天界編:神殿8
「ミクトラか。」
「は、はい!」
見るも無惨なコトアルの体に触れながら、私の方を向く。
「お前が来たということは、コトアルの魂は霊界か。」
「そうです。」
ご主人様は全てを見通しているようだった。私がここにきた意味も理解していることだろう。
「コトアルの魂はマーク様の聖力によって形成されました。」
「ほう。」
驚いたような表情をするが、私のためにわざと驚いてくれたのだろう。なんと優しい方なのだ。
「勇者は力なきものに力を与える存在。それは力だったり、希望だったり。それはどれも『生きる力』となって人々を支えるものです。その力が魂へと変化していった可能性が高いです。……ご主人様、コトアルの体を直せば、生き返るかもしれません。肉体さえあれば、魂は私がここまで連れてきます。」
「そうか。」
「ですが、コトアルは太古の存在……その技術は……」
とうの昔に消え去ってしまっている。現状ではどうすることもできない。ただ、私の目の前にいる方だったらどうにかしてしまうのではないかという、そんな気持ちがある。
「何を難しく考えている。」
そうしてさらに魔力密度を上昇させる。真の時間停止空間では魔力すらも動かせないはずだ。しかしそれを無理やりに動かす。……異常な力だと思った。ゆっくりとだが、確実に静止しようとする魔力が動いていくのを感じる。
「一体、何を……」
真の時間停止空間を越えると、一体どうなってしまうのだろうか。まだ見ぬ世界を前に私は気を張り詰める。
「壊れてしまったのなら、戻せば良いのだ。」
「しかし先ほども申し上げたように技術が……」
カンと金属がぶつかる音が聞こえた。……なぜこの世界で金属音が?
「もっと単純な話だ。」
カン、コンと徐々に金属音が増えていく。音の鳴る方を見ると、そこにはボロボロになったコトアルの体があった。ま、まさか……。
「時間遡行魔法……ですか!?」
時間は戻せない。それがこの世界の絶対普遍のルールだ。時間遡行の際に必要な魔力密度は想像をはるかに超えていて、例え神でも不可能だと聞いたことがある。
「そ、そんな……。」
コトアルが形成されていく。……いや、元に戻っていく。見るも無惨な姿から見慣れた姿へと。
「不自由。それは私の最も嫌いな言葉だ。」
そんな言葉が発せられると、コトアルは美しい体でそこに横たわっていた。
「世界が決めたルールなど破るに限る。」
時間遡行は止まり、真の時間停止空間へと戻る。そこからさらに魔力が活動を始め、ただの時間停止空間へと戻ろうとしていた。
「私はジラルド・マークレイブ・フォン・グルンレイド。私が望んだものはすべて手に入れる。」
動き始めたメイドたちと、目の前にいる邪悪な存在へと言葉を紡ぐ。
「たとえそれが、世界を変えるほどのことだとしても。」




