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勇者の師匠は遊び人っ!?  作者: 笠井 裕二
遊び人と勇者の出会い編
7/62

勇者アイザワ・トモキの憂鬱 5

続きです。


主人公って誰だっけ(笑)。

まぁ、トモキくんも、もう一人の主役的ポジションかつ、この世界観を語る上での重要な語り部なので、もうしばらく彼の物語にお付き合い下さい。



◇◆◇



それから少し経って、俺の初めての【()()】の時に、とある【事件】が起きた。



エンヴァリオン王国の首都である【城塞都市・クヌート】は、その四方を森や山や湖に囲まれたなだらかな平地に存在する。

戦略的観点から見ると、意外と攻めやすい立地の様に見えるのだが、この世界(エンドゲイト)には【魔獣】や【モンスター】と言った脅威がある事も留意しなければならない。

ただでさえ、集団での山越えや森の横断は非常に危険を伴うのに、そうした脅威が闊歩している領域(エリア)に踏み込むと言う事は、かなりの損耗を覚悟せねばならない。

更に、要所要所に【騎士団】の【詰め所】が存在し、また、クヌート自体も【城塞都市】として堅牢な要塞となっている為、攻め入るのはかなり難しいのである。


平地故に、周囲には豊穣な農作地も広がる牧歌的な風景を見せつつも、しかし、そのある種【防壁】の一つとして機能している森や山や湖は、当然ながらエンヴァリオン王国の市民に取っても脅威となるのである。


そうした場所には、薬草や鉱石などの自然の恵みも数多く存在するのだが、一般市民だけで分け入るのは自殺行為である。

先程も述べた通り、【魔獣】や【モンスター】が闊歩する領域(エリア)だからである。

そうした場所に分け入り、【魔獣】や【モンスター】の討伐や、薬草や鉱石などの採取、あるいは、【専門家】が直接赴く際に護衛を請け負って貰えるので、【代行業者】としての【冒険者】の需要は高い。


しかし、【冒険者】も一般市民より遥かに強いと言っても、物事には限度がある。

一般的には【冒険者】達は【パーティー】を組むのが普通なのだが、10人以下の少数単位が精々である。

これは、嫌らしい話、安全性と【クエスト料(依頼料)】とを天秤に掛けた結果、その辺がギリギリ収益が見込めるラインだからである。

【冒険者】も収入がなければ生活出来ない。

もちろん、一人(ソロ)で活動出来れば“取り分”は丸々独り占め出来るのだが、現実的には【パーティー】を組まなければ危険過ぎるので、そうなると、一人一人の“取り分”は必然的に少なくなってしまう。

人数が増えれば増えるほど、安全性は高まる訳だが、“取り分”は少なくなる。

人数を減らせば減らすほど、“取り分”は多くなるが、安全性は低くなってしまう。

そこら辺のバランスを考えながら、【冒険者】達は日々生活をしているのである。


さて、そんな中で、国防を担う筈の【エンヴァリオン騎士団】や【魔道士部隊】が、時に討伐任務を請け負うのは、もちろん【実戦訓練】と言う意味合いもあるのだが、もう一方で【間引き】の為でもある。

この世界(エンドゲイト)の【魔獣】や【モンスター】は、自然発生的に数を増やしていくケースと、【龍穴】に溢れる【魔力溜まり】から生まれるケースとに大別される。

前者は、まぁ、生物として当然の繁殖活動なので、これは仕方のない事ではあるが、問題なのは後者の方である。

ロアンがトモキに説明した通り、この世界(エンドゲイト)の大気中には【魔力】と呼ばれる物質が存在するのだが、それらが【風水】で言う所の【龍穴】に溜まり込んでしまうのである。

もちろん、その莫大な【エネルギー】を利用出来れば、人々は多大な恩恵を授かれるのだが、自然現象同様に、時にそれらは人々にとって【厄災】とも成りうるのである。


そうした【龍穴】には、【迷宮(ダンジョン)】が発生するケースもあり、

(まぁ、場所によっては、その成り立ちは様々。天然の洞窟が徐々に【迷宮(ダンジョン)化】するケースや、やはり【古代】の人々が、そうした【エネルギー】を利用しようとして築いた【施設】、所謂【遺跡】が【迷宮(ダンジョン)化】するケースなどである。)

それを起点に、【魔獣】や【モンスター】が【異常繁殖(アウトブレイク)】や【怪物行進(モンスターパレード)】と言った現象を引き起こす事がある。


これらは放っておくと、人々の【生活圏】を脅かす要因ともなるし、更には、【魔獣】や【モンスター】同士の生存競争を経て【異常個体】、【神話】や【伝説】に語られる様な【怪物】を産み出しかねないのである。


特に、【魔神戦争】時に引き起こされた【世界同時厄災】の影響で、その危険性は更に膨れ上がっている。

しかし、前述の通り、【冒険者ギルド】単体では、それらに全て対処するのは()()不可能に近い。

そんな訳で、【軍隊】の【災害派遣】の如く、それらの【予防】の為の【間引き】や、【緊急時】の討伐任務として【エンヴァリオン騎士団】や【魔道士部隊】が駆り出される事となる訳なのである。



◇◆◇



「トモキっ!」

「了解ですっ!【ストーンショットっ!】」

「「「「「ぎぃぎゃあぁぁぁぁっーーー!!!」」」」」

「よしっ、陣形が崩れたぞっ!各自、フォローしながら各個撃破しろっ!!あまり突っ込み過ぎるんじゃないぞっ!!」

「「「「「了解っ!!!!!」」」」」


俺は今、【城塞都市・クヌート】の北側に広がる大森林地帯、通称【ルードの森】と呼ばれる場所で、【エンヴァリオン近衛騎士団】のメンバーや【宮廷魔道士】の皆さんと、討伐任務に赴いていた。

俺にとって、初めての【()()】であり、ここに来るまでは【魔獣】や【モンスター】とは言え“()()”を殺す事には(いささ)か忌避感や抵抗感があったのだが、実際に対峙してみると、()さなきゃ()されると(いや)(おう)にも()()()()()()()

当たり前の話なのだが、彼らには()()が一切通用せず、こちらを最初から殺しにかかってくるのだから。


俺は、【エンヴァリオン近衛騎士団】の皆さんと共に、最前線、まぁ、俺は、【初討伐】って事や、【魔法】も使える所から、やや後方寄りの【遊撃】的なポジションにいるのだが、それでもすでに一桁は確実にこの手にかけた事だろう。

しかし、自分でも意外なほど俺は冷静だった。


「初の【()()】はどうだ、トモキっ?」

「ええ。何か、意外と大丈夫でした。もちろん、恐いは恐いんですけど、不思議な事に、身体が竦み上がるって事はなかったですね。」


【ゴブリン】との戦闘を終え、キールさんが俺に声を掛けてくれた。

今日は、そう深くまで分け入る予定ではない様で、比較的余裕があるのだそうだ。

それに俺がそう答えると、【騎士団】の中でも、比較的仲良くして貰っている、ちょっと年上のプレドさんが話に加わった。


「確かに、初討伐にしては、良い働きをしてるぜっ!まぁ、若干普段よりも動きがぎこちないが、その程度で済んでるのが、むしろスゲーよ。俺なんか、初討伐の時はガタガタ震えていたからなぁ。」

「まぁ、俺のポジションは若干後方寄りですしね。それに【魔法】の恩恵もありますし。」


そう俺が答えると、プレドさんはうんうんと頷いて続けた。


「確かに【魔法】の存在はデカイよなぁ。もちろん、普段も【宮廷魔道士】の皆とも連携してるんだけど、【ステータス】の関係上、どうしても近接戦は不得手になる傾向にある。トモキみたいに、どちらもこなせる【オールラウンダー】は、この世界(エンドゲイト)の一般常識的には、どっち付かずの【器用貧乏】って感じで敬遠される傾向にあるんだけど、トモキはどっちもレベルが高いからなぁ。トモキなら、【伝説】の【魔法剣士】にも成れるんじゃないかな?」

「【魔法剣士】?」

「ある種究極の理想系だよ。まぁ、“戦う”職業じゃなきゃ、あんま意味はなんいだけどさ。【器用貧乏】の【オールラウンダー】じゃなくて、【戦士系】としても【魔道士系】としても超一流、って言う、そんな子供が描く様な【英雄像】だよ。まぁ、【魔神戦争】の【英雄達】や、【神話】や【伝説】の【英雄】達にも、そうした人はいたみたいだから、【異世界人】であるトモキならイケルんじゃないかと思っただけさ。」

「へぇ~、世の中には凄い人達がいるんですねぇ~。」

「他人事じゃないぞ、トモキ。お前は、そう成れる素養がある。今日の討伐任務で俺はそう確信したぜ。それでなくとも、“中衛”の存在はやはり有り難いな。まぁ、【プラン】自体は、かなり昔からあったんだがな。前衛に戦士隊を、遊撃に弓矢隊を、後衛に魔道士隊を配置する事で、安全性が格段に上がるって感じでな。ただ、弓矢に関しては、矢の数に制限があるから、結果的にはその時の状況において、フォーメーションを変更してるんだが、【魔法剣士】隊を育てられれば、永続的にその配置を継続出来るかもしれない。もちろん、【精神疲労(メンタルダウン)】には留意しなければならないだろうが・・・。」

「キール団長、【魔法剣士】は成り手がいないっすよ。仮に出来たとしても、トモキみたいなレベルにはとてもとても・・・。」

「いや、“中衛”を担う遊撃って事なら、数さえ揃えられれば、【器用貧乏】でもいいんじゃないかな?確かに【冒険者】としてなら、その選択は難しいかもしれないが、【騎士団】としてならさ・・・。」

「ふむ、なるほど・・・。ロアン筆頭の意見も聞いてみたい所ですね・・・。」


何だが、キールさんとプレドさんが専門的な話を始めてしまって、若干俺は蚊帳の外になってしまった。

っつか、ここ一応森ん中なんすけど・・・。

そんな事を考えていた時、副団長のサイゲイさんが、慌てた様子でキールさんに駆け寄ってきた。


「だ、団長っ、大変ですっ!!!」

「どうしたっ、サイゲイっ!?」

「【先遣部隊】からの報告で、かっ、【呪印石(カースド・ストーン)】が発見されたそうですっ!!!」

「な、何だとっ!!!???」


そのサイゲイさんの報告に、キールさんが滅多に見せないほど狼狽した。

しかし、その“単語”に聞き覚えのない俺は、頭に疑問符を乱立させる。

なので、同じく驚愕の表情を浮かべているプレドさんに聞いてみる事にした。


「プレドさん、【呪印石(カースド・ストーン)】って何ですか?」

「あ、ああ、トモキは知らないよな・・・。【呪印石(カースド・ストーン)】ってのは、【魔獣】や【モンスター】なんかを引き寄せる物質だ。それだけじゃなく、興奮作用や凶暴性を増幅させる危険極まりないモンだよ。」

「ええっ!?」

「ただ、【呪印石(カースド・ストーン)】は自然には存在しない物だ。人工的に作られた物を、“()()()”が意図的にそこに設置したんだろう。しかし、あれはあまりに危険性が高いから、各国家間で製造や取り引きを禁じられている筈なんだが・・・。」

「確かに誰が何の為にそんなモンを設置したのかは気になる所だが、今はそんな事は一先ず後回しだっ!!!とにかく、【呪印石(カースド・ストーン)】を回収しないと、大変な事になるぞっ!!!」

「それは破壊する事は出来ないんですかっ!?」

「それは一番不味いっ!【呪印石(カースド・ストーン)】は、下手に破壊してしまうと、瞬間的な威力が更に増幅してしまうから、【魔獣】や【モンスター】が数多く生息する領域(エリア)でそれをするのが一番の悪手なんだっ!!【魔獣】や【モンスター】が生息する領域(エリア)から遠ざかって、その効力が失われるまで【封印】するか、それこそ、海の底にでも沈めてしまうしかないっ!」


おぅふ・・・、マジかよ・・・。( ̄ω ̄;)

【生物兵器】並にタチが悪いな。

しかも、自分達で直接攻め入るのではなく、所謂【MPK】を仕掛ける事で相手に打撃を与えるとか、考え方がもはや【テロ】である。

確かに、それなら国際的に禁止されたとしても不思議はないな。

まぁ、その手の事は禁止されても水面下に潜る事も珍しい話じゃないけど、実際仕掛けられた側としてはたまったモンじゃない。


「とにかく、現場に急ぐぞっ!【呪印石(カースド・ストーン)】を仕掛けた“何者か”が、まだ周辺に潜んでいる可能性もあるので、警戒は密に行えっ!」

「「「「「了解っ!!!!!」」」」」

「サイゲイっ、【魔道士部隊(ロアン達)】にはっ・・・!」

「ロアン筆頭には、すでに報告に向かわせていますっ!」

「流石に対応が早いなっ!ならば、問題ないだろうっ!こっからは時間との勝負だっ!皆、慌てず急げよっ!!!」

「「「「ハッ!!!!!」」」」」


何か、大変な事になって来たなぁ。

とにかく、現場に急がなくちゃっ!



◇◆◇



話は、一旦サイゲイらの【密談】の場面に遡る。


「【呪印石(カースド・ストーン)】を仕掛けるっ!!!???」

「サ、サイゲイ殿、さ、流石にそれはっ・・・!!!」

「いえいえ、話は最後まで聞いて下さい。そう言う“(てい)”にするってだけですよ。そうした虚偽の報告で、キール団長とロアン筆頭を誘き寄せるのが真の狙いです。」

「・・・どういう事ですか?」


サイゲイの【プラン】に驚きの声を上げた【名門貴族】のクルータ、パスラ、ベッジは及び腰になった。

口では威勢の良い事は言いつつも、彼らは陰口を叩くのが精々の小者なのである。

それに、【呪印石(カースド・ストーン)】とは、それほど危険視されている物、とも言える。

ある意味彼らも、最低限の良識はあると言えるだろう。


「先程も言いましたが、我ら【貴族】がいなければ、やはり困るのだと示したいのですが、討伐任務には、もちろん、キール団長とロアン筆頭も出動して指揮を取られます。そうなると、我ら【貴族】の存在感を示すのは、(いささ)か難しくなるでしょう。客観的事実として、あのお二方の【実力】と【統率力】は本物ですからね。」

「それはっ・・・!」

「・・・大変遺憾だが、サイゲイ殿の発言はもっともだ。」

「・・・確かに。」

「しかし、“不測の事態”でお二方が一時的に指揮を取る“状態”に無くなったら、どうです?」

「なるほどっ!!!【呪印石(カースド・ストーン)】が発見されたとなると、流石にキールもロアンもその現場に急行し、某かの相談をする筈。【呪印石(カースド・ストーン)】は、言わば【呪具】。【魔法】の【専門家】であり【魔道士部隊】の筆頭でもあるロアンに、キールが意見を聞くのは至極当然の流れ。そこに、某かの“(わな)”を設置して二人が動けなくなれば・・・。」

「そうです。当然、【指揮権】は私に移ります。後は、皆さんと協力して速やかに事態を収拾すれば・・・。」

「我らの存在感を示せる、って事ですなっ!!!」

「おぉっ・・・!!!」


ようやくサイゲイの狙いを理解し、クルータ、パスラ、ベッジは興奮の色を見せた。


しかし、実際にはサイゲイ以外は【部隊】を指揮した経験などない。

普段から、ある程度その【実力】が一目置かれている【立場】なら、そうした事もあるいは可能かもしれないが、実際には、彼ら程度の【実力】では、(いたずら)に【部隊】を混乱させるだけの結果に終わるだろう。

しかし、彼らはすでに全てが上手くいった気でいる。

“自己評価”の異常に高い者達ほど、厄介なモノはないだろう。

では、なぜ、サイゲイはそんな者達に声を掛けたのだろうか?

それは、もちろん、サイゲイには“()()()()()”があったからである。



・・・



()()()()()()()、虚偽の報告を行ったサイゲイがキールとロアンを始めとした【部隊】のメンバー達を率いて、【呪印石(カースド・ストーン)】がある(と言う“(てい)”の)【ポイント】にやって来る。

そこで、【先遣部隊】として先行していたクルータ、パスラ、ベッジらが彼らを出迎えた。


「こっちだっ、キール団長っ!ロアン筆頭っ!」

「ああっ、クルータ達かっ!よく見付けてくれたなっ!!」

「いや、明らかに“()()”が手を加えた跡があったからな。」

「こんな場所に人がそう来るモンじゃないだろ?だから、何かあるって思ったんだよ。」

「そうですか・・・。それで、【呪印石(カースド・ストーン)】には触れていませんよね?」

「もちろんだ。下手に動かして壊れでもしたらシャレにならんだろっ?」

「そりゃそうだ。で、【呪印石(カースド・ストーン)】はどこに?」

「ほら、そこの窪みだ。“()()”が掘った跡があるだろ?」

「確かに、こりゃ怪しいな・・・。」

「剥き出しにしておくと、その設置した“()()()”も【呪印石(カースド・ストーン)】の【効力】に巻き込まれると踏んで、一手間加えたんでしょう。一応、擬装らしきアトもありますからね。」


現地調査をしながら会話を交わすキール達。

窪みに近付くと、設置された“(わな)”が作動した。


「っ!!!」

「しまっ!!!」


それは、極原始的な“(わな)”であり、また、【戦士】や【魔道士】としての【実力】や【スキル】は持っていても、【狩人】や【野伏】としての【実力】や【スキル】を有していないキールとロアンは、その“(わな)”にアッサリ引っ掛かってしまった。


「お、おいっ、大丈夫かっ!?」

「矢っ!?何でこんなモンがっ・・・?」

「けど、大した傷じゃない。【回復魔法】を使うまでもないだろ。」

「い、いや、これはマズいぞっ・・・!?」

「殺傷力がないのに、こんな“わな”を仕掛けると言う事は、【毒】かっ・・・!?」


この3人、【戦士】としての【実力】はそれほどでも無かったが、事【演技】に関してはかなりのモノだった。

内心、上手くやったと喜びつつも、表面上はそう嘯いた。


そんな事を知る由もないキールとロアンは、非常に焦っていた。

もちろん、2人は【魔神戦争】以後に武官になったクチであり、本格的な人同士の【争い事】の経験はそれほどないのだが、【知識】としては、【搦め手】ももちろん知っている。

特に、【毒】と言うのは厄介極まりない。

これは、【回復魔法】では癒せない類いのモノだからである。

【回復魔法】は、要は人が持つ【自然治癒力】を高めたモノに過ぎない。

それ故、致命傷を負った者、寿命が尽きかけている者、病気といった要因には効果がないのである。

もちろん、【毒】も、である。

ただし、【毒】の中には、人の持つ抗体で無害化出来る種類も存在するが、今回の件ではあまり関係のない話なので、ここでは割愛する。



・・・



呪印石(カースド・ストーン)】がある現場に着くと、まもなくしてから、ロアンさん達【魔道士部隊】も合流した。

俺達は、周囲を警戒しながら待機し、キールさんとロアンさんが【先遣部隊】の人達と言葉を交わしていた。

【先遣部隊】って、あの人達か・・・。

あんまり、良い印象は持ってないんだよなぁ。

何かにつけて、絡んでくるし、こっちを何だか見下している感じがするし・・・。

プラドさんによれば、あれが彼らのデフォルトだから気にする必要はないと言われたが、何かかつての“いじめっこ”達を彷彿とさせるので俺は苦手だった。

これまでの経験から、俺は“悪意”には結構敏感なタチなのである。

そうした意味では、サイゲイさんからも“何か”感じるんだけどね。

いや、俺に対しても丁寧に接してくれるし、【実力】もあるし、キールさんを本当に尊敬している事は伝わってくるんだけど、時々ゾッとする瞬間があるんだよなぁ。

()()は何なんだろうか?

何て事を考えていると、キールさん達の方が騒がしくなった。

どうしたんだろうか?


「お、おいっ、大丈夫かっ!?」

「矢っ!?何でこんなモンがっ・・・?」

「けど、大した傷じゃない。【回復魔法】を使うまでもないだろ。」

「い、いや、これはマズいぞっ・・・!?」

「殺傷力がないのに、こんな“わな”を仕掛けると言う事は、【毒】かっ・・・!?」


【毒】っ!?

そんな単語が聞こえて、俺は思わずキールさんとロアンさんのもとに駆け寄ったのだった。


「キール団長っ、ロアン筆頭っ!!!」

「キールさんっ、ロアンさんっ!!??」


異変に気付いたのだろう、サイゲイさんも駆け寄って来た。

他の皆さんも、ザワつくが、【魔獣】や【モンスター】の警戒も怠れない。

それ故、遠巻きにこちらの様子を窺うにとどまっていた。


「大丈夫ですかっ、キールさん、ロアンさんっ!!!???」

「と、トモキ、か・・・。しく、じった、ぜ・・・。」

「そ、それ、より、【呪印石(カースド・ストーン)】、を・・・。」


【毒】を受けた影響だろうか?

2人とも、呂律が回っていない。

これは、ヤバいんじゃないだろうか?

そう、俺が焦っていると、ふいに妙な声が聞こえてきた。


「チッ、馴れ馴れしいんだよ、このガキがっ・・・!」

「へっ・・・?」


小声なのに、ゾッとする声色で、俺が一瞬ポカンとしていると、脇腹に衝撃を受けた。

熱い。

いや、痛い、のか?


「ぐあぁぁぁぁっーーー!!!」

「「「「「っ!?」」」」」


自分でもびっくりするくらいの絶叫が響き渡った。

俺は、脇腹を深々と()()()()()()()()()()

その犯人は、


「サ、サイゲイ、さんっ・・・!な、何でっ・・・!?」

「サ、サイ、ゲイ、殿っ・・・?」

「へっ・・・?あれっ・・・?」

「話が、違くない・・・?」

「いえいえ、“()()”通りですよ、皆様。上手く踊ってくれましたね。有り難う御座いました。」


ニヤリと壮絶な笑みを浮かべると、サイゲイはその3人に襲い掛かった。


「がっ!?」

「カヒュッ!?」

「ほぉっ!?」


場違いなほど見事な腕前で、3人の首をはねたサイゲイ。

俺の目の前で、今、()()が行われたのである。

俺は、痛みやら何やらで目の前の光景に理解が及ばなかった。


「サ、サイゲイっ・・・!?お前、裏切った、のかっ・・・!?」

「ま、まさかっ・・・!?た、【他国】、の、間者(スパイ)、なのです、かっ・・・!?か、【呪印石(カースド・ストーン)】も、貴方、がっ・・・!?」

「いえいえ、違いますよ、キール団長、ロアン筆頭。初めから、()()に【呪印石(カースド・ストーン)】などありません。なぜなら、【呪印石(カースド・ストーン)】は、()()()()()()()()()()()()。」


狂気に満ちた表情を浮かべるサイゲイ。

流石に、この異変に気付いた皆さんも、その一言に凍り付いた。


「は・・・?」

「え・・・?」

「ああ、貴方はそこの【異世界人】同様、邪魔ですね。()の団長から離れて下さい。」

「がっ!!!」


サイゲイの発言はマトモではなかった。

理解が及ばない俺達が呆気に取られていると、倒れていたロアンさんを蹴り飛ばす。


「ひ、【ヒール】っ!」


何とか自力で【回復魔法】を掛けた俺は、ズキズキと痛む傷が癒えるのを自覚した。

しかし、一向に身体に力が入らなかった。


「な、何でっ・・・!?」

「ヘッ、バカなガキだなぁ。【毒】の可能性を考えろや。【回復魔法】じゃ、逆に全身に【毒】が回るだけだっつーの。」

「な、何が、目的、なんだ、サイゲイっ・・・!?」

「嫌だなぁ、団長。貴方が、こんな連中に構うからいけないんじゃないですか?貴方は私だけのモノでしょ?他の連中なんか、どうでもいいじゃないですか?」

「な、何を、言ってっ・・・?」

「あぁ、動かないで下さいね、団長。貴方達に仕掛けた【毒】は神経毒ですから、放っておくと全身に麻痺が広がって呼吸不全で死にますよ?ですが、ご安心下さいっ!毒性はさほど高くありませんから、人工呼吸をしつつ、体内で無害化されれば、何ともありませんからっ!!そうっ、貴方は、今、私の手を借りないと生きれない状態にあるのですっ!!!」


恍惚の表情を浮かべたサイゲイは完全に狂っていた。

これは、もはや尊敬とか崇拝とかのレベルではなく、歪んだ“愛”なのかもしれない。


「ま、まさか、そんな事の為にこんな事を仕出かしたのかっ!?」


いつの間にか、俺の側まで駆け付けていたプラドさんが、サイゲイにそう声を掛ける。

他の皆さんも、ロアンさんを介抱しつつ、キールさんを奪還し、サイゲイを拘束するべく包囲を形成していた。


「近寄んジャねぇ~よっ!【呪印石(カースド・ストーン)】を壊すぞっ!?オメーらは、邪魔なンだよっ!!そこのガキと、ロアンを連れて、とっとと消えろやっ!!??」


2人きりの状態を邪魔されて、サイゲイはひどく不機嫌な表情をしていた。

その手には、全く【知識】のない俺にも分かるほど、禍々しい【石】が見える。

あれが、【呪印石(カースド・ストーン)】なんだろう。


「へ、下手に、彼、を、刺激、しないで、下さいっ・・・。あれ、は、間違いなく、【呪印石(カースド・ストーン)】、です・・・。壊され、でもしたら、【部隊】、が、全滅、する、可能性、も・・・。」

「しかし、団長がっ!!!」

「わ、私、達が、全滅、したら、誰が、市民を、守るの、ですかっ!!!キール、の、命と、市民達、の命・・・。比べる、までも、ない、でしょうっ・・・!?」


そのロアンさんの言葉に、皆さんギリッと歯軋りをする。

皆さんも、頭では分かっているのだろう。

状況は非常に悪い。

呪印石(カースド・ストーン)】の存在。

サイゲイの凶行。

キールさんとロアンさんの脱落。

今、この間にも【呪印石(カースド・ストーン)】に惹かれた【魔獣】や【モンスター】が近寄って来ているのが、ピリピリとした緊張感と共に伝わってくる。

もちろん、皆さん、歴戦の猛者達であるから、そう易々とはやられはしないだろうが、士気の低下は否めないだろう。

更に、サイゲイが何らかの拍子に【呪印石(カースド・ストーン)】を破壊してしまったら・・・。

全滅、と言う文字が現実味を帯びる。

そうなれば、もちろん、クヌートにも防衛戦力は残っているが、その戦力だけで、【呪印石(カースド・ストーン)】の影響で凶暴化した【魔獣】や【モンスター】の対応に当たらなければならなくなる。

現状の打開の為にも、体勢を立て直す為にも、ここは一旦退く場面なのだ。

例え、キールさんを見殺しにするとしても。


「行けっ、皆っ!!!俺、の、事は、構うなっ・・・!!!」


キールさんも、それを理解しているのだろう。

麻痺の影響を受けながらも、懸命に声を張り上げる。


「嗚呼っ、何て気高く慈悲深い方なのでしょうっ・・・!!!その貴方を、今、私だけのモノにっ・・・!!!」


サイゲイは、そのキールさんの言葉にうち震え、恍惚とした表情を浮かべている。

そこに、【魔獣】や【モンスター】が現れた始める。

もはや、悩んでいる時間も無かった。


「くそおぅぅぅぅっーーー!!!退け、退けぇっーーー!!!」


悔しさを滲ませながら、皆さんが撤退戦を開始した。


「トモキっ、逃げるぞっ!!!動けるかっ!?」


それに従い、プラドさんも撤退すべく俺に声を掛けてくれた。

しかし、子供っぽい考え方でも、俺はその判断に納得がいかなかった。


「えっ!?」


その俺の“想い”に呼応する様に、俺の“内側”から【()】が溢れてくるのだったーーー。



誤字・脱字があれば、ご指摘頂けると幸いです。


ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。お嫌でなかったら、是非よろしくお願いいたします。


また、もう一つの投稿作品、「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」も、本作共々御一読頂けると幸いです。

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