魔法使い
これは今から3000年以上も前の遥か昔のお話、人と魔王率いる魔族は数百年にわたり争いあってきました。しかし、魔王率いる魔族はその圧倒的力により徐々に人間を追い詰めていったのです。誰もが絶望していたその時、ある一人の若者が人々の前に現れました。その若者は私達にこう言ったのです。
「絶望するのはまだ早い、立ち上がるのだ私が貴方たちの光となって闇を払い除けよう」っと
若者の手からは眩しいばかりの光が溢れだし、それは魔の者達を次々と撃ち取っていきました。その一人の若者と人は力を合わせ再び魔王に挑み、見事魔を滅ぼし長い長い人と魔王との戦いは我々人の勝利で幕を閉じたのでした。
???「はぁー、やっぱり古代の魔導士様はかっこいいなぁ」
「おい、アメリアいつまで本を読んでるだ。今日は試験の日だろう?」
「はーい、パパそれじゃぁ行ってきます!」
今日は、いよいよ試験の日私が一人前の魔法使いとして認定されるかどうかの大事な日!いつか私もあの魔導士様のような魔法使いになりたいわ。
アメリアは、家を飛び出すと魔法協会のある方向へと軽やかな足取りで歩き出した。
あの角を曲がると魔法協会、というところで足を止めた。チラッと目の隅に止まった違和感に目を向けると、何やら黒い塊が道の隅に転がっている。再び角を曲がろうとしたがやはり気になって引き返す、それはなにやらもぞもぞと動いているではないか。アメリアは恐る恐る近づくとその塊の前でしゃがみこんだ。
「な、何これ新種の生き物かな…」
「お前は…」
「この変な生き物喋った!?」
その黒い塊はゆっくりと起き上がるとアメリアと目が合った。それは黒いマントを被った人だと理解した。そのマントから真っ直ぐと蒼い瞳でアメリアを見つめ返している。
「何か言いたいことがあるの?」
「…」
マントを被った者はそれ以上喋ることはなかった。アメリアはその瞬間少し後悔する、このご時世、魔王も倒され人々に平和が訪れて数千年たまに隣国との小競り合いはあるものの、こんなみすぼらしい格好で道端に倒れるような話は聴いたことがなく、ましてや今住んでいるこのアズール王国は世界でも三本の指に入るほどの大国、多少の格差はあるものの飢えで苦しんだり、行き倒れになった何て話は聴いたことがないからである。
関わらない方が良いだろうか、そう思い立ち上がる。しかし、そう思ったアメリアの足を止めたのはその者の瞳だった。真っ直ぐとこちらを見つめるその蒼い瞳はこの国では見たことがない綺麗な色をしていた。
「綺麗」
アメリアは無意識のうちにそう言っていた。
銀髪の髪に蒼い瞳はまるで宝石のように輝いている、片方の目は布で覆われており肌は色白く全く日に焼けていないといった様子、この辺りで、と言うよりこの国内でも見たことがないその容姿に思わず自然と出た言葉だった。
「あの、この国の方じゃないですよね?何処か遠くから来られたのですか?」
「……」
「あ、すみません私ドラコ・レナウ・アメリアっていいます。これでも魔法使いなんですよ!」
アメリアは自慢げに手に持っていた杖を掲げてみせる。
「ドラコ…、」
すると急にアメリアの前に顔を近づけしげしげと彼女を見つめだす。アメリアは突然のことに少し顔を赤らめる。
「わ、私の顔に何かついていますか?」
「少し目を見せてくれ」
「目ですか?」
どどどどうしよう、男の人…かどうかは分からないけど人にこんな近くで見つめられるのなんて初めてだよぉ。しかし、不思議と嫌な気持ちはしなかった。その蒼く綺麗な瞳はまるで海の底のような、見ているとだんだんその中に沈みこんで行くようなそんな気がした。
「ふむ、どうやらまだ絶えてはいなかったようだな」
「?」
「私の名はロイだアメリア、魔法使いだとか言っていたな」
「あ、いっけなーい!」
アメリアは何かを思いだしたかのようにすぐに立ち上がると、あたふたしはじめる。
「私、これから大事な試験があるんです。それでは失礼しますロイさん」
アメリアは軽く会釈をすると再び目的地へと走りだす。
「ごめんなさい、おじいちゃん遅れました」
「こら、アメリアここでは神官様と呼びなさいと言っておるだろうが、それともう開始時刻は過ぎておるぞ」
「許して、おじい…神官様」
「はぁ、全くそんなことでは一人前の魔法使いにはなれんぞ」
「おじいちゃんだって前に集落の集まりに遅れていたくせに」
「む、何か言ったか?」
「いいえ神官様」
「ふむ、ところでその後ろの怪しい者はだれじゃ?」
「怪しい者?」
振り替えるとそこには先ほど倒れていたマント姿のロイがいつの間にか立っていた。
「ロイ、着いてきちゃったの?」
「知り合いか?まぁよいもうすぐ試験だワシの実技指導もあるからすぐに来るんだ。そこの…ロイとかいったか見たところお主も魔法使いじゃろ」
「おじいちゃん分かるの?」
「魔法使いは怪しい格好をした奴が多いからのぅホッホッホ」
「それにしてもロイ、ロイと言ったか」
「知り合い?」
「いや、何処かで聴いたことがあったようなきがしたんじゃがどこだったか、ふーむ」
「おじいちゃんそれより早く早く、他の人も待たせてるんでしょ」
「おお、そうじゃったそこのロイとやらも見学していくといい」
「…」
廊下を通り抜け真ん中にある広間に人が集まっている、どうやらここで実技指導とやらをするようだ。
「おお、神官様だ」
「あの方がこの国でも数少ない魔法使いか」
「おじいちゃん普段はあまり目立たないけど、こういうのを見るとわりと偉い人なのかなって思うのよね」
「魔法使いっていうのは、そんなに珍しいものなのか?」
「うん、色々理由があるんだけど…、一番の理由は魔王が倒されて平和になったって事かな、平和な世の中にあまり必要の無いものなのかもしれないわ、そう考えると少し寂しい」
「ごほん、それでは我最高の魔法をお見せしましょう」
「あ、いよいよ始まるよ!」
神官と呼ばれる老人は、一呼吸置くと目をつむり集中しはじめた。