夏の忘れ物
長き夜 外に出ると
秋の風を全身で感じる
物静かな ゆったりした空気
夏の喧騒を
ひんやりとした風が持ち去った
耳を刺激するプログラムも
朝から愛を叫ぶセミの大合唱から
月光が降り注ぐ夜半に
金色の音色を響かせる秋虫のオーケストラへ
ついこの間まで
真っ青な空に 白い入道雲
黄色い太陽にギラギラ照らされた世界は
何もかもが眩く くっきりと縁取られていた
前を行く君の姿も 遠くまで
くっきり はっきり
見失うワケもなく
青く澄んだ爽やかな空を泳ぐ
いわし雲
それを淡く照らす秋陽の中
寂びの世界へと誘う
色なき風
音を立てることなく静かに時は過ぎ
…季節が変わる
秋の夕暮れ
線香花火の最後の火玉のように
物憂げな茜色の空
前を行く君の姿が 黒く
シルエットになる
…見失う…
失いたくない
夜の闇に紛れて
輪郭を失っていく君を
慌てて追いかけ 手を伸ばし
腕を掴んだ
遠い空の上で吹く風に
抗うことなく流される雲
金色の月が現れて
振り向いた君の笑顔を
僕だけが見えるように照らした
― ちりん ちり〜ん ―
風が奏でた音色につられて振り向くと
寝巻姿で微笑む君がいた
風鈴…片付けないとね
踵を上げて
手を伸ばす君
慌てて駆けつけ 手を伸ばし
片手で君を抱きしめながら
もう片方の手で 取り外すと
ちりん ちり~ん
今年最後の夏の音色がオーケストラに加わった