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第七話

 次々とまるで豆腐のようにサクサク切り裂かれていく多連装ロケット砲とそれを搭載していた車達。ズガーン、ドカーンと切り裂かれる度爆裂音が響き渡るが、ヴァロックはお構いなしに、怒りの表情で作業を続ける。とりあえず戦闘員には一切手を出していない。シロに言われたのもあるのだろう、我慢している様子のヴァロック。


 そして目の前で起こっている現象が、未だ飲み込めていないズニ派の戦闘員達。しかもそれを成しているのがたった一人の人間だという事実。止めようにも目の前で起こっている現象に頭が追いついていなようだ。砂埃舞い散る砂漠地帯で、砂が入るかも知れないのに、そんな事も忘れて皆ポカーンと口を大きく開けて固まっている。


「お、おい! お前は一体何だ!」ハッと気づいた一人の勇気ある戦闘員の男が大声を上げる。そして多連装ロケット砲を全て切り裂き終えたヴァロックに、機関銃を向けた。


 声を掛けられ振り返る、白い大剣を片手に持った赤髪の大男。手を出さないが怒りが治まったわけではない。ギラリと鋭い眼光をその戦闘員に浴びせる。殺気を纏ったその様は、正に鬼そのものである。


 その佇まいに、声を掛けたものの、つい恐怖し竦んでしまう戦闘員。そのまま後退りしてしまった。


 だが、そこでパァーン、といきなり銃声が一発鳴り響いた。他の戦闘員がヴァロックに向けて発砲したのだ。そしてその銃声を皮切りに、一斉にヴァロックに向けて機関銃を乱射し始めた戦闘員達。皆得体の知れないこの化物の恐怖から開放されたいかのように、ガガガガガ、パタタタタタ、と一心不乱に撃ち続ける。一人の人間に対して撃つ量ではない。弾も無限にあるわけではないから、こんな無駄撃ち、普段はやらないのだが、誰もそれを指摘しない。皆冷静さを欠いている。


「おい! 一旦止めろ!」一人の戦闘員が叫ぶ。砂埃がもうもうとヴァロックを中心に立ち込め、どうなったかすぐには分からない戦闘員達。さすがに蜂の巣にされ、肉片さえも残っていないだろう。そう思ってはいるものの、確認しないと不安なようだ。


 徐々に砂埃が晴れてきたタイミングで、「ぐあ!」と一人の戦闘員がうめき声を上げた。それから「ぎゃあ!」「うああ!」とあちこちから叫び声が聞こえる。


 暫くしてからうめき声が収まり、シーンと静まり返る。そこには、真っ二つに切断された機関銃があちこちに転がり、更に戦闘員達もまた転がっていた。どうやら戦闘員達が持っていた機関銃を切り裂いた時に、ヴァロックが当身をしたようだ。そして機関銃で一斉射撃を喰らったヴァロックは涼しい顔をしている。そもそも機関銃の弾自体ヴァロックには効果はない。言わばハエが沢山当たるようなものなのだが、それを鬱陶しいと思ったヴァロックは、シロに防御膜を張ってもらっていた。


『主。よく我慢できましたな』「うるせぇ。だが、身動きできないように当身はしたがな」独り言のようにシロに向かって話すヴァロック。そして一人の戦闘員に向かって歩いていく。


「う、うわあああ!! 来るな、来るなああ!!」多連装ロケット砲を全て屠り、機関銃の雨も効かない、この化物に恐怖し絶叫する戦闘員。腰が抜けたのか、座ったまま砂の上を後退りする。そんな様子を気にもせず、ズカズカ歩いていき、戦闘員のそばに来てしゃがみ、顎をクイと持ち上げ、ジロリと睨むヴァロック。


「なんで攻撃した?」


「え?」


「みさいる、とかいう武器で俺達を攻撃したろ。そのせいで子どもが死んだんだぞ?」


「そ、そりゃ死ぬだろう! 殺そうとしてるんだからな!」何当たり前の事を言っている? と少し驚いた表情で返す戦闘員。


 だが、その言い草に、ヴァロックからまたもゾワっと殺気が湧き上がる。日頃命の取り合いをしているズニ派の戦闘員達は、その殺気を感じ取る事が出来たようで、ヴァロックのその殺気を感じて竦む。そしてガタガタワナワナ皆震えだす。動けない。逃げたい焦燥に駆られるも、まるで蛇に睨まれた蛙のように身動き出来ない戦闘員達。


「無差別に殺す必要あったのかよ」殺気を抑える事無く、静かに話しかけるヴァロック。


「それが我々の戦いだ。誰が死のうが関係ない。奴らは敵だ。我々の思想と相反するから殺される。我々の側にいれば、たとえ死んでも神の元にいける。だから奴らが悪い」震えながらも必死に答える戦闘員の一人。


「なあ。子どもを殺して良心が傷まないのか?」


「良心? それは我々の信仰の元にしかない。我々の敵は全て悪だ。我々に背く者全て。女子どもは関係ない」


「信仰、ねぇ。じゃあ、もし俺がお前の家族を殺しても、何とも思わないのかよ?」


「我々の家族こそ、崇高なる信仰の元に集っている者達だ。もしお前がそんな事をすれば、同胞がお前を殺すだろう。お前の大事な家族をも」


「……なんて世界だ」ヴァロックに怯えながらも、信念の籠もった瞳で言い返す戦闘員を見て、何とも言えない気持ちになるヴァロック。魔物や魔族のような悪意ではない。こいつらなりに信念を持っていやがる。だからこそ尚更タチが悪い。それが分かったヴァロックは、さっきまで放っていた殺気が収まり、立ち上がって天を仰いだ。


「そ、それより、お前は何者だ? ロケット砲をその巨大な剣で裂き、銃が効かないとは、もしかして……神か?」


「まーたそれかよ」ため息をつくヴァロック。


『主。どうやらこの世界の者共は、然程強くないようですな。まあ、前の世界であったとしても、主は化物ですがな』


「やかましいわ。まあでも、確かにこいつら相当弱い。みさいる、とか、さっきこいつらが持ってた黒い虫みたいなのが沢山飛んでくるのとか、武器はそれなりに強いみたいだけどな」魔法でもないみたいだしな、と心の中で呟くヴァロック。


「独り言? ……もしかして、神と交信しているのか?」先程まで恐れていたヴァロックに対し、今度は畏怖の感情が溢れてきた様子の戦闘員達。


「アホか」だが、ゴチンと一発、ヴァロックはその言葉を呟いた戦闘員の頭を拳骨で叩いた。


「俺は神じゃねーぞ。そもそも神ってのは、お前らが思っている以上に、お前らの事見てねぇから」


「やはり神を知っている? 貴方様は神の使いか! 是非我らズニ派をお救い下さい!」どうもおかしな方向にいきそうな雰囲気に、ヴァロックは呆れ顔になる。


「神の使いでもねーよ! 俺はお前らよりちょびっとだけ強いだけのただの人間だ!」強く否定するヴァロック。ちょびっとだけ強い程度なら、ロケット砲を切り裂いたり出来ないはずなのだが。


「とにかく。もう人を殺すな」武器を全て屠ったし、もう攻撃はできないだろう。そう思ったヴァロックは、シロに乗ってその場を去っていった。


 ※※※


「なあ? 奴らを殺してくれたんだろ? そうだろ? ダリアの敵を取ってくれたんだよな?」戻ってきたヴァロックにムハマドが詰め寄る。その手には原形が既に分からない、黄色の布を持ったまま。


「殺しはしてない。だが、武器は全て壊してきた」だが、ヴァロックはそれを否定した。


「な、何で? 何で仇を取ってくれなかったんだ? あんた強いんだろ! あいつら皆殺しにしろよ! あいつらのせいでダリアだけじゃなく家族まで失ったんだぞ!」ヴァロックの胸ぐらを掴み必死の形相で叫ぶムハマド。


「俺はこの世界の人間じゃねぇ。ルールも知らず、理由も知らず、むやみやたらに人を殺していいとは思ってねぇんだよ」


「人だって? あいつらの攻撃を見たろ! あいつらは悪魔だ! 俺達はあいつらを許せない! あいつらのせいで沢山の命が奪われたんだ! あいつらさえいなければ、いなければ……わあああああ!!!」絶叫しヴァロックから手を離し、その場でへたり込み泣き叫ぶムハマド。


「あいつらはダリアの未来を奪った……。腕を失くした時でさえ狂いそうになった。なのにもう、もうダリアは……ううう」今度は黄色い布に顔を押し付けながら、静かに嗚咽しながら泣いているムハマド。それを、複雑な表情で、ヴァロックは黙って見つめていた。


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