極東編:終わり3
「申し訳ありません。もっと私の観測魔法の精度がよければ……。」
そう言ってご主人様に頭を下げるのは、アシュリー。しかしそれは見習いたちだけで向かわせた私の責任でもある。
「いいえ、あの子達だけで行かせた私の判断ミスです。申し訳ございません。」
私も頭を下げる。
「よい、気にするな。」
「ですが……」
下手をしたら、命が失われていたかもしれないのだ。そんな簡単に許されるものではない。
「私は、あやつらなら無事にここに戻ってくると思っていた。」
っ!ご主人様はあの子たちを子供と見ていない。あの子たちを力のない子供扱いをして、勝手に過小評価していたのは私の方だったのだ……。
「経験だ。」
「経験……ですか。」
ご主人様が財よりも重要視するものの一つだ。
「経験は時として、どんな財よりも重要なものとなりえる。」
「はい。」
鋭い目つきが私たちを見据えた。
「そのような経験をあやつらに与えたお前たちには、感謝をしなければいけないな。」
……どこまで慈悲深いお方なのだ。人としての器の大きさの違う。
「ご主人様……」
アシュリーなんて涙ぐんでいるではないか。やはりご主人様の圧倒的な器の広さを前に、感動してしまうのも仕方がない。
「わかりました。そういうことにしておきます。ですが、今後それら全ては“想定内“であるべきです。そのために私は努力いたします。それでは、失礼致します。」
そう言って私とアシュリーは部屋から出ていく。今回の出来事全ては間違っていないとご主人様は言ってくださった。だから今後もどんどんと見習いたちを外に出していくつもりだ。しかし、最低限の安全は保証しなければいけないだろう。
—
アシュリーがご主人様に謝ると出ていき、そして帰ってきた。
「なぜお前はいつも私の部屋に来るのだ……」
そしてベッドにダイブする。
「話は聞いている。あの子たちが極東で大変な目にあったということは。……だが気にするな、あの子たちだった弱くはないのだ。無事に帰ってきたじゃないか。」
「……かった。」
何か呟いたか?
「もう一回言って……」
「怖かったぁ。」
そう言って目に涙を浮かべて私の方を見る。
「私、死ぬかもって……」
「ご主人様はそのようなことはしないとわかっているだろう……」
出会った時は、全てを破壊する無慈悲な存在だと思っていたが、全くそんなことはない。全てを見通し、救ってくださる慈悲深い存在だ。
「ご主人様は許してくれたけど、私は私を許すつもりはないよ。もっと観測魔法の精度を上げる努力をする。」
「……そうか。」
いつもは不真面目に見えるが、なんだかんだ真面目なやつなのだ。
「それは明日からでいいんじゃないか?」
「だけど……」
「まあ、今日は私に付き合え。」
そう言って私は立ち上がる。
「な、何?」
「今日は外に食べに行こう。」
「急になんで!?」
「あの……あれだ、スカーレット様と一緒に出かける時の予行練習だ。」
驚いた表情が、徐々に笑みに変わっていく。
「ふっ、そうだね。ヴァイオレットはスカーレット様大好きだからね。」
「べ、別に、普通だ!」
どこまでも私を馬鹿にして……。
「さ、いくよ。外にご飯食べに行くんでしょ?」
まあ、ちょっとでも気晴らしになってくれたらそれでいい。すっとベッドから立ち上がって、こちらをむく。
「誘ってきたんだから、奢ってよね。」
「都合のいいやつめ……。」
そこがこいつの可愛いところなのだが。




