天界編:神殿9
「一体、何が……」
いつの間にかコトアル様の体が修復されていた。一瞬ほどの時間もなかったと思う。まるで元からコトアル様は壊されていなかったかのように、完璧に元に戻っていた。
「ご主人様が時間遡行魔法を唱えました。」
メイド長がそういう。
「時間遡行魔法ですか……時間遡行魔法!?」
物語の中でしか聞いたことのない魔法だった。理論上は可能。ただそれを実現できるほどの魔力密度はこの世界のどこにも存在しない、はずだ。
「……メイド長は見たのですか?」
「えぇ、真の時間停止空間では体は動かせませんが、意識を保つことはできますので。」
……私は意識を保つことができるほど聖力がない。元四天王の私ですら無理なのだ。それができるとしたら、神様くらいの聖力が必要だろう……。ということは……。
「貴様、それほどの力、どこで手に入れた。」
その口ぶりから、やはり邪神は体こそ動かせなかったがあの世界で意識を保ち、ご主人様の魔法を見ていたようだ。
「生まれつきだと言ったらどうする。」
「信じられるわけがない。その力は人間の潜在力を遥かに凌駕している。」
確かにその通りだ。例えば鳥が剣を振り回し、魔法を使えるかと言ったらそれは無理な話だ。剣を持つための手もなければ魔力を使うための魔力核もない。しかし、その無理な話をご主人様は実現させた。
「ミクトラ、コトアルの魂を連れて来い。」
「っ!かしこまりました。」
そう返事をするとミクトラ様はすぐに時空間魔法を展開し、コトアル様の魂を迎えにいった。
「ジラルド・マークレイブ・フォン・グルンレイド……やはり貴様はここで決しておかなければいけない存在だ。」
「この世界はもう止められない。貴様らもすでに気づいているのではないか?だから私は進み続けるのだ。」
ご主人様の周囲の魔力が揺れる。少し触れただけでも普通の人ならば魔力酔いを起こし地面に倒れてしまうことだろう。
「ご主人様、私が相手をいたしましょう。」
「いいえイザベラ様、あの程度私で十分です。」
メイド長とスカーレット様が一歩前に出て、そのようなことを言うが、
「下がれ。」
ご主人様はそう告げる。
「奴の相手はコトアルとする。」
「「かしこまりました。」」
メイド長もスカーレット様も頼もしいことこの上ないのだが、“神“相手に“あの程度“という発言は、頼もしいを通り越して少し怖い。私が邪神に挑んでも数分間生き残れたら奇跡だというのに……。
「我が大人しく待つとでも思っているのか?」
その瞬間私たち全員が戦闘態勢をとる。
「ああ、思っている。貴様は太古の人間の意志と決着をつけたいはずだ。」
「ふっ……まるで全てを見透かされているようだ。」
神と太古の人間の間に何があったかは私はよくわからない。私が生まれる前の出来事だからだ。
「滅ぼした、はずなのだ。」
「確かに肉体は滅んだ。ただ、その意志はまだ生き続けている。」
「昔から人間の意志の強さには驚かされてばかりだ。」
そういうと邪神は地面に座る。他のメイドたちもその姿を見て戦闘態勢を崩したようだ。




