわからない。




