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十六話

長らくお待たせし申し訳御座いません。

 砂漠の夜は凍えるほど冷える。そんな中、何とか身を寄せ合い死なずに生き延び、急ぎ自分達の協力者の元へひたすら歩いていたところに、今の現状を作り出した元凶がまたもやってきた。


 怒りよりも恐れが先立ち、腰が引けつつ砂に足を取られながら何とか逃げようとするも、そもそも砂地なので走る事さえ出来ない。当然いくら急いでも大して速くもない。それでも必死で足掻き逃れようとするズニ派の面々。


 一方ヴァロックはこんな環境でも全く気にする様子もなく、普通にサクサクと砂漠の上を歩き、彼らのうちの一人を、まるでうさぎでも捕まえるかのように、ひょいと首根っこを片手で掴んで持ち上げた。


「は、離せ化け物!」


 手足をジタバタし出来る限りの抵抗を試みるも全く無意味。それを見た他の数人は、ああ、もうだめだ、と、半ば達観したような、諦めの表情でその場から逃れるのを止めその場に佇む。どうせ逃げようとしても決して逃げ切れない事を悟ったようだ。そもそも砂漠地帯を逃走したところで、大きな剣に乗って空を飛ぶ、この訳のわからない存在から、逃げ遂せるとは思えない。その上ナイフ等の武器で攻撃を仕掛けたとしても、この化け物には到底敵わない事も、昼間ロケットランチャーやジープを破壊された事で分かっている。なので首根っこ掴まれた者以外は、これからどうなるのかと、固唾を飲んで様子を見ている。若干死を覚悟しつつ。


「お前らのアジトどこだよ?」そんな不思議な緊張感が漂う中、全く意に介さないヴァロックが不躾に問う。


「そ、それを聞いてどうするつもりだ?」「決まってんだろ。ぶっ壊すんだよ」


「「「「……」」」」ぶっきらぼうに言い放つとんでもないその言葉を聞いて、ズニ派の面々は言葉を失う。


「ぶっ壊すって……。そんな事するの分かってるのに教えるわけないだろ」


「ほーぉ? じゃあ仕方ねぇ。無理やり聞き出すしかねーな。拷問でも何でもして、な」


 そう言ってヴァロックは少しばかり殺気を放つ。ヴァロックにとっては微量だとしても、ズニ派の連中にとってはその殺気だけで気絶しそうな程を圧を感じたようで、皆その場でガタガタと震えだした。首根っこ掴まれたままの一人は、距離が近いせいもあり歯をカタカタ鳴らし失禁までしてしまう始末。


「うわ! 汚ねぇ!」思わずポイ、と放り投げてしまうヴァロック。その彼は砂にズシャアと埋まりピクピクと痙攣しつつ、気絶してしまった。


「ったく、ほんのちょっと殺気放っただけでこうかよ。で? 次はどいつだ? こうなったらマジで拷問すっか?」


 ヴァロックの恐ろしさを改めて目の当たりにし、他の面々は恐怖の表情でお互い顔を合わせる。これはもうどうしようもない。俺達は運が悪かっただけだ。こいつは悪魔の化身か神なんだ、とそれぞれ思ったようだ。


「わ、分かった! 案内する!」そのうち一人が押し出されたように声を張る。


「お、おい、いいのか?」「……俺に考えがある」


 コソコソとそう話し合う二人に、ヴァロックは首をかしげるも、じゃあさっさと案内しろ、と、命令する。


「……悪いが、やはり我々の拠点までは案内できない」「……んだと?」


 ヴァロックの赤毛がブワッと正面から風を浴びたように逆立つ。苛立ち殺気を放ったのだ。先程よりもその圧は凄まじく、ヴァロックを中心に砂漠の砂塵が舞う。


「うわあああ!」「ぎゃああ!」「た、助けてくれええ!」その殺気だけでズニ派の面々は吹き飛ばされ転がっていく。そんな中一人、返事した者が中腰になり何とかその圧に耐えながらヴァロックに話しかける。


「ま、待ってくれ! 俺達の拠点はここから遠いんだ! だから無理なんだ! その代わり、黒いさそりの拠点なら案内できる! ここからそんなに離れていないからな!」


「……ほお?」それを聞いたヴァロックはフッと我に返る。ズニ派の面々は圧が収まりふう、と息を吐く。


 ……そういや確か、あの嬢ちゃんに爆弾とやらを仕込んだ人形を持たせ、諸共バスとかいう乗り物に乗ってる連中を殺そうとした奴ら、黒いさそりだってネルソンとキャシーが言ってたな。


 なら、こいつらの拠点より黒いさそりの拠点の方をぶっ壊した方がいいって事かもな。


「わかった。んじゃ場所教えろ」そう言ってヴァロックは、白龍の大剣を地面に置いた。


「お、おい! いいのか? 黒いさそりは我々と協力関係にあるんだぞ?」「仕方ないじゃないか。ここから遠いのは事実なんだし、そもそも、あれだけの化け物だとしても、黒いさそりの拠点には活動員がいて武器も沢山あるだろうから、何とか出来るだろう」


「おい。何コソコソ喋ってんだ? お前も行くぞ」「え? 俺もい、行くったって……。近いと言っても歩きじゃさすがに」


 そう言いかけるズニ派の一人を見て、面倒臭そうにヴァロックはズカズカとその一人の元に歩いていき、またも猫のように首根っこをひょいと摘んで持ち上げた。


「うわああ! な、何するんだ!」「黙ってろ。俺が連れてってやるから道案内しろ」


 ※※※


「徒歩だと?」「ええ。彼らが言うには。エンジントラブルか何かですかね?」


「エンジントラブル? にしては、聞いた人数だと数台ジープを使っていただろう? それ全て使えなくなったというのか?」


 そう言われてみれば……。アランマドの疑問に、通信を受け取った者は首を傾げる。


「砂嵐にでも巻き込まれたのでしょうか?」「そうかも知れん。とりあえず放置する事もできんな。仕方ない。受け入れる、と返事してやれ」


 承知しました、と部下の一人は返事し、早速通信機を用いて返答を開始した。


 この拠点の連絡先を知っているという事は、ズニ派内でもそれなりの地位の者だ。黒いさそりもズニ派も、テロ行為を行うに当たり常に慎重に行動している事もあり、協力関係ではあるが全てのズニ派の工作員が、この黒いさそりの拠点と連絡が取れるわけではない。更に言えば、ズニ派の殆どがこの場所を知らないのが普通なのである。


 というのもこの場所は、砂漠地帯のど真ん中に位置し、アメリカの偵察機でも発見されないよう、うまく岩場の陰に隠れており、巨大なパラボラアンテナも、特殊なステルスコーティングをしており、まず見つかる事はない。通信するには特殊な端末を用いないと出来ないのである。


 なので連絡してきたズニ派の者は、幹部クラスである可能性が高い。その要請を断るのは、後々禍根が残る可能性がある。、今後ズニ派を利用して世界的にテロ活動を行いたい黒いさそりとしては、それは余り宜しくない。


「面倒だな」寧ろ野垂れ死んでくれればどれほど楽だったか。出来れば余り無駄な接触はしたくない。アランマドはつい、舌打ちをしてしまった。


 ※※※


「ぎゃああああ!!!」「喧しい。シロが膜張ってるから風の影響受けねぇって言ってるだろ。ちったぁ黙ってろ」


「そ、そうだとしても早すぎる! し、死ぬううう~~!」


 うるせぇなあ、と愚痴りながら、ズニ派の一人と共に白龍の大剣をスケートボードのように乗りこなすヴァロック。


 とりあえずヴァロックは、連絡がとれるというズニ派の一人だけを黒いさそりの拠点への道案内のため連れてきた。残された連中については、用事が終われば後で迎えにってやっても良いが、そこまでする必要はあるか? ま、後で考えらぁ、と思ってたりする。


 暫くするとさすがにズニ派の、一緒につれてこられた一人も慣れてきたようで大人しくなった。この訳の分からない、まるで鬼の様な赤毛の化け物が、一体どのような理屈で、この大剣をスケートボードの様に操っているのか。そんな疑問を持つくらいまでには落ち着いてきたようである。


 そして暫く進んでから、彼はとある物を見つけて声を上げる。


「あ! あそこです! あの、灰色のパラボラアンテナが回ってる……」「あれか? なんだありゃ?」


 片眉を上げ怪訝な表情で、その先にある巨大なパラボラアンテナを見るヴァロック。そして一方、まるでパラボラアンテナを知らないといった反応のヴァロックを、訝しげに見上げるズニ派の一人。


 とりあえずヴァロックはその巨大なパラボラアンテナの近くまで来て大剣から一旦降りる。ズニ派の一人も同時に降り立ち、そこで再度トランシーバーの様なもので、中にいるであろう、黒いさそりに連絡を取り始めた。


 それから少しすると、パラボラアンテナの奥の方の岩の陰から、黒いターバンを顔中にぐるぐる巻きにし、機関銃を携えた男数人がわらわらと現れる。そして白い大剣を背中に背負った赤毛の巨人、ヴァロックを見つけると、警戒したのか、ザザっとヴァロック達の周囲を取り巻き機関銃を構えた。


「ズニ派のレン中が砂漠内で遭難し、救助が必要だと連絡があった。だがどうやらこいつは違うようだ。一体誰だ?」


 黒いさそりのメンバーの一人が、警戒心を顕にし銃口をヴァロックに向け質問する。


「あ? 俺か? 俺ぁヴァロックってんだ。お前らが黒いさそりって奴らか?」そんな緊張感漂う雰囲気の中でも、気にしない様子で聞き返すヴァロック。


「お前の名前を聞いているのではない! お前はズニ派なのか? 顔立ちが西洋風だが? ……おい! これはどういう事だ!」


 ヴァロックの態度が癇に障ったのだろうか、傍にいたズニ派の一人に対し声を荒げる黒いさそりの一人。だが、連れてこられたズニ派の彼はそれに答えず、気まずそうに黙っている。


 それもそのはず。ズニ派の彼にさえ、ヴァロックが一体何者なのか、さっぱり分からないから返事できないのは仕方ないのかも知れない。


「ま、返事しないって事はお前らが黒いさそりで間違いなさそうだな」


 そんな緊張感漂う中、ヴァロックは背中に背負っていた白い大剣を手に取った。そしてニィ、と白い歯を見せ不敵に笑う。それを見た黒いさそり達は、何やら危険を感じ、一斉に機関銃をヴァロックとズニ派の一人に撃った。


 ズガガガガ、と激しい銃撃の音が岩陰に反射しているのもあって響き渡る。


 暫く撃ち続け、砂埃と共に煙がもうもうと立ち込め一気に視界が不鮮明になる。そこで皆一斉に銃撃を止めた。


「……おい。殺して良かったのか? こいつズニ派の幹部だったんだろ?」「知るか。そもそも俺達の拠点に連絡してきて、救助要請しようって考えている時点で気に入らなかったんだよ。お前らの事はお前ら自身で何とかしろってんだ」


 成る程な、と答える黒いさそりの一人。どうやら彼らは、ズニ派の面々がこの拠点に来られる事に対してよく思っていなかったようで、最初から殺してしまおうと考えていたようである。更に西洋風のいかつい人間と共にいたのであれば、尚更中に入れる気が起きなかったのだろう。


 殺して砂漠に捨ててしまえば、消息不明で処理されるだろう。紛争地帯はいつ誰が死んでもおかしくはないのだから。


 そして悪かった視界が晴れた途端、黒いさそり達は皆唖然とする。


「ったく。急に攻撃するやつがあるか?」 


 パンパン、と砂を払いながら何事もなかったかのようにそこに佇むヴァロックとズニ派の一人。彼は銃撃された時点で死を覚悟していた様で、股間を濡らし立ったまま失神していたのだが。


 ヴァロックは黒いさそり達が銃撃する瞬間、咄嗟に殺気を感じシロに命令してズニ派の一人とヴァロック自身に透明な膜を張るよう指示したのだ。それによって銃撃は防がれたのである。勿論ヴァロックには銃は効かないのだが、服に穴が空いたりするのが嫌だったようで。


「シロもういいぞ」『承知した』


 口をあんぐり開けて固まってる黒いさそり達を気に留めず、シロに指示して膜を消す。勿論シロの声は彼らに聞こえないので、ヴァロックが言った言葉の意味は分からないと言った様子。


「つかお前らよぉ、問答無用で攻撃してくるって事ぁ、やり返される覚悟もできてんだろうな?」


 ヴァロックは少し怒りの表情を携えながら、ヴァっと殺気を放つ。異世界で剣鬼と恐れられたヴァロックのそれを肌に感じ、黒いさそり達は皆「う、うわああ……」「ば、化け物」等々口々に呟き、その場で腰を抜かしガタガタと震えだす。


 その様子を見てヴァロックははあ~、と大きなため息を吐き、軟弱な奴らだ、と悪態をつく。


「と、というか、お前は一体何の用だ?」黒いさそりの一人が勇気を振り絞り、声を震わせながら質問すると、ヴァロックはニィ、と白い歯を見せながら、悪い表情で嘲笑う。


「これからお前らを全滅させんだよ」



次回投稿はもうちょっと早くなりそうです。

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