天界編:邪神1
私は魂に触れることができる。
だから他の人よりも、それはとても儚く、美しいものだということがわかる。
魂は一度肉体から離れてしまうと、もう元には戻らない。また、新たな肉体に宿ることもできない。そのまま霊界へと運ばれ、私でもしらない遥か遠くの場所へと進んでいく。
この霊界にはそのような肉体から離れてしまった魂たちが存在している。
「コトアル、迎えに来た。」
霊界の流れに飲まれず、そこに佇んでいる彼女の“魂”はこちらを見てゆっくりとうなずく。驚いた様子はなかった。
「ミクトラなら、何とかしてくれるって思っていました。」
「期待が大きすぎよ。」
まあ、そう思ってくれるのは悪い気はしないけれど。
「ご主人様もいるのでしょう?」
「まあね。」
ご主人様は人知を超えている。今回の出来事でそう感じた。時間を戻すことは神ですらできない。この瞬間に世界の理が大きく変化したことだろう。
「戻るわよ。」
そういってコトアルの魂を引っ張る。霊族でなければそもそも魂に触れることすらできない。この役目は私にしかできない重要なことだ。
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「お待たせいたしました。コトアルを連れてまいりました。」
私以外には見えていないと思うが、コトアルが頭を下げる。
「ミクトラ。」
「かしこまりました。」
ご主人様の視線の先には、コトアルの抜け殻が転がっていた。……本当に機械に魂を入れることができるのかわからないが、やってみるしかない。
「コトアル、目をつぶって。」
私は魂を限界まで拡散させる。おそらく周囲からは私が薄く消えかかって見えていることだろう。私は徐々にコトアルの肉体を包み込む。
「こっちによって。」
そして魂も私で包み込む。私の魂で魂と肉体がつながっている状態だ。
『コトアル、体の方へ移動して。』
私の魂を、コトアルが通っていくのを感じる。そして、肉体へとたどり着いた。
「……コトアル?」
そう声をかけると、ゆっくりと目が開いた。
「声は、出せる?」
「は、はい。」
私か彼女の手に“触れる“。
「温かいのね。」
その肉体はすでに熱を帯びていた。
「私……生きてる?」
「生きてる。」
すでにコトアルは機械ではなくなった。新たな生命体として、この世界に生まれ落ちたのだ。その魂の源はマーク様の“勇者の力“、そしてこの事象を奇跡まで到達させたのがヴィオラの“神眼“である。二人の協力なしに、コトアルの復活はなされなかっただろう。
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「何度も、何度も我の前に立ち上がってくるのだな。」
「えぇ。」
生まれ変わった私は、もう迷いなどない。私作られた時代の全ての人間たちの想いを背負って、神の前に立ち塞がる。
「我が太古の人間と戦った時も、そのような台詞を言った気がする。」
「同じようなセリフを言われて、私は幸せです。」
私の返事に少し不快そうな表情を見せた。『災害』であるはずの神……邪神がそんな表情をするなんて。
「勝てないとわかっておきながらよく挑んで……っ」
私は地面を蹴り上げ、攻撃を仕掛ける。
「……早いな。」
かすった。肩にダメージが入ったようだが、瞬時に回復させられる。
「私は生まれ変わりました。戦ってみなければ、わかりません。」
「何度挑んでこようと同じだ。神撃」
またあの攻撃……だが、私の瞳がそれを捉える。さっきよりも私の回路が神眼に順応している!?地面に倒れ込むよ激突するようにして攻撃を避ける。痛みが全身を駆け巡るが、避けることができた。
「確かに進化しているようだ。」
「……。」
私はこの全身を駆け巡る感覚に、体が少し固まってしまう。
「そんなに避けられたことに驚いたのか。」
「いいえ。私が驚いているのは、この痛みです。」
今まで戦闘をより効率的にするために痛覚信号があった。しかし、その感覚と全然違う。これが初めて感じる本物の痛み……。




