リア・ローズ1
「リア、華持ちになるためには最終試験をこなす必要がある。」
ハーヴェストさんからそう伝えられる。以前からローズの証であるバッジをもらうためには、グルンレイドの外で試験があるということは知っていたので、驚くことはなかった。
私は悪魔付きといわれる、病気?のようなものにかかっている。普通であれば死んでしまうような病気だがご主人様のおかげで生き残ることができていた。
「ふつう試験は簡単なものなのだが、リア、お前にとってはグルンレイド内での訓練よりも、こっちのほうが難しいだろうな。」
私の体を眺めながらそう言う。私の体はいたるところに黒いあざが広がっていた。体内に魔物が使うような悪い魔力のせいでこのようになっているらしい。しかし今の私はそれを『制御』できる。だからこんな風に元気に生きてられるのだ。
「ハーヴェストさんもそうだったんですか?」
次は私がハーヴェストさんの体をじっくりと見る。私と同じような黒い肌、見るからに強そうな角、かわいらしいしっぽ……彼女は魔族である。
「まあ、そうだな。人間にとって魔族は悪で、恐怖の対象だからな。」
ハーヴェストさんが胸についているバッジを触る。きっと最終試験のことを思い出しているのだろう。顔色から察するに、スムーズにいったとはいえなかったようだ。
基本的に最終試験は貴族の護衛ということが多い。中でも極東という場所へ向かう際の護衛になることが多いようだ。道中に様々な魔物や危険地帯があるため、ある程度の強さがないと極東へたどり着く前に命を落とす。だからこのグルンレイドのメイドが護衛として任されるのである。
「お前は人間だが、……きっと最初から友好的にしてくれる人間は少ないだろう。」
そういって私のほほに触る。たしかに、この黒い肌は人間にはないものだった。
「だが、相手のことをしっかりと見て心で感じ、心で伝える。私はそうしろとご主人に言われた。相手がまともな人間なら、きっとわかってくれるはずだ。」
ハーヴェストさんの実体験だろうか、その言葉には力強さがあった。
「わかりました。」
この姿になってから、外の世界の人間とかかわってきたことはない。もちろんグルンレイドのメイドたちとは毎日会っているが、特に私の姿を気にする者もいない。魔族や精霊族なども当たり前のようにいるのだ。今更私のこの姿程度では驚かないだろう。
「それに強さでいえばお前は十分すぎるほど強い。だから、その、なんだ、頑張れ。」
「ふふっ、わかりました。」
強そうな見た目とは裏腹に、ハーヴェストさんの不器用なところが私は好きだ。
「わ、笑うな!」
「笑っていませんよ。ふふっ」
魔族も龍族も人族も、種族を関係なく接することができる、この場所のような世界があったらそれはどれほど幸せなところだろうか。
「ハーヴェストさんありがとうございます。私、頑張りますね。」
「ああ!」
そういって私は護衛の任務に向かった。
--
「お初にお目にかかります。極東までの護衛をさせていただきます。グルンレイド家のメイド、リアと申します。」
私は今回護衛をするハーマイド卿に挨拶をする。
「なんだこいつは!ま、魔族じゃないか!」
やはり予想通りの反応である。この黒い肌はどう見ても人間には見えない。
「……私は、人間です。」
種族的には一応人間だ。
「ほかのやつはいなかったのか!」
付き添いで来てくれたカルメラさんにその貴族が言う。
「ご主人様が決められたことです。何か問題があれば、私からお伝えいたしますが。」
「……グルンレイド卿か。ふん、まあいい。私をしっかりと極東へと護衛できればそれでいいのだ。」
そういって馬車に乗り込む。最初から認められるとは思っていなかったけど、こうもはっきりといわれてしまうと外の世界に来たんだなと感じてしまう。しかし別にそれくらい当たり前に言われることだと思えるくらいには私も大人になったのかもしれない。
「それじゃあ、私はここまでね。」
そいってカルメラさんは私に声をかける。
「はい、ありがとうございました。行ってきます。」
ハーマイド卿とは別の馬車に乗りこむ。
極東までは『王都→平野→山→海→極東』という道のりを進むことになる。
平野は特に危険視するところはない。ゴブリンやウルフといった弱い魔物は出るが、問題なく討伐することができる。
山は平野に比べて危険度が上がる。山の中腹には弱い魔物の他に盗賊が出たりするようだ。魔物よりも人間に気を付ける必要がある。そして頂上付近にはグリフォンなどの比較的強い魔物が出る。といっても私にとっては特に強いというものでもない。王都から極東へ向かおうとしている者たちのほとんどはこの山の頂上に出る魔物が問題で向かうことをやめている。
山を越えた先には港がある。しかし世界のどの港を探しても極東へ向かう船というものは存在しない。極東へ向かう途中の海峡は魔界並みの魔力密度であり、出てくる魔物も強いからだ。よって貴族のようなお金を持っているものが自分で船を用意し向かうしかない。その海を抜けてやっと極東へたどり着く。
「あ、あのこんにちは。」
急にそのような声がかけられた。私のほかにも護衛がいたようだ。三人パーティの……回復特化の魔法師だろうか。魔力感知で大体の予想をつけることができる。
「お初にお目にかかります。グルンレイド家のメイド、リアと申します。」
馬車の中では立つことができないので、その場で礼をする。
「おい、俺華持ちを見るのは初めてだぜ!」
剣士であろう男の人がそういう。
「申し訳ありません。私はまだ華持ちではありません。」
「そうなのか。」
そう言ってじっくりと私を見る。
「こら!失礼なことしない!」
次は攻撃魔法師であろう女性が声をかける。
「すみません急に……。」
「問題ありません。」
そういえば、この冒険者たちは私の見た目について何も言ってこない……。
「あ、あの、私こんな見た目ですけど、怖くはないのですか?」
疑問に思ったので聞いてみる。
「あぁ、肌の色が違うくらい珍しくないだろ?」
私はほかの人とは違うと思っていたけど、世界は広いようだ。そう考えるともっと外の世界を見てみたいとも思った。
「珍しくない……ですか。」
「……?なにそんな鳩が豆鉄砲くらったような顔してんだ?」
「はと……?豆でっぽ……?」
次から次へとわからない単語が出てくる。私もグルンレイドで様々なことを学習してきて、知識には自信があったのだが、やはり世界は広い。
「ユウトさん、こっちの世界にそのことわざはありませんよ。」
「あ、そうか……まあ、なにびっくりしてんだよ!って意味だ。」
「勉強になります。」
「それとなそんなにかしこまらなくていい。俺たちは今は仲間なんだからな。」
「仲間……ですか。」
その言葉に少し緊張してしまう。いままで仲間と言ったらグルンレイドの中にしかいなかった。外の世界では初めての仲間。
「私は……仲間、ですか?」
「そうだ。」
「うん。」
「そうよ。」
三人が私のほうを見て、さも当たり前かのよにそう返事をした。
「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします。」
私はさっきよりも深く頭を下げた。




