イクタ編
至って非日常の生活だった。何一つ自由など無かった。
五月雨幾太:《アンフィニッシュド・パズル》
僕は自分自身が未完成だと感じていた。誰とも話せないし、自分の性格も、情緒も安定してない。そのせいか、色んな人から虐められた。
イクタ「ま、またやるの?」
その日、僕はいじめっ子たちに呼ばれて《いつもの》をやることになった。
「あたりめーだろ!」
「人と話せねぇくせに、口ごたえするんじゃねぇ!」
その瞬間、腹部に鈍痛が走った。蹴られたのだ。
イクタ「い、痛いよ!やめ、て…。」
《いつもの》とは、単純な暴力だ。毎日とまではいかないが、ちょくちょく連れてこられては暴力を受けている。
殴る、蹴る。蹴られたと思ったら殴る。まさにサンドバッグだ。
イクタ(もう、やばい。誰か、助けて…!)
僕がそう思った時だった。
シュウキ「…何やってんだ?お前ら。」
そこに来た黒髪の少年。僕にとってまさしくヒーローのような存在だった。
「やべ!見られたぞ!」
「逃げろ!」
いじめっ子たちが逃げていく。
二人きりになったその場で話し合う。
シュウキ「…暴力を受けてたみたいだったが、いじめか?」
イクタ「…そんなとこ。クラスのみんなは見て見ぬふりさ。自分は標的になりたくないと言わんばかりにね。」
まだ痛む体で言った。
シュウキ「親は?親だったら異変に気づくだろ?」
イクタ「親は両方海外で働いてるんだ。そして危ない仕事だからって僕をここに置いていった。一応、お金は送られてきて、それでパンとか食べてる。」
シュウキ「そうか…。」
彼は聞くべきじゃなかったと後悔した顔になった。
イクタ「気にしないでよ。でも、身近に親しい人が居ないからいじめの対象になったのかも。」
シュウキ「じゃあ友達になるか?だったら対象にならないんじゃないか?」
イクタ「えっ!?」
急なことで驚いた。まさか友達になろうと言うなんて夢にも見なかったからだ。
イクタ「でも、君も危ないよ!君まで虐められちゃう…。」
シュウキ「俺には兄が居て、アイツらよりも年上だから大丈夫だ。」
イクタ「…僕が、友達になってもいいの?」
シュウキ「ああ。断ることなんかしない。」
それから僕たちは友達になった。遊ぶようにもなったし、更にはいじめっ子からいじめがなくなった。幸せだった。
あの日までは。
一瞬の出来事だった。辺りは豪炎に包まれ、地獄絵図のようだった。
気がつくとそこは病院だった。
イクタ(あれ、何があったんだろう?)
記憶が曖昧だった。確か、中学の入学式に行く途中で…
記憶が蘇る。
イクタ(そうだ!シュウキくんは!?ユウヤさんは!?)
僕はそのまま飛び出した。
所々傷が痛むが、走れないほどじゃない。
イクタ(どこに、どこに?)
どこにもいなかった。というより探せなかった。
イクタ(多分、違う病室とかにいるのかな?)
そんな呑気なことを思っていた。
2人が死んだということを聞かされたのは少し後のことだった。
病院から退院して、学校に行くことになった。
僕の周りにはもう、親しい人が居ない。これは、絶望の日々の始まりを示していた。
「おい、イクタだよな?」
イクタ「…うん。」
話してきたのは、小学の時のいじめっ子たちだ。
それから3年間の苦しみは想像に難くない。
僕でもありえないと思ったほど、よく頑張ったと思う。耐えきったのだ。僕は高校生になった。その入学式初日のことだ。
イクタ(ここからやり直すんだ…!シュウキくんとユウヤさんの分まで頑張んないと!)
僕は入学式が終わり、家に帰ろうとした。
「おい、イクタ!」
呼び止められた。その声に聞き覚えがあった。…いじめっ子たちだ。しかも、《身に覚えのある制服》を着て。
また、悪夢の3年間が始まる。
その時からだろうか。何故か居眠りが多くなっていって、気がついたらいじめっ子たちが居なくなっている。まるで、《眠っている間に自分が動いて追い払っている》ような…。恐らく気のせいだろう。
そして、18歳となった僕は、いじめっ子たちによって殺された。
事故だったが、その原因を作ったのは彼らだ。
電車のホームで徐々に線路に押しやられ、足を踏み外した。最後に覚えているのは、左から眩い光が迫っていることくらいだった。
…
イクタ(ここは?)
気がつくと見知らぬ個室のような場所に居た。
机の上にはメモが置いてあり、ロビーへ向かうようにと書いてあった。僕はロビーへ向かった。
マナ「あんたもここに連れ去られて来たんか?」
ロビーにつくと、早速少女が話しかけてきた。
イクタ「うん。ここはどこ?」
サイト「僕は…知らない。」
11人集まったくらいに、モニターのようなものが点き、仮面の男が映し出された。
そこでデスゲームの大まかな説明をされた。みんなは最初驚いていた。しかし、僕は、やるしかないという闘争本能に少し駆られたのは否定しない。
ゲームマスター「1人いらっしゃらないので、どなたか呼んで頂けるとありがたいです。」
イクタ「じゃあ、僕が行くよ。」
ゲームマスター「早く連れてこなければ、全員ゲームオーバーとさせて頂きます。」
僕は慌てて呼びに行った。
僕は驚愕した。
イクタ「なん…で?」
そこには、まるで僕と同年代に成長したかのような、シュウキくんが居たからだ。
その瞬間、このゲームの真相を知った。ここは死後の世界だと。ということは僕も死んでいるのか。だけど、死んだ時の記憶が無いな。
イクタ(このことをいきなり晒すと混乱しかねないし、自暴自棄になってしまう人もいる。その他にも懸念が…。だから、平静を装おう。)
これが、僕の信念だった。
…
信念なんか儚い。俺様に歯向かう奴は殺せ。
俺様はイクタのもう1人の人格、アツキだ。
なぜ生まれたか?それは、イクタがいじめられたストレスから、人格が分断されたんだ。要は俺様は、イクタの自己防衛機能のようなもんだ。
さて、そろそろ目覚めるか。
ん?今、隣には…誰だこの水色の髪のガキは。
俺は聞いてみる。
アツキ「おい、誰だぁ?てめぇ。」
最初、こいつは無言で目を見開いてやがった。その後に言った。
サイト「…もしかして、君はイクタくんに乗り移った悪霊かなんか?」
アツキ「あ?俺様はイクタのもう1つの人格だ。」
こいつは笑ったんだ。
サイト「そっか!多重人格なんだ♪何、目的は?」
アツキ「…人を殺す。歯向かうやつは。」
サイト「なんで僕を殺さないの?」
アツキ「まず、状況を把握してぇ。それからでもいいだろう?」
そいつは言った。
サイト「じゃあ、協力してよ。大丈夫、絶対にwin・winの関係になるから…さ♪」
俺様たちはそこから協力関係を結ぶことにした。
そして、
サイト「その人、殺しちゃっていいよ♪」
アツキ「…いいのか?」
目の前に居たのは白髪のガキだ。ガキばっかだな、ここ。
メイカ「まさか、イクタさんが多重人格だったなんて…予想外っすよ。」
アツキ「…俺に女を切る趣味はねぇ。」
サイト「いいの?これは、イクタ君を苦しめる人だよ?それに、この人は死にたがってる。」
アツキ「何?」
メイカ「…バレてたっすか。」
俺は元はイクタの人格だ。イクタに危険が及べば、俺も死ぬ。
と、水色のガキは、白色のガキと何か話してるみたいだった。
サイト「いいよ♪殺しても。」
俺は《一思いに、こいつの動脈を切った》。
白色のガキは声も上げずに死んだ。
その後…水色のガキは俺から刀を奪うと、白色のガキを切りつけ始めた。そして言った。
サイト「君に、お願いがあるんだ!君に、サイコパスキャラを演じて欲しいんだ!」
アツキ「…あ?」
俺は歯向かう奴は殺すだけで、サイコパスでは無い。殺害本能はない。
サイト「本当にお願いだ!イクタくんの親友の、シュウキくんを助けるチャンスなんだ!このゲームを終わらせるために!」
こいつとは全く縁が無いが、こいつの顔は真剣で、信じたいという感情が湧いてきた。
アツキ「…正確にはどうすればいい?」
水色のガキから計画を話された。俺は渋々納得して、俺は、審議?とやらでサイコパスを演じることになった。
…
目が覚めると、既に審議が終わっているような雰囲気だった。そして、説明された。
イクタ(僕にもう1人の人格が…薄々気づいてたけど、まさかそんなにサイコパスだったなんて!)
そして、僕は死ぬことになった。
イクタ「僕の契約は、契約を知られることの禁止だ!」
こう叫んで。
…
僕は…結局何ができたんだろう。
イクタ(未完成な僕に何が?)
アツキ(未完成?何を言ってるんだ?お前は十分良くできた奴なんじゃねえのか?)
イクタ(もしかして、君が、僕の…?)
アツキ(ああ。もう1人の人格、アツキだ。)
イクタ(なんで、なんでメイカさんを!?)
アツキ(頼まれた。水色のガキに。)
イクタ(水色のガキ?サイトくんに?)
アツキ(お前は、黒色のガキを守りたかったんだろ?それに、ここだけの話、白色のガキは死にたがってたらしいぜ。)
イクタ(シュウキくんを守りたかったし、メイカさんが死にたがってたのは薄々分かってた。でも、どう関係が?)
アツキ(サイトは、電子ウイルスってのを仕込んでたらしい。それでもしかしたらゲームが終わるとか何とかって言ってた。)
イクタ(…!じゃあ、シュウキくんは助かるの!?)
アツキ(さあな。とりあえず、俺たちはもう死んだんだ。ゆっくりと見守ってようぜ。完成済みのイクタくん。)
イクタ(ふっ、なんだよそれ。)
シュウキくん、君が居たから僕は僕で居られた。僕が完成したんだ。だから、君も真実を完成させてくれ。君の脱出を願ってるよ…。




