第1話『乙女ゲー OF THE DEAD』
俺『立原賢斗』の周りにはモテる男が多かった。
「よーす。ケント」
帰ろうと下駄箱で靴を履き替えていると、前から声を掛けてきた男は『柿畑透』同い年で小さい頃からの幼馴染の腐れ縁の親友だ。まだ2年生なのにバスケ部のキャプテンを任されているという人望ある男だ。
短い髪にキリッとした目が特徴的でスポーツ万能で女生徒からの人気が高い。
「あれ?ケンちゃん、今帰り?」
後ろから話しかけてきた男は『斎原祐樹』金髪とピアスを付けたチャラチャラした男だ。こんなチャラチャラしたヤツと俺がどうやって仲良くなれたのか謎だ。
こいつも顔が良く、いつも笑顔で女生徒と話しておりモテているのだろう…。
「ケント。今日は永瀬は居ないのか?」
名前だけ出てきた永瀬というヤツは生徒会長で大手の会社の社長の御曹司だ。漫画か!漫画の世界から出てきたのかよ!自分よりもモテるヤツを3人も紹介していたら腹が立ってきたぞ!
「ねぇねぇ、ケンちゃん。どっか寄ってかない?」
俺は誘いを断って2人と別れ、1人帰り道を歩く。
紹介した3人の他に、あと2人いる。この5人のモテ男の事なら好きな女の子のタイプから体にあるホクロの数まで知っている。
もしも俺が女の子だったら100パーセント落とせる自信があるね!
突然、人の叫び声がしたと同時に全身に激痛が走り意識を失う。
ピッピッピッピッピッピ…。機械の音が聞こえる。
目を開けるが真っ暗で何も見えない。声を出そうとしても出ない。体を動かそうにも動かない。
俺は一体…どうなってるんだ…。
『可哀想な男よ。立原賢斗』
誰だ?!
『私は恋愛の神だ』
恋愛の神?
『お前は今、自分がどのような状態になっているか分からないだろう?』
ああ…そうだ。教えてくれ!俺の体はどうして動かないんだ?!
『よ〜く聞け。お前は帰っている最中に事故に遭った』
事故…?
『そうだ。クレーン車の事故…お前の頭上に数トン程の量の鉄筋が降り注いだのさ」
それが事実なら俺は即死じゃないか?!じゃあ俺は…。
『そう先走るな。お前は死んでいない』
生きてるのか?!!
『ああ。身体中がグチャグチャになってはいるがな』
そ、そんな…。
『最初に病院に運ばれた時は医者も匙を投げたよ。しかしな幸運な事に神である私がお前を見つけて助けたのだ!』
神様が俺を…?
『そこで提案だ。恋愛の神である私は男女の恋愛が見たい!助けた代わりに私に恋愛を見せろ!』
…残念だが俺には彼女はいない。好きな子はいるが、そういった仲になりそうもない。
『いるじゃないか…お前の側に5人も』
5人…?まさか!!
『そうだ!あの5人のイケメンたちだ!お前はあの5人と恋愛をしろ!』
ふざけんな!俺は男だぞ!
『安心しろ、私が新たに作ったスペアボディにお前の魂を入れる。その肉体であの5人を落として攻略してみろ、乙女ゲームのようにな!』
…っ、ダメだ!俺には…。
『良いのか?貴様の体はそのうち死ぬぞ?だが私の話に乗るなら、この死にかけの体は私の力で全員と恋愛するまで生かしておいてやろう』
それでも…。
『そして、1人攻略する度に【両腕】【両脚】【胴体】【頭】【魂を元に戻す】の順番で治してやろう』
本当か?!
『もちろん。私の話に乗るか?』
…分かった!覚悟は決まった!
『よし!今からお前の魂を私の作った16歳の女の子の体に移す。途中でリタイアは無効だぞ』
ああ。こっちも命が懸ってるんだ…。
『ルールを3つ言っておこう。1つ相手がお前に好意を抱いてキスをすれば攻略したと看做して、お前の体を治してやろう』
…分かった。
『2つ目。攻略する度に何処かの日にリセットされる』
たしかに、2人目の攻略の時に1人目の奴と気不味くなるから助かる。
『3つ目。お前の新たな肉体『乙女河静香』が立原賢斗だとバレてはいけない。もしもバレるか、お前がバラしたら時間をリセットして最初の日に戻す』
最初から言うつもりはない。
『さあ、見せてくれ!恋愛の神の私にお前の勇姿を!!』
体が浮かんでいるような感覚がくると意識が薄れていく。