1.
短編ホラー完結シリーズ7作目です。
よろしくお願いします。
僕は、特別な用事が無い限り、いつも決まった日常を過ごしている。
毎朝6時30分に起きて、妻の弁当を作る事から僕の一日は始まる。
7時。夢うつつでまだ眠りたくて駄々っ子の娘を抱いて、妻が起きてくる。
娘のオムツを妻が替えている間に、僕は僕たちの朝食と娘の朝ごはんを用意する。
娘の朝ごはんの前に、妻が出勤する。
僕の作った弁当を持って、僕と娘を食わす為に妻は働く。
娘の朝ごはんが終わると、娘をしばし教育テレビにお任せして、僕は掃除、洗濯、昼食作りとあくせく動く。
それから娘が眠くなるまで少し遊ぶ。
寝相の悪い娘が大人のベッドでゴロゴロするのを横目に見ながら、僕は最近始めた小説を書く。
娘が起きると、昼食まで少し遊ぶ。
娘は大きくなった。最近は赤い車がことさらお気に入りで、床の上にわざと落として音を楽しんでいるようだ。
上下の歯がだいぶ生えてきてしっかりもぐもぐ食べる娘の成長を噛み締めながら、ぐちゃぐちゃに汚れた床を掃除して、ようやく僕が昼ご飯を食べる番。
親以外の子どもに興味を持ち始めた娘に幼児向けのDVDを見せている間、僕はスマホ片手に昼ご飯を食べる。
見ているのは、主に巨大掲示板のまとめサイト。
ジャンルは問わない。
事件、事故、ゲーム、アニメ、政治、生活。
目に付いたもの、片っ端から読む。
最近は誰でも小説を投稿できるサイトにも手を出した。
この一時間にも満たないほんの僅かな外との繋がりこそが、家に引き篭もって育児に明け暮れる僕の唯一の息抜きだった。
行儀が悪いといつも妻に怒られるけれど、なかなかやめられない。
ふと、とある記事に目が留まった。
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『あなたの霊感診断します』
どんなものかと最近始めたSNSでは、こういった色々なものを診断するのが流行っているようだ。
名前を入れると後は勝手にランダムで様々な回答を提示してくれるのが面白いらしく、何も呟く事がなくともそれだけでお手軽な話題に繋がるとして、たくさんの人が活用している。
かくいう僕も面白そうなものがあった時に名前を入れて遊んでいるんだけど、今日のホットな話題にはこの「霊感診断」が上がっていた。
何の事はない。ただそれだけなんだけど、妙に面白い。ちなみに僕の「霊感診断」は、ほんのちょっとだけあるよ、と書かれていたのは嫌だったけれども。
「霊感」を知っているだろうか。
理屈を経ないままに、ナニカが直感的に認知される超自然的な人間の心的状態の事で、一方では一部の専門家が得た説明し難い着想やひらめきなんかもそれに該当すると言われている心の動きだ。
神や仏、幽霊や超常現象を感知する感覚が一般的だが、それは第三者からは決して見えないし、個々の感覚の一つに過ぎない故に科学では証明できない。
宗教の規範で得られると信じられたり、逆に完全否定したりと、今でもその論争に決着は付いていない。
しかし科学に於ける「コロンブスの卵」は説明が付かなかったりと、「霊感」が人類の発展をもたらした点も無視はできない存在だ。
多くの人は漠然と「霊感」的なナニカがあるとは思っているが、だからといって何をするまでもない、ある意味人間の身近にある「不確かな感覚」と云えるだろう。
ふと、思い出す。
僕の話を訊いて貰えないだろうか。
娘が車遊びに夢中になっている間に。
僕の体験した、ちょっとは怖いかもしれないけれど、ほんの少し日常から外れたお話を。