十五話
お待たせしました。
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とある地下室の中。体育館程はありそうな巨大な施設なのだが、それが完全に地下に埋まっている。地上にはカモフラージュ用の大きな岩と、ステルス機能付きの反射板のついたパラボラアンテナが、砂嵐の中目を凝らすとようやく見える。ただ、目視どころか双眼鏡で見ただけではきっと分からないだろう。それ程この辺りの砂嵐は激しいからだ。ただ、それはシリア方面から見た話で、西のレバノン方面には砂嵐が全く発生していない不思議な場所だ。要するに、身を潜めるには非常に適した場所、という事である。
広大な地下室の中では、頭にターバンを巻いた、手の甲にさそりの入れ墨を入れた大勢の男達が忙しなく動き回っている。中はまるでSF映画のように、壁一面に計器類とモニターがずらりと張り巡られており、様々な地域で活動しているメンバーの状況を、一目で確認できるようになっている。
そんな中、一人黒髭をたっぷり蓄えた、頭に黒いターバンを巻き、首からジャラジャラ絢爛豪華な首飾りを多数ぶら下げ、指には高級な宝石が付いた指輪をいくつも着けた初老の男か、いら立ちを隠そうともせず、苦い顔をしたまま、とあるモニターを睨んでいた。
「シリアの自爆テロの報告はまだなのか?」「さっきからずっとこちらからアクセスを試みているのですが……」
もう何度目か分からない確認と、それに対してはっきりしない答え。他の者達とは違い一際派手な格好の彼は、ますますイライラを募らせる。
「何故連絡がつかないのだ! 今日、シリア中心部行きのバスを爆破させ、それを皮切りにシリアに宣戦布告する予定だったんだぞ! 自爆テロ自体確認出来ないとなれば、宣戦布告自体出来ないだろうが!」
つい抑えきれず怒りが爆発する。そう怒鳴りながら近くに転がっていた空き缶を思い切り蹴る黒髭の男。
一人傲慢な態度を遠慮なく取っている彼は、黒いさそりの首謀者、アランマドである。国際テロ組織黒いさそりを率いて、全世界でテロ活動を行い、自身の崇拝する信仰を広めながら、既に十年以上ここに潜伏しながらテロ活動をしているのである。既に面は割れており国際指名手配中ではあるものの、この潜伏場所にいる事は、一部の黒いさそりの幹部と、更に一部のズニ派の幹部のみである。
そして彼の発言にもあった通り、今日、シリアで発生させる自爆テロを発端にして、宣戦布告をする予定だったのだが、未だそれを成したという報告が来ない。既にサウジアラビア、フランス、イギリス、ドイツ、日本、アメリカ等々の先進国へも、テロメンバーを潜伏させており、まずは目の敵にしているシリアに攻め入って、世界的にテロを巻き起こそうと画策していたというのに。
「あ! アランマド様! つい今しがた、シリアに潜伏している他のメンバーと繋がりました! 電話での通信が可能です」
待望のシリアからの連絡があったとの報告。だが、、他のメンバーだと? と、訝しむアランマド。あの少女に抱かせたくまのぬいぐるみに仕込んだプラスチック爆弾を使い、自爆させた工作員はどうしたのだ? と疑問に思うも、とりあえず「受話器を貸せ」と、報告のあった部下から、ひったくるように受話器を取り、耳に当てた。
「私だ。自爆テロはどうなった?」「それが失敗したようなのです」
「失敗? 一体どういう事なんだ?」「それが、未だ信じられないのですが……」
どうも言いにくいようで、電話口でモゴモゴ喋る黒いさそりの一員。彼は現在、シリアに潜伏している一人なのだが、自爆テロの様子をたまたま見ていたのだ。だが、そのはっきりしない言い回しに苛立ちを隠せないアランマド。
「どういう事か説明しろ! 今日という日がどれだけ重要だったか、お前も分かってるだろ!」
受話器越しで怒鳴られた黒いさそりの一員は、仕方なさそうに事の顛末を話した。そう、それはあの赤毛の大男が何をしたか、という事だ。
「……貴様あああ~! そんなふざけた嘘が通用するとおもっているのかあああ!!!」「う、嘘じゃありません! そんな嘘、私がついてどうするのですか!」
報告を聞いたアランマドは正に怒り心頭の様子で、受話器越しに大声で怒鳴りつけるも、確かに電話口の彼が嘘を言っても無意味なのは理解できる。
「おい! ズニ派は方は連絡つくか?」「やってみます」
そう指示をしながら、一方的に電話を切ったアランマドは、ズニ派幹部に連絡を取るよう、部下に通達した。
「……ズニ派の連中も潜伏して自爆テロの様子を見ていたはずだ。ぬいぐるみだけ空高く放り投げ、しかも空を飛んでいって爆弾を破壊したなどと、そんな訳のわからない話にわかに信用できるか」
到底理解不能な現地からの報告に、未だイライラを隠せず、親指の爪を噛みつつ一人呟くアランマド。
その時、別の部下から報告が上がってきた。
「シリア方面のシリル派を攻撃していたズニ派から、緊急の連絡が入ってまいりました」
※※※
「やっぱりな」『何が(やっぱり)なのですかな?』
シロこと、白龍の大剣に、スケートボードのように乗りながら、ヴァロックが呟きそれに疑問を投げかけるシロ。
『……ふむ? 昨日主が破壊したクルマ、と武器を操っていた奴らの気配があるようですな』「おう。そういうこった」
ヴァロックの返事を待たず、どうやらシロは疑問に対し自己解決したようだ。
『成る程。この世界の人族は魔法が使えずしかも戦闘力が皆無で弱い。移動手段は昨日から主も使用してたクルマとやら、しかないようで。転送魔法等も使えぬ様子ですからなあ。と言う事は、移動手段を失った昨日の連中は、未だこの砂漠地帯を然程移動できぬまま、彷徨っていた、という事ですな』「ご名答だ」
そう。シロが遠方にて気配を発見したのは、既に相当体力を消耗している様子で、砂漠地帯をひたすらある方向に歩いている、ズニ派の連中だった。
この世界には魔法が存在しない。移動手段はクルマとやらを使うようだ、という事を既に知っていたヴァロックは、昨日怒りに任せてそれらを破壊したズニ派の連中が、移動手段を失いこの砂漠を彷徨っているだろう、と予想し、昨日の場所辺りを捜索しようと思ったのである。そしてそのヴァロックの予想はドンピシャだった。
更に、ネルソンとキャシーから、このズニ派というのは黒いさそりと繋がっているらしい、とも聞いていたヴァロック。彼らなら、黒いさそりの首謀者や拠点などを聞き出せるかも知れない、と考えたのである。
「とにかく数少ない手がかりだ。シロ、飛ばせ」『承知した』
シロは一気に加速する。そのスピードは既に100km/hを有に超える。そんな高スピードで進むシロに、むき出しの体のまま乗っているヴァロックだが、シロが施した薄い膜のおかげで砂や塵は一切気にならず、更にヴァロックの身体能力の高さのおかげで、落ちる心配は全くなさそうで、寧ろ楽しんでいるようにも見える。
少しすると、昨日ヴァロックが襲ったあのズニ派の連中が、疲弊した様子で黙々と灼熱の砂漠地帯を歩いているのが目に入った。そして彼らの上空辺りで停止し、そこからヴァロックは真下に落下した。
その際、ドン、と大きな落下音が辺りに響く。ズニ派の連中は突然響いたその轟音にビクっと体が跳ね上がった。
「うわあ! 一体何の音だ?」「爆撃か?」「シリル派かも知れん。皆伏せろ!」
リーダー格の一人がそう叫んだと同時に、皆一斉に盛り上がった砂山に身を潜めるようにしてかがむ。そしてそーっと音のした方を見てみると、そこには片手で白龍の大剣シロを担ぎ、肩でトントンする、あの赤毛の悪魔が立っていた。
「よお。昨日ぶりだな」まるで友達に対するように、手を挙げ挨拶するヴァロック。
「……あ、あいつは、昨日の?」「で、出たあああ!」「ぎゃあああ!! 悪魔が来たあああ!!」
皆一様に驚き慄き、我先に逃げようとする。だが砂の上はいくら急いでも中々進まないので、ただただあたふたしているようにしか見えないのだが。
「……誰が悪魔だ」彼らの言葉を聞いて若干イラっとするヴァロック。俺は寧ろ、天使みたいな優しい心の持ち主だぞ? とか心の中で呟いたりしている。
「まあいいや。お前らに聞きたいことがあるんだ」彼らが恐れ喚きつつ、慌てて逃げようとするのをとりあえずスルーしながら、ヴァロックは彼らにそう伝えた。




