第二話
もいっちょ行きますm(_ _)m
「……」飛んで来たロケットランチャー弾を片手で受け止めた? 信じられないと言った表情をする、未だヴァロックに担がれている中年男性。そもそも、大の大人一人を片手で軽々担いでいる事自体、おかしな話なのだが。
「意味わかんねえな」一方そんな男性の呆気に取られた顔を気にせず、回転が収まったので、ポイとそこら辺にロケット弾を捨てるヴァロック。
いや、意味わかんねえのはこっちですが? と心底思った中年男性。
「……もしかして、神か?」そう思った中年男性。こんなとんでもない事が出来るのは、そういうものなのかも知れない。
「んなわけあるかよ。んで、あっちは行かないほうがいいんだな?」そうヴァロックが中年男性に質問したところで、更にロケット弾が数発、ヒュウウ~、と音を立てて、ヴァロックの元に飛んできた。
「んだあ? ったく鬱陶しいなあ」どうやらヴァロックに狙いをつけて飛んできている? その数発のロケット弾を、まるでハエを払うかのように手のひらの甲の部分でバン、バンといなしながら弾いていく。そのうちの数個の弾頭が地面に当たって、ズガーンと大きな音を立てて爆発した。
「うおあ? 何だあ?」その音に驚くヴァロック。その衝撃でヴァロックと中年男性に飛沫が飛んでくる。
「あー、そういう武器なのかよ」めんどくせえ、と呟きながら、またも手のひらをブンと横薙ぎ。飛んできた飛沫達は一斉に飛び散った。
「……」そのヴァロックの人外の行動に、あんぐり口を開けて唖然とする中年男性。これもう、人じゃないよね? とか思いながら。
「あんた狙われてんのか? だからあっちには行かないほうがいいって事なのか?」そんな中年男性の様子を気にせず、質問するヴァロック。因みに未だ担がれています。
「え? あ、いや、まあ、そうですが」敬語になる中年男性。
「まあその様子だと、怪我は大した事なさそうだな」実はヴァロックが受け止めたのが幸いしたのである。そのまま爆風に飛ばされ地面に叩きつけられていたら、彼は重傷を負っていただろう。
「ん?」ロケット弾が収まったと思ったら、今度は何か土煙を上げてやってきたのが見えたヴァロック。
「ま、不味い! 逃げましょう!」慌てた中年男性が、ヴァロックに忠告した。
「つーか、逃げても追いかけてくるんだろ? じゃあ倒しゃ早えじゃねーか」そう言って男性を降ろし、背中に背負っていた相棒の大剣を鞘からスラリと抜いた。ギラギラと輝く太陽に反射する真っ白な大剣。
「ま、殺さなきゃいいだろ」いきなり知らない世界に来て、ルールも知らず殺生するのは良くないと感じたヴァロック。一気に土煙がもうもうと舞っているところに飛ぶように走って行った。
「……あれは一体何なんだ?」人のようだが人と言うには色々人外過ぎる。車より速いスピードで、正に飛ぶように走って行ったヴァロックの背中を見つめながら、訳が分からないと言った表情で、その背中を見送っていた。
※※※
「おい! ロケットランチャー何度打ち込んでも死なないみたいだぞ!」
「アメリカの新しい兵器か? それともカカシか?」
「どっちにしろ、この辺りは敵の陣地の真っただ中だ。危険な物なら今のうちに排除しておくべきだ」リーダー格の一人がそう話すと、皆一様に頷いた。
「よし、行くぞ!」ロケットランチャーを何発も打ち込んだ場所めがけて、ジープを走らせる、ターバンを巻いた総勢十人はいる男達。そしてギャリギャリと砂を押し潰す音を立てながら、ジープを180度回転させ、ロケットランチャーを放った先に向けて走り出した。
「ん?」その先から何かがキラリと光るのがこっちに向かって来るのが見えた。そう思った瞬間、バン、とジープのボンネットに何かが乗った。
「なんだこりゃ? ゴーレムか?」不思議そうに呟く、ボンネットに乗った赤毛の大男。手には子どもくらいの大きさの、真っ白な大剣を持っている。
「!」驚いてキキキー、と急停車するジープ。「おおっと」それにバランスを崩しつつも、相変わらずボンネットの上にいる赤毛の大男。
「お、お前は誰だ!」何が何やら訳が分からないが、とりあえず助手席に置いてあった機関銃を手に取り威嚇するリーダー格の男。他の男達も一斉に機関銃を、赤毛の大男に向けた。
「俺? 俺はヴァロックってんだ」宜しくな! とおいっす、てな感じで手をあげ挨拶をする。ジープのボンネットの上で。
だが、そんな気軽な感じのヴァロックとは逆に、緊張感漂う雰囲気で機関銃を構えたままの男達。
ちょっと殺気混じってんな。その黒いのは武器なのか? 心の中で呟くヴァロック。
「お前はどっちの派閥だ」首を傾げそう考えていたヴァロックに、緊張した面持ちでリーダー格の男が慎重に声を掛けた。
「派閥? なんだそりゃ?」不思議そうな顔をするヴァロック。
「見た感じ、西欧系の容姿ですね」「そうだな。ジャーナリストか?」ヒソヒソ話し合う周りを取り囲んでいる男達。普通に自分達の言語で会話が出来ている事を怪訝に思いながら。
だが、ジャーナリストはこんな大きな剣を持っていない。そもそも、カメラなどの道具を一切持っていないようだが。
「パスポートはあるか?」どうも敵ではなさそうと判断したリーダー格の男が質問する。
「ぱす……? なんだそりゃ?」聞いた事のない言葉に、またも不思議そうな顔をするヴァロック。
そういや今日何度もなんだそりゃ?って言ってんなあ、とか、どうでもいい事を考えていたヴァロックに、リーダー格の男が機関銃を構えたまま、ソロリソロリとゆっくり近づいてきた。
「その剣を捨てろ」ヴァロックに銃口を向けたまま、命令するリーダー格の男。
「あ、これ? 捨てるのは無理だが小さくはできるぞ」ああ、そうか。武器持ってるから殺気立ってんのか。そう判断したヴァロックは、「小さくなれ」と呟き、大剣をストラップに早変わりさせた。そして何事もなかったかのように、ポケットにそれを突っ込むヴァロック。そして両手を広げてほぉらなくなった、てな感じでニカっと笑うヴァロック。
「「「……」」」そしてその不思議な出来事に呆気に取られる男達。さっぱり訳が分からない。
「お前は誰だ?」
「だからさっき言っただろ、ヴァロックってんだ」
「ではヴァロック。お前は何処から来た? どこの国の人間だ?」
「あー、そういう意味か」この地球とか言うところとは別のところだ、何て言って信じて貰えるのか? どう説明すりゃいいんだ? うーん、とヴァロックが悩みながら頭をガシガシ掻いていると、
タタタタタ、と何処からか機関銃を連射する音が聞こえてきた。
「不味い! 車の影に隠れろ!」リーダー格の男に指示に、皆一斉に車の影に隠れた。
一方ヴァロックは、「なんか変な音だな。ワイバーンの嘴の音に似てるな」と、相変わらずボンネットの上に立ったまま、呑気に音のする方向を見ながら考えていた。
ここは中東のとある紛争地帯。丁度お互いの陣地が拮抗する境界辺りである。ヴァロックが異世界からやってきて降り立ったこの場所は、彼が行きたかった国、日本ではなかったのである。
※ネコと転移 https://ncode.syosetu.com/n8527ev/ という長編小説のサブストーリーです。初めて読む人にも分かるように書いているので、お楽しみ頂けたら幸いです。