第八話
新年あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します。……ネコと転移よりこちらを先に更新する事になって
何だか申し訳ないですm(__)m
「ヴァロック。大丈夫?」「ああ」
キャシーが心配して声を掛けたのに対し、項垂れ、破壊された自分の部屋の方へ仲間に支えられ戻っていくムハマドを見送りながら、軽く返事するヴァロック。
「ただ、後で詳しい話を聞かせてくれ」
ええ、勿論よ、とキャシーはムハマドの様子を見ながら返事する。ヴァロックとしては、今ここで起こってい状況を詳しく知らないと、今後自分も行動しにくいと思ったのだ。
地上での爆撃音が聞こえなくなり、慎重に様子を見るためキャシーが地表を慎重に覗いてみたら、ヴァロックがムハマドに胸ぐらを掴まれていた。それを見て慌てて止めに入ったのである。そこでヴァロックが、敵陣に一人乗り込み、ズニ派を一人も殺す事なく武器だけ破壊してきた事を、ムハマドが咎めたのだと知ったのである。
一人でズニ派の元へ? ここから相当距離有るはずなのに? しかも誰一人殺さず、ロケット砲等の武器だけを破壊した? 全て到底信じられない話だったが、ネルソンから事前に、ヴァロックが人外である事を聞いていたキャシーは、その突拍子もない話を無理やり飲み込んだようである。
「俺はヴァロックの話をもっと聞きたいけどな」後から地表に上がってきたネルソンが、未だ粉塵舞い上がり、瓦礫が散乱している地上を歩きながら声を掛けた。勿論だ、とネルソンの方を振り返り、ヴァロックは答えた。
「ムハマドの事は気にしないで。あなたのやった事は立派よ。寧ろ、無闇に人を殺す人間じゃなくて良かったと思ってるわ」
思い遣りの籠もったキャシー笑顔。その慰めの言葉に少しだけ、だがやや寂しげに微笑み、ありがとう、とお礼を言うヴァロック。とりあえず、ネルソンに続いて地表に現れたシリル派の面々は、ヴァロックが先程、攻撃してきたズニ派の戦闘員達の武器を全て破壊してきた事を聞き、またもその人外な行動に驚き呆れつつも、ほんの少しだけ慣れていたようで、キャシー同様、ヴァロックを労った。
それから皆、慣れた様子で、建物が損壊したために出来た瓦礫の撤去をし始める。幸か不幸か、ムハマドの家族の地下室以外は無事だったようで、地上が静かになったからだろう、身を隠していた女性や子ども達もいそいそと姿を現した。そして男達と同じく、瓦礫の撤去を手伝い始めた。
「とりあえず、これ何とかしないとな。俺も手伝う」ヴァロックはそう言って、近くにあった縦横5mくらい、厚さ20cm程の大きなコンクリートの板をヒョイと片手で担ぎ、皆が纏めておいている瓦礫の山にポイ、と放り投げた。ズドーンと大きな音を立てるもヴァロックは気にしない。ただ、周りで同じく瓦礫を片付けている人々、特に女性や子ども達は、その人外なパワーにあんぐり口を開け呆気にとられているのだが。キャシーも同じく、ヴァロックの行動に、びっくりした表情のまま固まっていた。
「……凄いのね。ネルソンから聞いてはいたけど、実際目の当たりにすると、とんでもない人間だって事がよく分かるわ」
そうだろう? とネルソンも作業をしつつ呆れた様子で肩を竦ませ答える。そんな外野の声を気にせず、どんどん大き目の瓦礫を片付けていくヴァロック。時には瓦礫を殴ったり蹴ったりして砕いているその様は、正に削岩機のようである。そしてヴァロックは、コンクリートを知らないので、様々な形状をし、中に鉄筋が入っている、建物の壁になっていたそれを不思議そうに見ながらも、とりあえずどんどん片付けていった。
「よし、こんなもんだろう」ある程度片付け終わり、パンパン、と手をはたくヴァロック。本来なら重機を使って片付けないとはかどらないはずの作業が、ヴァロックのおかげで一時間程度で地表が見えるほど瓦礫が片付いた。
まるでスーパーマンのようなヴァロックに、同じく瓦礫の撤去を手伝っていた子ども達が興味津々な様子で見つめている。それに気付いたヴァロックは、「シロ。飛べ」と、先程からずっと地面に突き刺していた白龍の大剣に指示をした。
『主よ。我は偉大で高貴なる白龍なのですぞ。子どもを喜ばせる遊具では御座らん』「いいからさっさとやれ」
一応反論してみたものの、当然主に逆らえない白龍の大剣。はあ、と大剣からため息? が聞こえたような気がしないでもないが、白龍の大剣ことシロは、仕方無さそうにふわりと浮かび上がった。
「うわあ! あの大きな剣浮かんだよ!」「かっこいい!」「すごいね!」子ども達から歓声が上がる。それからシロは、子ども達の周りを飛びながらぐるぐる周る。ますます子ども達の眼がキラキラ輝く。
そして当然、周りで見ている大人達も驚いた表情。特に女性達は、偵察に出ていた男達のように、ヴァロックの人外な行動を見ていないので、目の前の不可思議な現象に戸惑っている様子だ。
「ハハ。正にアベンジャーズだな」ネルソンがまたも呆れたように呟く。
「でも、悪い人じゃないのは分かるわね」同様に呆れた表情のキャシーだが、どこか微笑ましく、この不思議な現象を見ている。元々娯楽が一切ないこの紛争地域で、ヴァロックの子ども達に対するこの振る舞いは、事情を知るキャシーとしても嬉しかったようだ。
「お兄ちゃん凄いんだね!」一人の少女がまだ残っている方の足で、けんけんしながらヴァロックの元にやってきた。それを皮切りに、他の子ども達も、ヴァロックの元に一斉に集まった。
「そうか? まあ俺は前の世界でも恐れられてたからなあ」ワハハと豪快に笑うヴァロック。そして片足のない少女の頭を、その大きな手で優しく撫でた。
「……俺が魔法使えたらなあ。その足何とかしてやったんだが。すまねぇな」そして申し訳なさそうに呟くヴァロック。ヴァロックの言う通り、彼が前いた世界では、魔法で治癒を行う事ができる世界だった。だが、残念ながらヴァロックは魔法が使えない。
「ううん。お兄ちゃん魔法使いだよ。だって敵の武器壊したし、あの大きな剣飛ばしたし」そんなヴァロックの表情を気にしない様子で、にこやかに答える片足のない少女。
「そうか。強ぇんだな」その言葉を聞いたヴァロックは、またも優しく少女の頭を撫でた。それから子ども達は遠慮なくヴァロックに纏わりつく。それが嬉しかったのか、ヴァロックは子ども達を、上空10mくらいまで子どもを放り投げたり、時には一緒に上空高く飛んだりして遊んでやった。
『……主。我はいつまで回っておればよいのだ?』そしてヴァロックが子ども達と楽しそうに遊んでいるのを尻目に、未だぐるぐる空を回っているシロさんでした。
※※※
「ごめんねヴァロック。こういうところだから満足な食事は摂れないのよ」申し訳なさそうに答えるキャシーに、笑顔で気にするな、と答えるヴァロック。そして差し出された非常食の缶詰を珍しそうに見つめる。中身はコンビーフ。実はキャシーが地元ニュージーランドから持ってきた、とっておきのご馳走だったりするのだが。
そしてキャシーに缶詰を開けて貰い、遠慮なくヴァロックはコンビーフを口にする。「おお、美味いな」初めて食べる異世界の味。とても興味津々な様子だ。そしてコンビーフは気に入ったようで、体の大きなヴァロックは、当然一つでは足らない様子に、遠慮なく召し上がれ、とキャシーが笑顔で大盤振る舞いで五つ程差し出した。
そんなキャシーを呆れ顔で見ているネルソン。
「つーか、あんた達は何も食わないのか?」五つ目を平らげ、それでも足らない様子だが、これ以上は遠慮しておこうと我慢しながら二人に問いかけるヴァロック。
「ああ。俺達はホブスがあるから」そういって丸型のパンを千切って口に運ぶネルソン。ホブスはシリアでよく食べられているパンである。キャシーも同じくホブスを千切って口に頬張る。そしてネルソンが地元オーストラリアから持ってきた、缶詰に入ったえんどう豆を、スプーンですくって口に運んだ。
「食べたいか?」「ああ。異世界の食事は興味ある」ヴァロックが興味津々な表情でホブスを見ているのを見て、ニコっと笑いながらネルソンがホブスを一つ分け与えた。ややぱさついた、小麦粉で出来たパンをかぶりつきながら、ヴァロックは自分のいた世界について、爆撃を喰らう前よりも詳細に語った。
日常、魔法を使い生活している事、ゴブリンやオークと言った魔物がいる事、魔族、獣人、エルフと言った人種が存在する事等。更にレベルという概念があり、魔物を倒す事で強くなる事が出来る事も話した。その上、ヴァロックは勇者メンバーとして、過去魔王と対峙し、人族への脅威を解決した事までも話をした。
真剣な表情で語るヴァロックに対し、同じく真面目な顔で聞いているジャーナリストの二人。そんな荒唐無稽な話、本来信じるわけがない二人だが、ヴァロックの人外な行動を目の当たりにしている二人は、疑う事が出来なかった。寧ろ得心がいったという表情。そして話を聞き終わり、黙って顔を見合わし頷くネルソンとキャシー。
「ヴァロックありがとう。よくわかったよ。それで、ヴァロックはどうしてこの世界に来たんだ?」
「ああ。俺は、前の世界で勇者だった、元々この世界の人間だった、カオルに会いに来たんだよ」
※※※