プロローグ
すぐ目の前で、獣人少女のモッフモフなキツネ尻尾が左右にパタンコパタンコと揺れている。
それを見て、俺は思わず苦笑した。
今はたまたま二人だけだが、乗っているのは乗合馬車。
きっと次の停留所からは人が乗ってくるだろう。
この国には『人族以外の入国禁止』という法律があるから見つかっちゃマズいのに、まったく危機意識が足りなさすぎる。
良く昨日までたった一人で生き延びてこられたものだと逆に感心しちゃうレベルだ。
「おーいクイナー? ごきげんなのは良い事だけどな、周りの目も一応気にしろよー? 俺は大丈夫な人間だから良いけどな、もし悪いヤツがソレを見たらお前のお母さんが言ってた通り、《《鍋にされて食べられちゃう》》ぞ?」
本当はそんな事なんてあり得ない。
だけどこれは獣人の彼女を魔の手から護るために母が吐いた、愛の籠った優しい嘘である。
それを借りて俺が言うと、その声に彼女の肩と耳と尻尾がビクンと飛び跳ねた。
俺が昨日買ってやったばかりの可愛らしい赤いコート。
そのフードを慌てて被り込んだ彼女は、俺の言葉を微塵も疑ってないようだ。
その純粋さと慌て加減が可愛らしくて、俺は思わず黄金のケモ耳を覆い隠したフードの上から、その頭をクシャリと撫でた。
するとその重みと乱暴さに、なのだろうか。
薄紫の、抗議の瞳が向けられる。
王太子だった俺がその地位を追われたのが、僅か5日前の事。
その後ひょんな事からクイナという旅のお供が加わって、今は2人、秘密を抱えながらも割と楽しく気ままな旅の最中だ。
その辺の経緯を話すと、ちょっとばかし長くなる。
が、まずはそこから話さなければ、この物語はきっと始まる事さえ出来ない。





