勇者アイザワ・トモキの憂鬱 2
続きです。
こちらの作品は、もう一つの作品とは差別化を図るべく、本編上での解説を少なくする方法を試しています。
ご意見、ご感想等ありましたら、ご一報頂けると幸いです。
◇◆◇
こうして【異世界・エンドゲイト】にやって来た俺は、【女神様】の発言通り、【チュートリアル】を教えてくれそうな人物のもとに送られていた。
まぁ、もっとも、その方法はかなり大雑把だった訳だが・・・。
俺が立っていたのは、何処かの街だった。
そこは俺が想像していたよりも遥かに近代的で、もちろん様々な所で相違点もあるものの、現代日本とはまた違った意味で、立派な街並みや建物が建ち並ぶ場所だった。
とは言え、【異世界】感がないかと言えばそんな事はなく、身に付けている服装は様々で、現代日本では見掛けない様な“全身鎧”に身を包んだ人もいれば、“剣”や“弓”などと言った所謂“武器”で武装した、現代日本ならまず間違いなく“銃刀法違反”で捕まりそうな人もチラホラと見掛けた。
もっとも、“町人”の様な人や、“土木作業員”の様な人、“農民”の様な人など、所謂“一般市民”の方が圧倒的に多かったのだが、しかし、そうした武装した人々もごく自然に、特に違和感を覚えた様子もなく、街と調和している様な感じであった。
また、屋台の主人とおぼしき男性が、おもむろに俺にはよく分からない謎の【力】を発動しているシーンも目撃したりもした。
別に特別な道具を使っている様子は無かったし、もしかしたら、アレが【女神様】の言っていた【魔法】なのかも知れないなぁ。
色々物珍しくてキョロキョロしていたのだが、ハッと俺は気が付いた。
これではまるで“おのぼりさん”ではないかっ!?
改めて自分の状況を確認する。
【女神様】の言う通り、生前と変わらない肉体がそこに存在し、特に身体に違和感は覚えないし、手足もしっかりとあった。
だが、服装は、もちろん現代日本のモノだ。
まぁ、裸でなかっただけマシだが、その服装はこの街では、ハッキリ言って目立つ事この上ない。
辺りを窺うと、ヒソヒソと内緒話をする奥様方を見掛けるし、その視線の先は俺の方を向いている気がする・・・。
これは、結構マズイ状況でなかろうか?
「あぁ~、そこの君っ!そう、黒髪で珍しい格好をしている、そこの君だっ!!」
「へっ・・・!?」
そう内心焦っていると、明らかに“衛兵”然とした軍服っぽい服装を身に纏った男性数名に囲まれていた。
ヤバっ!
この人達、相当出来るぞっ!?
これでも、浅野先生に鍛えられた俺は、少しばかり自分の【力】に自信を持っていたのだが、混乱していたとは言え、こうもアッサリ囲まれるとは・・・。
「少し、お話し聞かせて貰えるかな?」
「はい・・・。」
抵抗しようすれば出来ない事は無かったが、ここで無意味に暴れる訳にも行くまい。
この人達は、現代日本で言う所の、“警察”に相当する人達だろうからな。
おそらく、“市民”からの通報を受けて来たのだろう。
こうして俺は、【異世界】生活初日にして、しょっぴかれる事となったのだったーーー。
・・・
「はい、それじゃあ【身分証】出してねぇ~。」
「へっ?【身分証】っ??」
“詰め所”、現代日本で言う所の“交番”の様な所に連れてこられた俺は、取り調べを受けていた。
っつか、【身分証】って、やっぱり意外と近代的なんですね。
いや、結構歴史物の小説などでも【身分証】に相当するモノはあった気もするので、俺の知識が偏ってるだけかも知れんが。
「いやいや、【市民証】は、まぁ、持ってないだろうけど、【冒険者カード】か【交易許可証】くらい持ってるでしょ?それが無いって事は、【密入国】って事になるけど・・・?」
「えっ!?」
じと~っ、と疑いの眼差しを向ける“衛兵”のお兄さん達。
彼らの“常識”上、これは完全に俺が“不審者”になるんだろうなぁ。
いや、しかし、俺には俺で言い分があるのだが。
「いやいや、待ってくださいっ!俺にも“事情”がありましてっ!!」
言って、何と言うべきか俺ははたと疑問に思った。
「【異世界】から【女神様】に送られてやって来たんですっ!」、と言った所で通用しないだろなぁ、多分。
俺が言い淀んでいると、“衛兵”のお兄さんは溜め息を吐いて話を進めた。
「ま、とりあえずいいか。じゃあ名前と出身くらいは言えるでしょ?それで、こっちでも調べるからさぁ~。」
面倒な奴を捕まえちまったなぁ、と言う雰囲気だが、俺は俺で【異世界】生活初日からこんな状況で、もはや泣きそうである。
ちょっとちょっと【チュートリアル】はどーしたんすかっ!?
頼んますよ、【女神様】ぁっ~!!
「僕は相沢智輝と言います。【地球】の【日本】から来ました・・・。」
内心【地球】だ【日本】だと言っても分かんないだろうなぁ~、と思いつつ、俺は正直に話すのだった。
しかし、“衛兵”のお兄さん達の反応は劇的で、ザワッと緊張感が走った様に感じた。
「・・・【チキュウ】っ!?今、【ニホン】と言わなかったかっ!!??」
「そう言えば、服装も、どことなく【伝承】にある不思議な材質で出来ている様だし・・・。」
「名前もこの世界では馴染みのない不思議な名前だな・・・。」
「名前も服装もそうだが、容姿も【伝承】にある【異世界人】と類似した点が多い様な気がするが・・・。」
「上に報せた方が良いのではないかっ・・・?」
「そうだなぁ~。そんなお達しもあったよなぁ、確か。」
ガヤガヤと意見を交わす“衛兵”のお兄さん達。
こうして、あれよあれよと言う間に、俺はこの国・【エンヴァリオン】の、【武王】・ガーファンクル王と謁見する事となったのであったーーー。
◇◆◇
「おうっ!オメーさんが新たに現れた【異世界人】かっ!俺ぁ、ガーファンクル・エンヴァリオンだっ!うぅ~む、やはりショータ達に雰囲気が似てんなぁ~!」
「は、はじめまして、王様っ!!俺、いえ、私は、相沢智輝と申しますっ!!」
「おうっ、トモキかっ!よろしくなっ!!何、そう畏まるこたぁ~ねぇ~よ。普段通りやってくれやっ!!」
ガッハッハッ、と豪快に笑い飛ばすが、そいつは無理な相談ですよ、王様。
【武王】・ガーファンクル王は、まぁ、所謂白人系の顔立ちだから、日本人である俺には詳しい見分けはつかんけども、おそらく50代に差し掛かろうかと言う年回りのオッサンだった。
しかし、その肉体から溢れ出す“覇気”とも“闘気”とも取れない圧力は凄まじく、【武王】の名に恥じない、何かしらの武術の達人である事がまだまだ未熟な俺にも分かった。
もしかしたら、浅野先生すら上回るほどの力量を有しているかも知れない。
俺がイメージしていた王様っぽい立派な身形はしているものの、その筋肉粒々の古強者然とした体格は、流石に予想外であった。
衣装がパッツンパッツンじゃないですか、ヤダー。
もちろん、一国の最重要人物だけあって、謁見の間みたいな場所には、彼の部下だろう、これまた今の俺では到底敵わないだろう歴戦の猛者達がひしめき合っているし、所謂デスクワークを担当する文官みたいな人達も、妙な迫力を持っている。
しばらく前まで、普通の(まぁ、少しばかり武術には精通していたが)高校生だった俺が渡り合うには、ちと荷が重すぎるっすわ~。
「まぁ、良いかっ!んじゃ、トモキっ!!この世界に来た詳しい経緯を聞かせてくれやっ!!!」
「えっ!?い、いや、し、しかし・・・。」
どうやらガーファンクル王の様子から、俺の様な【異世界人】を知ってる風だったが、正直に話していいもんか俺は迷っていた。
いや、【女神様】の発言では、【チュートリアル】を教えてくれそうな人のもとに送るって話だったけど、それがこの人かどうか分からんし。
それに、この手の話だと、国の陰謀なんかに巻き込まれる話も多いしなぁ~。
「陛下からの下知であるぞ、無礼者っ!さっさと話さんかっ!!」
「っ!!!」
俺がそうこう迷っている内に、ガーファンクル王の近くに侍る“騎士”然とした人が、鋭い視線を飛ばしながら、俺の様子に苛立たしげに声を荒げた。
元“いじめられっこ”として、一応は克服したつもりだったが、その怒声に俺は若干ビビってしまった。
やっぱ、こえ~もんはこえ~。
「バカもんっ!!俺がトモキと話しとるんだっ!余計な口出しするなっ!!」
「っ!し、失礼しましたっ!!!」
しかし、先程までのフレンドリーな態度から一転して、威厳のある為政者として、ガーファンクル王は部下を一喝した。
ビリビリと伝わってくる威圧感に、その“騎士”は平伏して謝罪した。
おぅふ、住む世界がちげー。
「おうっ、わりぃ~な、トモキっ!こいつら、基本荒くれ者上がりだから、口の効き方がなってなくてよぉ~。まぁ、根はわりぃ奴等じゃねぇ~から、勘弁してやってくれやっ!!!」
「は、はぁ・・・。」
「それに、オメーさんもそんなビビる必要はねぇ~よ。俺はオメーさんの様な【異世界人】達を知ってるし、オメーさんの【力】の事も知ってる。だが、国の為に悪用させるつもりは毛頭ない。後々大きな火種になるだけだからな。王の名において約束しても良いぜ?だが、こっちにもちっと“事情”があって、オメーさんの事は知っておきたいのよ。オメーさんも、この世界の事を知りたいだろ~し、“不審人物”として拘束され、自由に動けないのは、あんまり良い事じゃねぇ~だろ?」
やっぱり、【異世界人】の存在を知っている様だ。
王たる者がここまで言ってるのだから、俺も覚悟を決めて正直に話す事とした。
このままじゃ、話が進まないしね。
・・・
「ほうほう、【神】を名乗る女にこの世界に送られて来たんだな?」
「は、はいっ!!」
「ふむ・・・。(ショータ達とは、大分状況が違うんだな・・・。しかし、嘘を言ってる様にも見えん。本来なら、【異世界人】がこうも頻繁に現れる事など記録にないから、【魔神戦争】からこっち、何らかの“異変”が起こっているのだろうか・・・?俺が直接出向く事は出来んが、ハヤトに久々に連絡を取ってみた方が良いか・・・?)あいわかった。んじゃ、トモキはしばらく俺の客分として、この城に滞在するが良い。」
「えっ!?」
ザワッ!!!
いやいや、王様、堂々と宣言してますが、貴方の部下達もザワついていますよ?
まぁ、ある意味、“王様”って事なんだろーが。
っつか、アッサリ信じるんすね。
「見た所、オメーさんはその歳にして、かなり出来そうだが、こちらの世界の“事情”には疎いだろう?しかし、【神】を名乗る女に遣わされた以上、使命、とまでは言わないが、オメーさんがこちらの世界にやって来た何らかの意味がある筈さ。そんなオメーさんが、こっちの世界の【ルール】を知らなかった事によっておっちんじまったら、引いては俺らにとっても不利益に繋がるかもしれねぇ~。それに、オメーさんの【力】を悪用するつもりはねぇ~けど、悪感情を持たれるよりかは仲良くやっといて損はねぇ~だろ?オメーさんが進んで協力してくれるっつーなら、こっちも拒む理由はねぇ~からよ。まぁ、そんな訳で先行投資だと思って、まぁ、気楽にやってくれやっ!!」
ガッハッハと豪快に笑うガーファンクル王。
しかし、その慧眼・観察眼は流石の一言に尽きる。
俺の“立ち居振舞い”から、武術の経験者である事をアッサリ看破した。
しかも、ただの脳筋って訳でもなく、柔軟で頭も回る様だし、人を口説くのも上手い。
確かに、【女神様】は明確に俺に使命は与えなかったが、俺をこちらの世界に送った以上、何らかの意味はあるかも知れない。
何にしても、この世界の【ルール】を把握する事は、俺に取っても悪い話じゃない。
【女神様】の言っていた【チュートリアル】を教えてくれそうな人ってのは、この人で合ってるんだろう、多分。
なかなか食えないオッサンだが、俺はこの人の事を信用してみる事とした。
「分かりました。よろしくお願いいたしますっ!!」
「おうっ!!!キールッ、ロアンッ!しばらくトモキの面倒を見てやれっ!!」
「「ハッ!畏まりましたっ!!」」
そう言うと、ガーファンクル王は部下の二人に俺の面倒を丸投げした。
っつっても、一国の王様なら、俺には到底想像もつかないほど忙しいだろうから、まぁ、当たり前なんだろうが。
「俺は、エンヴァリオン近衛騎士団の団長をやってるキール・サラマだっ!よろしくな、トモキっ!!」
「私は、エンヴァリオン宮廷魔道士・筆頭のロアン・エンヴァリーです。よろしくね、トモキくんっ!」
快活そうな赤毛の爽やかイケメンのお兄さんと、おしとやかな銀髪色白お姉さんがそう前に出てきて俺に自己紹介をしてきた。
これが“リア充”かぁ。
少し前の俺とは、住む世界が違うなぁとか思いつつ、今は色んな人達とも関わっていかなきゃならない。
若干気後れしながらも、俺も挨拶を返すのだった。
「は、はじめまして、サラマさん、エンヴァリーさん。僕は、相沢智輝と言いましゅ。よ、よろしくお願いいたしますっ!!」
噛んだぁっーーー!!!( ; ゜Д゜)
恥ずかしいぃっーーー!!!( ; TДT)
しかし、二人は気にした様子もなく、朗らかに笑った。
「緊張する必要はないさ、トモキ。王が君を客分として認めた以上、トモキは俺達にとっても大事なお客さんだ。それと、俺の事はキールでいいぜっ!」
「慣れない環境で大変でしょうけど、一緒に頑張りましょうねっ、トモキくんっ!後、私もロアンで結構ですよ。」
「は、はいっ、キールさん、ロアンさんっ!!!」
あぁ、ええ人達や・・・。
そこ、チョロいとか言わない様にっ!!!
まぁ、何にせよ、俺はこの世界で何とかやっていけそうな手応えを感じて、ようやく少し安堵するのだったーーー。
◇◆◇
キールとロアンが、トモキを伴って謁見の間を出ていくと、複数人のガーファンクルの部下達は、彼にすかさず進言した。
「よろしいのですか、陛下。【異世界人】の【力】は有用です。そんな者に“自由”を与えるなど・・・。」
「それこそ、【魔道具】で【エンヴァリオン】に“縛りつけて”しまった方がよろしいのでは・・・?」
「と、申しますか、奴は“使える”んでしょうか?まぁ、多少は“心得”がある様ですが、私にはそこまでの“人物”であるとは、到底思えませんでしたが・・・。」
「おうっ、何だいっ?俺の決定が不服だってのかいっ?」
ジロッとガーファンクルは威圧を放つ。
部下はそれにたじろいで、口ごもるのだった。
「い、いえ・・・。」
「けしてそう言う訳では・・・。」
「・・・フゥ~。いや、悪かったな。オメーさん達の意見ももっともだ。しかし、オメーさん達は本物の【異世界人】に会ったこたぁねぇ~だろ?知ってる奴も多いだろ~が、俺ぁ若い頃に、【英雄達】と共闘した事がある。確かに【異世界人】の【力】は有用だし、その【力】に【利用価値】を感じるのも分からん話ではないが、【異世界人】も【人間】だぜ?“意思”もありゃ、“感情”もある。そんな奴等を無理矢理従わせたって、結果は目に見えてるだろ?【魔道具】にしても完全な悪手だ。【異世界人】にはその手のモノには耐性がある様だしな。なぜ【英雄】とまで呼ばれた【異世界人】が【表舞台】から姿を消したのか?少し考えりゃ分かる話だと思うがねぇ~。」
「っ・・・。」
「それはっ・・・。」
ガーファンクルの部下達も、その“裏”の“思惑”はともかく、表向きは【エンヴァリオン】の“国益”の為に進言していた。
それを簡単に論破されて、更に言い淀んでしまう。
「それ故、トモキに手出しする事は一切禁ずるっ!!!彼とは、さっきも言ったが【友好関係】を結んだ方が得策だ。彼に対して奸計を目論む事は、引いては【エンヴァリオン】の不利益に繋がる恐れもあるし、最悪の場合は、【英雄達】と矛を交える可能性すらあるからなっ!!!」
「そんなっ・・・!?」
「まさかっ・・・!?」
ザワッとガーファンクルの部下達はざわめいた。
彼らはガーファンクルと違い、【英雄達】を伝え聞いた事しかない。
それ故、本当の意味で想像出来ていない。
【異世界人】達が持つ、特異な【異能】を、そして、その【行動原理】を。
しかし、【武王】とまで呼ばれ、【魔神戦争】の【立役者】でもあり、大きな打撃を受けた【エンヴァリオン】を建て直した【救国の英雄】たるガーファンクルの言葉は重い。
半信半疑ながらも、部下達は彼の決定に従うのだった。
「分かったか?分かったら解散っ!!!」
「「「ハッ!!!」」」
しかし、そんなガーファンクルを持ってしても、人心を完全に掌握する事は難しい。
人は、“正しい事”を信じるのではなく、自分の“正しいと思った事”を信じるのだから。
幾人かの部下達に、不満の色を感じながらも、ガーファンクルにはそれ以上掛けられる言葉は無かった。
彼の部下とは言え、最終的にどう行動するかは、その“個人”次第だ。
彼は、その事をよく知っていた。
「フゥ~・・・。ままならぬものよ、“人の心”と言うヤツは・・・。」
王座にて、ガーファンクルは若干疲れた様に、そうひとりごちるのだったーーー。
誤字・脱字等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると、作者が調子に乗ります(笑)。
と、言うのは冗談ですが、モチベーションが上がりますので、お嫌でなかったら、是非よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」も、本作と共々ご一読頂けると幸いです。




