最弱の職業(魔法使い)
「我らの力の源よ、闇を照らす赤き炎よ、今ここにつどいて力となれ、我血肉を糧に顕現せよ!そして、邪悪なるものを正義の光で無に返せ」
「なぁ、あれは一体何をしているんだ?」
「っし!今良いところなんだから!」
「はぁーー……」
周りの観衆も息を飲んで見守る中、老人は深く息をはいた。
クワッ
「ファイヤーボォォル!」
老人が杖を掲げると火の玉が出現し案山子に命中した。
「おおお!」
「素晴らしい!」
「これが魔法か!」
周りからはそんな歓声が鳴り響く。
「かっこいい!流石おじいちゃ…、神官様だわ!」
アメリアも少し興奮気味にロイの肩を叩く。
「ふぅー、どうじゃったかのワシの魔法は」
「すっごくかっこ良かったよおじいちゃん!」
「ふふんそうじゃろうそうじゃろう」
「最初に言っていたのは何ですか?」
「なんじゃ知らんのかあれが詠唱じゃ、大気中にある魔力を取り込みそれを詠唱をもって解析、操作しそして打ち出す。魔法の基本じゃぞ?ロイとやらお主はもう少し勉強が必要なようじゃな」
「ロイもおじいちゃんに魔法を習えばきっと素晴らしい魔法使いになれるよ」
「ホッホッホ孫にそんなに誉められると少し照れるのぅ」
「もう、おじいちゃんったらすぐ調子に乗るんだから」
「あの…」
「大変だ!」
急に一人の男が慌てた様子で駆け込んでくる。よほど慌てていたのかしばらく声が出なかったが持ってきた水を一気にの飲み干すと再び慌てた様子で話し出した。
「近くの平野で発生した魔物がこっちに向かってきてるらしい、なんでもかなりの数だから戦えるものはすぐに東門に来てくれと先ほど連絡があったんだ」
「魔物がこの近辺に現れるなんて珍しいわね」
「いいから、早く来てくれ」
「ロイ、私達も行こう!何か役にたてるかもしれないし」
半ば強引にアメリアに引っ張られロイは魔物が現れたと言う東門にに向かった。
東門につくと、既に男たちが弓を構え鎧を来たものは門の前にスタンバイしていた。
「みえたぞ、あそこだ!」
一人の村人がそう指差した先に何やら黒い塊がこちらに向かって走ってくるのが見える。
「あ、あれが、魔物…私初めて見るわ」
「ワシも加勢しますぞ」
「あんた魔法使いか?いいからここは俺たちに任せてくれ」
「何を言う、今こそワシの魔法の出番ではないか」
「じいさんの魔法じゃ危なっかしくて見てらんないよ、味方に当たったらどうするんだ」
「む、むぅ」
「きたぞ!構え」
その掛け声とともに弓を持った者たちが一斉に構える。
「放て!」
矢が一斉に放たれ向かってきた魔物に次々と命中しその数をへらしていった。矢を抜けてきた魔物は鎧を纏った者たちが手際良く倒し無事に討伐してみせた。
魔法協会へ戻ると神官と呼ばれる老人は肩を下ろしてうなだれてしまっている。アメリアも心配そうにその姿を見つめる。
「おじいちゃん元気出して、おじいちゃんの魔法は強すぎてあの場では適切じゃなかっただけよ」
「そうかのぅ」
「そうよ!ロイもそう思うよね?」
と、突然門がバタンと乱暴に開く音がすると同時にぞろぞろと鎧を着た者たちが入り込んでくる。
「何よあんたたち」
「やぁアメリア久しぶりだね」
その中で一人偉そうな男が前に出てアメリアに話しかける。
「ジータ…一体何のよう?」
「おいおい、幼馴染みでありフィアンセの俺が訪ねて来たのにそりゃないぜ、キスの一つくらいしてくれてもいいんじゃないか?」
「それは貴方が勝手に決めてることでしょ、私は立派な魔法使いになるまで、お嫁に行くつもりなんてないんだから」
「はぁ、こんな古くさい魔法とやらになんの意味があるってんだ、お父様に頼んでこんな協会さっさと潰してもらうことにするよ」
「そ、そんなそれだけはご勘弁下さい」
「だまれじじい!こんな時代遅れの見せ物魔法になんの意味があるってんだ、税金の無駄遣いだぜ」
「ジータこれ以上おじいちゃんを侮辱したら、私本当に許さないわよ」
「っち」
「ならこうしよう、俺とそこのじいさんで一騎討ちをして、もしじいさんが勝ったらもう少し様子を見てやるよ」
「本当ですな?」
「だめよ、おじいちゃんそんな危険な事」
「アメリアよ、この魔法は何があっても守っていかなくてはならんのじゃ、私達はその昔この世界を救った魔導士様の子孫、こんなところで絶えさせてはご先祖様に顔向けできまいて」
「でも…」
「もし俺が勝ったら、この協会を潰してアメリアは俺の妻になってもらう、ここにはその新居をたてるとしよう」
「いいわ、おじいちゃんが負けるわけないもの」
偉そうな男とじいさんは、中庭に出るとお互いに向かい合った。
「それでは、これよりクライアント ジータ様とドラコ ルイ ゾルデ神官による一騎討ちを開始する」
「はは、いつでもいいぜ」
男は余裕な表情を浮かべて剣すら構えていない。神官はすぐに呪文を唱え出す。
「全く、あくびが出るぜ」
男はその場に座り込むと神官を挑発する。
「むぅ」
「おじいちゃん落ち着いて!相手の挑発にのっちゃだめよ」
「ハァー、ファイヤーボォォ…」
そう言いかけた瞬間、男は即座に立ち上がり懐に入り込むと神官が構えていた杖を弾き飛ばした。その勢いで、神官は吹き飛ばされ床にた折れ込む。
「おじいちゃん!」
「うぅ」
「はっはっは、魔法が聞いてあきれるぜそんなんじゃ世界を救うどころか、ウサギ一匹すら逃げちまうよ弓を担いだ方がいいんじゃないか?まぁ暖炉に火を着けるときには便利かもな」
周りの兵士もその男につられてゲラゲラと笑い始める。
「さてと、約束通りアメリアお前は俺と一緒に来てもらう、それとこの古くさい協会は明日にでも取り壊す」
「アメリア、すまんワシの力が及ばないばかりに」
「ううんおじいちゃんは悪くないよ」
「さぁ来るんだ!」
「いや、はなして!」
ジータと呼ばれる男はアメリアのうでを掴むと無理やり引っ張る。
「待て」
「あ?なんだお前」
「ロイ!」
アメリアはなんとか振りほどくとロイの後ろに身を隠す。
「あまりその娘を困らせるな」
「なんだこいつ偉そうに、俺を誰だか知ってるのか?大昔、魔王を倒した英雄のうちの一人英雄ベルセイドの子孫であり、この国の兵士長であるジータ様だぞ?」
「ベルセイド、懐かしい名だなそれが本当だとすればその子孫はよほど地に落ちたとみえる」
「あ?てめえなめやがって」
「やめてジータ」
「うるせえ、この俺を侮辱してただですむと思うなよ」
「男なら一騎討ちで私に挑むか?ジープとやら」
「ジータだ!いいだろう一騎討ちしてやる」
「ロイだめよ、ジータはこの国でも一番の剣豪なのおじいちゃんも勝てない相手に勝てるわけないわ、私これ人が以上傷つくところは見たくない」
「アメリア、お前は似ているな…」
「え?」
「心配ない私は負けない」
「ロイ!」
再び中庭の中央にたつと両者とも向かい合った。
「お前様は先ほど魔法を馬鹿にしていたな、せっかくだから私の魔法を見せてやるとしよう」
「おいおい、あんだけいきってたのにお前も魔法使いかよ」
はっはっは、周りからはそんな笑いが木霊する。
「にしては杖がないじゃねーか、そこのじいさんの杖でも借りたらどうだ?」
はっはっは
「お前ごときに杖は必要ない、手加減しないとお前様が死んでしまうだろうしな」
「減らず口を」
先程とは違いジータは剣を抜き身構えると一気にその距離をつめた。
「魔法なんてなぁ、なんだかんだ言ってる間に距離を詰めたら終わりなんだよ!」
素早くロイの懐に入るとその剣先を突き立てる。
「ロイ!」
しかし、その剣先はロイには届いていない、寸断のところで止まっていた。
「な、に」
「どうした終わりではなかったのか?」
「くっそ、なんでうごかねぇんだ」
次の瞬間ジータの体は逆方向へと吹き飛ばされる。
「ぐわ」
「大丈夫ですかジータ様」
「うるせえ!っくしょうあの野郎どんな手品を使いやがった」
ジータはすぐに起き上がると再び剣を構える。
「少し痛い目に合わせてやろうとお思ったがもうゆるさねぇ、死んでも後悔するなよ」
「ジータ様まさか一般人にあの技を!?」
「双竜連撃殺!」
飛び上がり振り下ろされた一振りの剣撃はその残像を二つに変えロイに襲いかかった。が、しかしその二つがロイに届くことはなく、見事に空を切りジータは空中に静止していた。
「な、なんだこれは、お、降ろせ!」
「あぁ、降ろしてやろう」
するとジータは再び吹き飛ばされるのであった。
「ぐ、おのれ」
なんとか起き上がるとまだ諦めきれないといった様子で剣を構える。
「今見せたのが、敵の動きを止める静止魔法、体を中へ浮かせる飛空魔法、どちらも補助魔法だが」
「だからなんだってんだ」
「その補助魔法でこの様だ、そして今から攻撃魔法を使うわけだが、クックどうなるかはご想像にお任せするよ」
ロイはそう言うと右目を瞑った。すると包帯をしている左目がうっすらと赤く輝きだした。
「な、な」
ジータはその光景に声も出ていない、それもそのはずロイの目の前に赤く燃え盛る焔が出現し、それは渦を巻きグルグルと形を変えながらボボボボと唸りをあげているのだ。
「これが先程ファイヤーボールと呼ばれていた魔法だが、本当の名をメギドと呼ぶ、初歩的な攻撃魔法だが…あたれば死ぬぞ?全力でよけろよ」
そう言うと同時に放たれた焔は一直線にジータに飛んでいく。
「あ、あぁ」
ジータはあまりの恐怖に一歩も動けない。そのジータの脇をかすめてその焔は後ろにあった案山子に当たると爆風と共に消し飛ばした。あまりの爆風に近くにいた兵士は吹き飛ばされる。
「これが魔法だ」