十四話
長らくお待たせ致しました。
騒ぎになってしまったので、ネルソンとキャシーは急いでヴァロックを路地裏へ引っ張っていった。物陰に隠れて今の騒動をやり過ごそうと思ったのだ。そんな二人に、理由はよく分かっていない様子ながら、とりあえず引っ張られるまま一緒に路地裏の家の陰に隠れるヴァロック。
そしてネルソンはヴァロックに声を潜めるよう伝える。
「ヴァロック。君はこの世界では、君のその規格外の力は人外なんだ。それをよくよく理解しておいた方がいい」未だヴァロックを探している人々を、物陰からそーっと覗き警戒しながら注意するネルソン。
「それはどういうこった?」何でこんな風に隠れてんだ? と不思議そうに首を傾げ、ヴァロックはネルソンに問う。
「むやみやたらにあなたが力を使うと目立っちゃうのよ。ヴァロックも言ってたでしょ? この世界の人々は弱いの。あなたみたいな化け物じみた力を持っている人は存在しないのよ」
化け物じみた? あの程度が? あれでもそんな本気出してねぇのに? キャシーの訴えかけに対し更に首を捻るヴァロック。
「俺はただ、空へ飛んで爆弾ってやつを壊しただけだぞ?」
「それが化け物じみてるんだって」「あんな事、普通の人は出来ないのよ」
はあ? と、益々怪訝な顔になるヴァロックを見て、二人は改めて、ヴァロックの世界とこの世界との違いを伝える必要がある、と思ったようだ。
「ヴァロック、よーく聞いてくれ。この世界では、あんな風に大空高く飛べる人間なんて一人もいないんだ。爆弾を殴って破壊して無傷な人間もね。あの爆弾一つで大勢の人間が殺せる。それをヴァロックはいとも簡単に消してしまった。そんな馬鹿げた事、俺達の常識では到底あり得ないんだ」
「ヴァロックの常識だとその程度だと思うかも知れない。でも、あの程度でも相当目立つの。だから、緊急の場合を除いて、突然ああいう事するのは止めてね?」
「ふーん、なるほどな」どうやら自分の当たり前の感覚と、この世界との常識とは相当かけ離れているらしい。二人の説明を聞いて何となくヴァロックはわかったようである。
「しっかしこの世界の人間って相当貧弱なんだな。そういや魔法も使えないんだよな? ま、確かに目立つのは良くねぇ。気をつけるわ」そしてしゃーねえなあ、と呟きながら、何処か呆れた様子で自身の頭をガシガシ掻くヴァロック。これから勇者カオルを探し出す、という目的がある以上、悪目立ちすると面倒事が増えそうだとも、思ったようである。
「でもそのおかげ……、という言い方が正しいか分からないが、貧弱なこの世界の人間達は、兵器を相当強化してきた歴史がある。昨日のロケットランチャーや、さっきのプラスチック爆弾、他に核兵器までもあるんだ。人を殺すための武器は相当進化してる」
なるほどねぇ、と、腕を組み聞いているヴァロック。前の世界の武器といえば、剣や斧、飛び道具は弓が基本だった。ついで魔法使いは、その能力を向上させるための杖等を持っていた。昨日ヴァロックが手ではたき落としていた、ロケットランチャーに変わる兵器は魔法だと思えばいいのかも知れない。魔法使いは、火属性や水属性の球を飛ばしたり、土属性なら石礫を飛ばしたり出来たからだ。そう思えば、ある意味この世界の兵器は魔法みたいなもんだな、とヴァロックなりに理解したようである。
そして前の世界の魔法使い達は、魔物を殺すための魔法を、基本は自衛のために研鑽し磨いていた。だが、この世界では、同族である人族同士が殺し合いをするために、兵器を進化させてきたらしい。魔物がいないからそうなるのは分からなくもないし、ヴァロックが元いた世界でも、人族同士がお互いのプライドや領地を巡って掛け殺し合ったりしていた。その様な事が、この世界でもあると知ったヴァロック。
「どこの世界もバカはバカなんだな」と、つい、前の世界の事を邂逅しながら、呆れたように呟いてしまう。
「そして、そういう兵器を使って、あんな感じで子どもを利用し、大勢を殺そうとする大バカ野郎がこの世界にはいる、って事なんだな」と、感情の籠もっていない語り口で話すヴァロック。
確かにヴァロックの世界でも、過去奴隷制度は存在し、人権のない扱いをされていた人々はいた。更に、隷属の腕輪というマジックアイテムで強制的に隷属契約をし、家畜のように扱ったり、慰み者にしたりする悪人もいた。しかし、子どもを兵器として利用するといった、馬鹿げた事をする輩はいなかった。
というのも、人は大きくなってから利用価値が生まれるからだ。だから成長していない小さい時に、育てもせず自爆させるという、理に適っていない愚かな事を考える者は皆無だったと言っていい。人道的観点からしても、もしそんな輩がいたするならば、それは魔物以上の悪魔だろう。
「この地域は特にそういう事が多いのよ。この地域は平和とは程遠い場所だと言って間違いないわ」
「なあ。黒いさそりっつったな? あんな小さな子に爆弾を抱えさせてた奴の集団。あんなバカ野郎ってこの世界には多いのか?」
「どうだろうな。この世界は人がとても多くて約七十億人いるんだ。例えば昨日話した日本という国や、俺やキャシーが住んでいるオーストラリアやニュージーランド、他にもアメリカやヨーロッパは、もっと平和な国だけど、ここみたいに日々人が殺される日常を過ごしている国もある。ここ中東や、アフリカや南米にね」
「そして私とネルソンは、より多くの人達にその現状を伝える、ジャーナリストという仕事をしているのよ」
「……そうか。じゃあこの世界全部がバカ野郎ばっかじゃないって事か。なら安心した」
ヴァロックが探している元勇者カオルが暮らすこの世界。もしここが、常日頃非人道的行為が行われている世界だとしたら、自分の前の世界の常識とはかけ離れている。ヴァロックそこを気にしたようだが、二人の説明を聞いて、自身の常識とは乖離しているわけではないとわかり、どこかホッとした様子のヴァロック。
「じゃあ、やっぱりあいつらは潰した方がいいんだな」そして何か決意したように呟き、自身の両拳をガチンと合わせ叩く。
「「え?」」そんなヴァロックを見て豆鉄砲を食らったような顔をする二人。
「ねえヴァロックもしかして……」「ああ。黒いさそりとやらをぶっ潰してきてやる」
「ちょっと待てヴァロック……。いや、ヴァロックならやれそうだな」
ヴァロックを止めようとしたが、これまでの彼の人外な能力を見て止めたネルソン。
黒いさそりは国際テロ組織。普段から神出鬼没で世界中でテロ活動をする厄介な存在だ。ただ、ここ中東のレバノン辺りに拠点が有る事は、周知の事実なのだが、広大な砂漠地帯の何処に、その拠点が有るのかまでは、誰も把握していない。アメリカとロシア、または軍事的繋がりでサウジアラビアや中国、北朝鮮辺りは、知っているかも知れない、という情報は、ネルソンとキャシーは知っているのだが。
「でもヴァロック。黒いさそりは今何処にいるのか皆目見当もつかないのよ。どうやって捜すの?」
「ま、俺はこれでも元勇者メンバーの一人だ。じゃあぶっ潰してくらあ」と、何か含みをもたせる言い方をしながらニヤリとするヴァロック。
そして「シロ、戻れ」とストラップを取り出し、ボン、と白銀に輝く大剣を顕現した。それに今更ながら驚く二人。
「本当、魔法みたいね」「……間違いなくヴァロックはアヴェンジャーズに一員になれるよ」
アベ……何だそりゃ? と心の中で思いながらも、とりあえず元勇者カオルに会う前の用事を片付けてやろうと意気込むヴァロック。そしてブン、とシロこと白竜の大剣を大空高く放り、そしてヴァロックのドン、と同じく上空高く飛び立った。
「よし乗るぞ」『承知した』上空500m付近でシロはスケートボードのように横たわり、その上にヴァロックが乗った。
『で、主よ。どうやって捜索するつもりで?』「昨日行ったところへ一旦飛んでくれ」
承知、どシロは返事し、砂埃を防ぐための薄い魔法膜をヴァロックの前に展開してから、ヒュン、とその方向へ飛び立った。
この物語は、
ネコと転移 ~二次元知識皆無のフリーターと、助けてくれた恩人を手助けしたいネコとの異世界物語~
https://ncode.syosetu.com/n8527ev/ のサブストーリーです。こちらも宜しくお願い致します。
また、
何故か超絶美少女に嫌われる日常
https://ncode.syosetu.com/n0302fl/ こちら高校生の純愛小説です。こちらも宜しくお願い致します。




