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十三話

「おおー! 建物が真四角だ! なんかすげぇな!」相変わらず嬉しそうなヴァロック。どうやら近代的なビルを見ての感想らしい。


「ヴァロックの話を聞いてると、前の世界って中世ヨーロッパみたいな街並みだったのかしらね」


「魔法が使えて魔物がいるんだろ? やっぱりハリーポッターワールドみたいなものなんだろう」


 ヴァロックが相変わらず目をキラキラさせながら、子どものようにあちこち興味深げに見て騒いでいるのを見て、想像してみるキャシーとネルソン。二人の想像は当たっていたりするのだが。


 そしてバスは最後の一人、大きく重そうなくまのぬいぐるみをお腹に抱えた少女を乗せたところで、運転手が運転席側とは逆にある扉を手で閉めた。元々自動だったはずなのだが、どうやら古くて壊れているようで、運転手がその都度手動で開閉しているようだ。


 運転手がドアを閉め、運転席に戻りエンジンをかけようとしたところで、突然ヴァロックが窓から飛び出しフッと消えた。「え?」「なんだ?」二人の横にいたはずのヴァロックが急に消え、驚く二人。


「……てめぇら何しようとしてた?」そしてヴァロックは、ヴァロックが乗っていたバスから約100mは離れた、ビルの影辺りに移動していた。そして、その影からバスを見ていた二人組の、黒服の男二人の腕を掴んでいたのだ。一人の男の手には、縦横正方形5cm程の、何かのスイッチが握られている。


「「!」」


 突然赤毛の大男が、自分達の腕を掴み殺気を露わにし凄んでいるのに驚き、つい手に持っていた何かのスイッチをポロリと落としてしまう男。


「お、おい!」もう一人の男が慌てて叫ぶ。それを見たヴァロックは、その5cm角程度の正方形のスイッチに、嫌な予感を感じて、それをグシャリと踏み潰した。


「てめぇら、殺気ダダ漏れで何しようとしてやがった?」ヴァロックが彼らの存在に気付いたのは、二人から急に湧き上がった尋常ではない殺気のせいだ。のんびりバスからの車窓を楽しんでいたところ、急に途轍もない殺気を感じたヴァロック。その異常さのため瞬時に反応したのだ。昨日、無作為に子どもが殺されたのを目の当たりしていた事もあって、ヴァロックは殺気に対して敏感になっていたのも理由のようである。


「この! 起爆スイッチを踏み潰しやがって!」凄むヴァロックに些か恐怖を感じながらも、黒服の男は怒りの表情で、掴まれていないもう片方の手を腰のポケットに突っ込み、そこからバタフライナイフを取り出した。そしてヴァロックの首筋めがけて斬りかかる。だが、当然そんな攻撃をものともしないヴァロックは、ひょいと器用に二人の腕を離さないままそれを避ける。そしてナイフを持っている手をパシン、と上空に蹴り上げた。「ぐあ!」手の甲に痛みを感じその場で蹲る男。そしてナイフはそのままストーンと、真っ逆さまに地面に刺さった。


「クッ! 全然腕が外れない!」もう一方の男はその攻防の隙に逃れようと、必死になってヴァロックに掴まれた腕を外そうとするが、一般男性の太腿程もあるヴァロックの太い腕に掴まれビクともしない。だが、その男は、一人がナイフを蹴り上げられ蹲っている様を見て、生半可な攻撃じゃ無理だと判断したようで、銃を腰から取り出し、パーンと一発ヴァロックに向け撃った。


 だが、


はふはいふぁほ(危ないだろ)!」頭を狙って放たれた弾は、ヴァロックが歯でガッチリ受け止めていた。なので言葉がはひふへほ調になってしまう。ヴァロックならこんな近距離でも当然避ける事は余裕で、更にそのまま受けて弾く事も可能なのだが、万が一周りの人達に当たると不味いと思い、両手が塞がっているのもあって歯で受け止めたのである。


「おい! 銃声が聞こえたぞ!」「きゃああ! もしかしてテロ?」「なんだなんだ?」


 その銃声のせいで周辺が一気に騒々しくなる。そのせいでバスの運転手も何事かと運転席から外に降りた。そして外の様子に気付いたネルソンとキャシーは顔を見合わす。急に二人の元からいなくなったヴァロックが騒動の発端じゃないか? と。そして慌てて二人はバスから降りる。


「ペッ! おい。こいつら何かしようとしてたぞ」咥えていた弾を吐き出しながら、ヴァロックがバスの停留所近くまで黒服の男二人を引きずっていく。それを見た周りの人達は、ヴァロックを中心に一斉にザザっと距離をとった。


「く、黒いさそりじゃないのか?」「そうだ! あの手の甲のさそりの入れ墨は間違いない!」「きゃああーー! やっぱりテロだわ!」


 騒がしかった周辺は一層喧騒を増す。「なんだなんだ?」周りの反応に驚いたのはヴァロック。まさか自分達が中心になって距離を取られるとは。


「ヴァロック! そいつらは多分黒いさそりだ! 自爆テロをするかもしれない!」


「あん? なんだそりゃ?」ネルソンの必死の叫びに対し、ヴァロックが不思議そうに呟いたところで、黒服の男二人はお互いを見合って頷く。そして、「「我らの神の元に!」」と揃って叫び、バッと腹に巻かれたプラスチック爆弾を披露するかのように露わにした。それから二人してポケットを弄ると、カチ、とスイッチ音が聞こえ、ドーン、と大音響が響き渡った。


 だが、


「ったく、自爆ってこういう事かよ」上空からパラパラと落ちてくる塵を見上げながら、呆れ顔で呟くヴァロック。二人の男から嫌な殺気と覚悟を感じたヴァロックは、これは自害する上周りを巻き込む気だ、とすんでのところで気づき、急遽二人を上に放り投げたのだ。そしてヴァロックの予想通り、腹に巻いていたプラスチック爆弾が上空で爆発したのである。


 あれだけ大量のプラスチック爆弾を、二人同時に爆発させたので大音響と爆風は凄まじかったが、ヴァロックが一瞬で上空100mくらいにまで放り投げたので事なきを得た。二人の遺骸は木っ端微塵になっていて、その肉片や血さえもほぼ消滅している模様。落ちてくる残骸もほぼ塵となっていた。


「「「「……」」」」そんなヴァロックの一連の行動に呆気にとられる周辺の人々。だがすぐに、ワーワーとヴァロックを中心に大騒ぎになった。


「あんたすげぇな! よくぞこの街をテロから守ってくれた!」「ねえ、どうやってあんな上空まで飛ばせたの? 凄いわね!」


 今度は一斉に大勢の人達に囲まれ、バンバン叩かれたりして戸惑うヴァロック。どうやらテロの脅威から助かった事で皆興奮していて、ヴァロックの馬鹿力はバレていない模様。そしてキャシーとネルソンも、一連の様子を見ていて安堵し、ヴァロックの元へ駆け寄ってきた。


「なあ、これどういうこった?」ネルソンとキャシーが近くに来たのを見つけたヴァロックが、未だ手荒い歓迎を受けている事に対し不思議そうにしている。


「ヴァロックはテロからここの人達を守ったのよ」


「さっきから言ってる、そのてろってのは何だ?」


「無差別に人を大量に殺す行為の事さ。さっきの二人は黒いさそり。前も話しただろ? 無差別テロ、自爆テロは彼らの十八番なんだよ」


「……なるほどな」だから、あんな殺気を放っていやがったんだな、と、ネルソンの説明を聞いて、改めて上空を見つめるヴァロック。


 そこへ、先程最後にバスに乗り込んだ、大きく重そうなくまのぬいぐるみを抱えた少女が、唖然とした表情をしながらトボトボと歩いて近寄ってきた。


「さっきの人達、死んだの? お空高く飛んでいって、爆発したみたいに見えたけど」


「……そうだな。嬢ちゃんの知り合いか?」


「知り合い、とはちょっと違う。でも、これ貰ったの」そう言って重そうに抱えたくまのぬいぐるみを見る少女。だが、傍にいたネルソンとキャシーが神妙な面持ちになる。


「ねえ。これちょっと借りていいかしら」「いいよ」大事そうに抱えていた少女だが、二人の表情を見て何かを感じ取ったのだろうか、素直にキャシーに渡した。


「え? これ、重い!」ぬいぐるみにしてはズシリと重いので、ついぬいぐるみを抱えたまま尻餅をついてしまうキャシー。そしてネルソンは、そのキャシーの様子を見てハッと気づく。そして急いでぬいぐるみの背中のファスナーを開けた。


「……思ったとおりだよキャシー」「やっぱり……か」


「どうしたんだ?」神妙な顔をしている二人に質問するヴァロック。


「このぬいぐるみの中に、爆弾が入ってるのよ」


「ばくだんって、ああやって爆発するあれか?」と、言いながら上空を指差すヴァロック。その仕草に二人は頷く。


「なんであいつらは、この子にその爆弾とやらが入ってるぬいぐるみを持たせやがったんだ?」


「この子は俺達がいたバスに乗ってきた。要するに、あの二人はこの子ごと爆発させようと企んだんだよ。そうすれば、バスの乗客を皆殺せるからね。この子を囮にしたって事さ。子どもに対しては皆警戒が甘くなる。それが狙いさ。そしてこれが、黒いさそりのやり方なんだよ」


「……何だと?」ゾワっとヴァロックの体から殺気が溢れる。「ひっ!」尋常ではない殺気に、素人である女の子や周りの人達も感じ取ってしまい、皆一斉にヴァロックに対し恐怖心を持ち怯え始めてしまった。


「こんな子どもを犠牲にしてまで、無差別に人を殺すってなあ、どういう事なんだ?」


 昨日のモハマドの子どもの件もあり、怒り心頭のヴァロック。


『主。殺気を抑えないと、周りが怯えて話が進みませぬぞ』そこで、ストラップになって小さくなったシロこと白龍の大剣が、ヴァロックに忠告した。


「……わぁったよ」辺り一帯まで溢れていた多大な殺気を何とか収めたヴァロック。周りから一気に安堵の声がそこかしこから聞こえる。


「悪かったな。どうやら嬢ちゃん、殺されそうになってたらしい」尻餅をつき未だ怯えている少女の頭を、優しく撫でるヴァロック。


「この爆弾とやらだけ、取り出せるか?」そしてネルソンへ振り返り質問する。


「え? あ、ああ。ヴァロックなら大丈夫だと思う。ただ、爆発すると周辺の人達を巻き込んでしまう」


 唐突に質問され、ネルソンは一応答えるも、何をするかまではわからない様子。そしてそれを聞いたヴァロックは、分かった、と一言答え、クマのぬいぐるみを抱えたまま、その場からドン、と一気に上空100m程までとびあがった。そしてシロを元の大きさに戻し、上空でその上にスケートボードのように乗る。それからジッパーが空いたままのクマのぬいぐるみの背中から、そーっと爆発しないよう、プラスチック爆弾を取り出した。


 そして更にプラスチック爆弾だけをそこから上空に投げ、シロを土台に同じ高さまでジャンプする。そしてヴォンという風切り音をさせながら爆弾を空中で一殴り。ゴパーン、と空中でヴァロックの拳によって、爆弾は爆発した。当然ヴァロックには一切ダメージはない。


 それから未だ空中で待機しているシロのへ再度着地するヴァロック。そして空中でシロをストラップに戻した後、一気に下まで落ちてくるヴァロック。またもドン、という大きな音をさせ同じ場所に着地した。着地した場所が少しクレーター状になっている。


「ほら。爆弾とやらは処分したぞ」確認して貰うため、クマのぬいぐるみをポイとキャシーに投げるヴァロック。「きゃあ!」慌ててキャッチするキャシーだが、先程とは違い軽くなっているので、恐る恐るジッパーの中を覗き込む。


「……確かにプラスチック爆弾は無くなってるわ。本当、ヴァロックって化物ね」手を入れ探るもプラスチック爆弾はない事に安堵しつつ、呆れるキャシー。


「化物言うな。じゃあそれ、嬢ちゃんにあげても問題ないな」そう言いながら、ヴァロックはキャシーがジッパーを止めた後のクマのぬいぐるみを受け取り、「ほら。もう大丈夫だ」と優しい微笑みと共に女の子に手渡した。


 そして、一連の様子を周りで見ていた人々は、この訳の分からない赤毛の大男の人外な行動に、皆一様に固まっていたりする。


 そんな周りにお構いなく、女の子の頭を撫でるヴァロック。そして、女の子のありがとう、という言葉を聞いたヴァロックは、とある決意をしていた。


『主。カオルは宜しいので?』それに気付いたシロはヴァロックに語りかける。


「よくねぇよ。だが、このまま放っておけるかよ」


『主の性分だと無理でしょうな』


「うるせぇ」


 シロに悪態をつくように返事しながら、ヴァロックは空を見上げていた。



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