早くも心が折れそうなう。
なんでこんなことになったんだろう。
俺、なにか間違えた?
俺はただ、引きこもってオタクな趣味に身を投じているだけではいけないと、部のみんなをピクニックに誘っただけである。
決してこんなことになるような、悪い提案はしていない。
そのはずなんだが・・・。
「・・・・・」
ひらひらのスカートに、ブリティッシュなシャツとベストを着込んだ俺は、なぜか濃い茶色のロングヘアウィッグを被っている。
いわゆる女装というやつである。
「いいねえ。似合う似合う」
笑いをこらえている篠岡を殴ってやりたい。
溢れ出る殺意を隠そうともしない俺がぎろりと睨むと、篠岡はごめんと言いつつもなお笑いをこらえ続けた。
マジでこいつ処してやりたい。
「やっぱり靴下はニーソックスにして正解だったねえ!可愛いよお、はあはあ」
ああ・・・滅多に見られないであろう、あんこの私服姿だというのに。双子ちゃんの私服姿だというのに。
それを愛でる余裕すら、俺には与えてくださらないというのか。
この世に神なんていなかったんやで、なんてぼんやりと思う俺、男子高校生十七歳の春。
・・・やっぱり今からでも、部室に引きこもらない?え、だめ?殺生ですね。
遡ること、二日前。
「外に出よう。ピクニックに行こう、みんなで!」
俺は声高らかに右手を掲げて見せた。
こんな狭い部室にずっとこもっているから、妄想くらいしかやることがないんだろう。外に出て楽しく遊べば、少しは気も晴れるだろうし、歳相応の楽しみだって見つかるかもしれない。
そう思った故の提案だったのだが、困ったことに誰一人として、賛成者はいなかった。
「えー。やだよう、動きたくないもん。それより私は、目の前でイチャつく男子二人を見ていたいなあ」
俺と篠岡を指差し、じゅるりとヨダレをすするあんこ。
冗談でもやめていただきたい。俺がこいつとイチャついたことなど一度もないぞ。
「ボクも、まだこのゲームをクリアしてないの。ボクの一押しカップルがどうなるのか、とっても気になるの」
ちなみにどっちも男同士なの、と携帯ゲーム機の画面を見せてくるましろ。
見せなくていい。いやむしろ見たくありません。
「まひろも・・・まだ忙しい。ネーム、はやくあげなくちゃ」
いま、ふたりがくっつくところ。そう言って、まひろも執筆中の俺出演の同人漫画を掲げて見せる。
だからやめて?俺のSAN値がどうなっても知らないんだから。
「オレもなー。別になにもやることないけど、だからこそ?コウヤを観察する時間が大事っていうか」
「御託はいいんだよ。別に篠岡は来なくてもいいんだからな、俺としては!」
そう、俺は女子のみんなとお出かけがしたい。篠岡のホモを治すという目的がなきにしもあらずではあるが、そんなもんはあるかないかぐらいである。本音は可愛い女子たちに普通の楽しみを知ってもらい、普通の女子高生に戻ってもらいたい。そしてあわよくば、俺と青春してほしい。あくまでも健全な高校生活を、俺とともにエンジョイしてほしいのである。
だがこの子たち、困ったことに全く外に出ようとしてくれない。
はあ、やっぱりだめなんだろうか。
「ふふふ、相変わらず、オレにだけは厳しいなあ。そんなところも可愛いけど♡」
「ちょっと黙っててくれるかなあ」
尻を撫でようとする変態の手の甲に思いっきり爪を立ててみるが、何故なんだ、ピクリとも動じやしない。
「そうだ!」
にっこりと笑みを浮かべた篠岡が、何か思いついたようだ。普段からニヤついた顔なのだが、今は更に表情がニヤニヤと・・・。
嫌な予感が。
「ようは、出かけることにオレたちにとっても利益があればいいんだよ。」
篠岡の言葉に、女子三人はなるほどと頷いている。
「ふむふむ、私は・・・そうだなあ、
コウヤの可愛い女装姿が見たいでござる!!!」
ごふう!!えっ。え??ちょっと。何を言い出すんだ、あんこさん・・・。
「おお・・・。それはいい考えなの。ボクも見たいの。それにくわえて、えーすけとデートしてもらうの。それなら、おそとに出るのもやぶさかではないの」
・・・ちょっと待ってくださいます?俺にはハードルが高すぎるというか、それを許してしまったら俺という男の大事な何かが壊れてしまいそうなんですが。
「ぐふぁああっ!!それだあ!!女装してBLデートだああ!!キターーーっ!!」
鼻血を吹き出しながら床をゴロゴロ転がるあんこを横目に、どうにか反論しなくてはと言葉を探す俺。
「あの、ちょ、待っ・・・」
立ち上がりかけた俺の膝の上から、いつのまに忍び込んだのかまひろがひょっこりと顔を出した。
「あした、部費でかいだし。ぐっどらっく」
俺に拒否権はないのだった。
泣きたい・・・。
そして冒頭に至るわけである。
いったい何が悲しくて、こんな可愛らしい服を着なければならないんだろう。ああ、尊厳が。俺の男としての尊厳が・・・・。
「ビデオのじゅんび、ばっちりなの」
完全に乗り気のましろが、ぐっと親指を立てる。
「じゃあデートスタートだねえ。ぐふふふ、ぐふふふ」
既に鼻血で赤く染まった分厚いタオルに顔を埋めたまま、あんこが手を振る。
まひろはといえば、既にスマホを片手にカシャカシャと写真を撮っている・・・・。
泣いてもいいですか?
「じゃあ行こうか」
既に御察しのとおり、俺は真っ白に燃え尽きている。なので珍しく、篠岡に手をひかれるままずるずると引きずられていくのだった。
ああ。女性陣はそんな後ろにいるんだね。
外に出てくれたは出てくれたけど、思ってたのとだいぶ違う展開すぎて、もう頭が真っ白だよ俺。
ちなみに、俺が男だと気づいた方には白い目で見られましたよ。多分黄色い声で俺らを見てた女子たちなんかは、あんこたちと同じ腐女子だったんだと思う。
死にたい!!!
「ふたりのはじめてのデート、18禁バージョンは、この夏の新刊ではつばいよてい。おたのしみに。」
「まひろやめて!俺本気で泣いちゃいそう!!」
信じないでね?そんなものは存在しないからね?まじで。
この部活、迂闊に妙な提案をするとこういう目にも会うみたいです。
もうね。俺にどうしろっていうんだよっ!!