リア・ローズ2
平野を走っていた時に予想通り弱い魔物に遭遇した。何事もなければそのまま通り過ぎるのだが、面倒なことにこちらに襲いかかってきた。馬が止まり私たちは馬車から降りる。
「俺たちはあの二体のゴブリンを相手する。リアはあっちのゴブリンをやってくれ。」
ゴブリンは基本的に群れで行動する。今回は三体と比較的少なめだった。別れ際、剣士の男の人は少し心配そうな顔をしていたけど、ゴブリンごときで心配されるようなことは何一つない。
「バニッシュルーム」
私はそのゴブリンの周囲の魔力密度を数百分の一まで下げる。魔物は魔力によって構成されているので、自身を形成することができなくなるほど魔力密度を薄めてしまえば消えてしまう。ちなみに人間は魔力がなくなったところで肉体があるので消滅することはない。一瞬にしてゴブリンが消える。
「何をしたんだ!」
三人は驚いた顔でこちらを見る。
「少し魔力密度を下げただけです。」
ぽかんという祇園が似合いそうな表情をしていた。しかしまだ残りのゴブリンがいる。私が倒してしまおうかと思ったが、この人たちが『任せろ』と言っていたのでその命令に従うことにする。
「話はあとだ、まずはこいつらを倒す!」
男の人がそういうと残り二人が返事をする。
「ヒールルーム」
「スキルアップ」
男の人の周りには常時回復する空間が展開された。傷を受けてから展開するよりも、傷を受ける前に展開するほうがダメージの量を抑えることができたり、回復までの時間を短縮できたりする。さらにスキルアップで男の人の速度と攻撃力を上げる。
「バルザ流・断頭!」
一撃で二体のゴブリンを吹き飛ばす。もしかして私が思っているよりも強い冒険者なのかもしれない。それもそのはずだ極東への護衛を引き受ける冒険者が弱いはずがない。
「……すごいですね。」
「いや、リアの方がすごいから!」
再び馬車は動き始めた。平原に出てくるのは普通の魔物であり、襲撃は何度かあったものの特に問題なく進んだ。……そういえば、このパーティの人たちの名前を聞いていない。
「あの、お名前を教えていただけませんか?」
「あぁ悪い悪い、自己紹介が遅れたな。俺の名はユウト・カンザキだ。」
剣士の男の人がそういう。
「私はハル、カシワシロだよ。よろしくね。」
攻撃魔法師の女の人が言う。
「私はエミナ・ナナクサよ。よろしくね、リアちゃん」
最後に回復魔法師の女の人が言う。
ユウト、ハル、エミナ……ここら辺ではあまり聞かない名だ。
「珍しいお名前ですね。」
「そうだね。よく言われるよ。」
「それでよリア、さっきはどんな魔法を使ったんだ?」
うずうずしていたユウトさんが我慢できずに聞いてきた。
「あれは攻撃魔法ではありません。周囲の魔力密度を下げて、魔力を拡散させただけです。」
「それって、魔法士に対して使う魔法よね?」
確かにそのとおりだ。優れた魔力拡散の使い手が一人いるだけで、対魔法士の戦闘が格段に楽になる。グルンレイドのメイドの中だと、アリサさんが一番だろう。訓練の時、私の魔力が全て拡散され一方的にやられた記憶がある。
「おいまて、お前ら。魔物の魔力密度をそう簡単に拡散できるか?」
「無理……よね。常識的に考えて。」
「そうでしょうか?ゴブリン程度、グルンレイドのメイドなら誰でも消滅させることができます。」
またもやぽかーんとした表情をしていた。
「リアちゃんほどの強さがあっても、まだ華持ちじゃないの?」
エミナさんが言う。
「そうですね。グルンレイド領には私より強い人はたくさんいます。」
「……そこには近づかない方が良さそうね。」
「いや、俺は人生で一回は見てみたいけどな。華持ちのメイド。」
「あなたはかわいい女の子が見たいだけじゃないの?」
そんな感じでパーティ内の会話が弾んでいた。私もこんな風に外の人と話すことがなかったのですごく新鮮である。




