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十一話

思いついてサクッと書きました。

でもきちんと意味がありますので、ご了承頂きたくm(_ _)m

※※※


「はあ……」


 物憂げな表情で机に頬杖を付き、ため息を着く黒髪の超絶美女。他のデスクに座っている全員、そのアンニュイな美しい表情につい見惚れてしまう。


「もう飴が割れてから一日経ったのに」そして寂しそうにシャープペンシルをデスクにトン、トンと無意味に叩いてみる。


「芸能人みたいだな」「課長って彼氏いたっけ? 俺玉砕覚悟でアタックしようかな?」「お前、それ本当にただ玉砕するだけだぞ」


 男性社員がヒソヒソと、己の妄想を滾らせながら会話している。


 一方それは女性社員も同じのようで、「ほんと綺麗ね」「お姉さまと呼びたいわあ」等々、こちらも隣のデスク同士で、妄想を膨らませて、聞こえない程度の声で会話している。


 だが、元勇者三枝薫には、それら全員の欲望の声が聞こえていたようで。


 キッと部下達の方を見やりおもむろに立ち上がる。皆一斉にドキっとしてシャキっと姿勢を正し、デスク前のパソコンを無意味にカチャカチャ叩き出した。


「くだらない事言ってないで、仕事進めなさい」小さいながらも澄んだよく通る声で一喝する薫。


 ここは薫が働くとある商社の一室。貿易課課長の薫と部下達十名がいるオフィスである。薫のデスクが一番奥の窓際に置いてあり、それを横並びにして部下十人のデスクが規則正しく5:5で設置されていた。


 薫が働くこの商社は、あらゆる商品を海外から、または海外へと輸出入する際の仲介役をしている。そして薫が課長を務めるここ貿易課は、海外との渉外担当の割当や通訳に翻訳、通関に必要な書類の作成等を担っている。


 そこへ、オフィスのドアをコン、コン、とノックして、スラッと背の高い身長180cmはありそうな、顔の整ったイケメンが入ってきた。


「また来たね」「もう何度目のアタックなんだろ」「ほんと、清水部長も懲りないねえ」


「君達、手が止まってるよ」ギロリとヒソヒソ話をする部下達を睨む、清水部長と呼ばれたイケメン。その言葉にバッとパソコンに向かう社員達。


「あ、三枝課長。ちょっといいかな? 先日の大連の荷物のインボイス(※通関に必要な明細書)なんだけど」


「増田君。清水部長に教えてあげて」「かしこまりました」指名され素早く立ち上がる増田君。


「いやちょっと待ってって! 俺は三枝課長に……」「インボイスの作成については、通関士の資格持ってる増田君に一任してますから」


「いやだから! 中国の通関はややこしいだろ? 責任者の君と二人っきりで話がしたいんだよ!」


「ややこしいからこそ、専門の通関士とお話されては? 増田君、あっちのパテーションの向こう、空いてるから」


 承知しました、と淡々と答える増田君。そして他部署とはいえ上司の清水部長の腕を掴んで、パーティションの向こう側、主にミーティングをするために使われる長机と椅子が設置されている場所へ引っ張っていく。


「いやちょっ……三枝君? おいこら! 増田! 引っ張るな!」「清水部長も懲りないですねえ」ちょっと面白そうに呟く増田君。


 そしてクスクスとあちこちで抑えきれない笑いが起こる。いつもの光景だが清水部長が薫にぞっこんなのはこの会社では有名な話だったりする。清水部長もその容姿からかなりモテる方で、今の今までフラれた事は一度もないくらいのイケメンなのだが、こと薫に関しては、一貫して落とせない。


 今まで遊びで多くの女性と付き合ってきた清水部長だったが、どうやら薫にだけは本気の模様。だが、薫は何度アタックしてもうまくいかない。飲みにさえもいけない。不思議な雰囲気を持つ超絶美女にフラれ続けるイケメン、という、女子会ではメインになりそうなゴシップ。ここの社員達は飯のタネとして、いつも話題に事欠かないとの事で、清水部長のアタックを楽しんでいたりするのであるが。


「あ、そうだ三枝課長。先日のオランダへの商品について、サンプルを送る際の選定をしたい、と営業課が言ってまして」薫の近くのデスクの男性社員が、思い出したように薫に話しかける。


「それで?」


「その際、オランダ人の渉外担当が直接当社担当者と話したいらしいのですが、通訳がいないようで。どうやら英語も苦手なんだそうで」


「……私にオファーが来てるのね」「そういう事です」


「分かったわ。担当者と日時の打ち合わせするから、内線番号教えてくれる?」未だパテーションの向こうの仮の会議室で、ギャーギャー騒いでいる清水部長を呆れた顔でチラリと見ながら、男性社員からメモを受け取った薫。


 薫はヴァロックと同じく、神様より言語理解の飴を既に食している。それはあちらの世界に行った際に必要だったからなのだが、その能力は、現在こうやって通訳の仕事として、活かされているのである。


 この様に、薫は普段OLとして仕事をこなしながら、先日の銀行強盗のような、即解決が必要だったり、難事件を解決するため、陰ながら活動している。OLは薫の影の仕事をカモフラージュするためなのだが、それでも給与は貰っているため、出来る仕事は積極的にこなしている薫だった。


 ※※※


「いやあ~、ほんっと美人ですねえ」「……どうも」


「どうですか? 今日僕は直帰なので、先方に行った帰りに一杯」「いえ、遠慮しておきます。車ですし」


「車なんぞ、代行サービス頼めばいいじゃないですか」「さっきから何度も言ってますが結構です」


 不機嫌な顔をする薫を気にする事なく、グイグイ誘ってくる宮内営業課長。既に三十路を過ぎた中年太りの、正にサラリーマンといった風体。やや脂ぎった顔は、普段カロリーの高いものばかり食べているのが伺え、不健康である事を象徴しているようだ。当然そんな成りなので独身である。


 そして社内でも評判の超絶美女三枝薫は現在二十六歳。この歳で課長職に就いている事も含め、その美貌から高嶺の花と評される薫と、二人きりで取引先に向かう事ができて、どうやらこの中年太りの宮内課長はチャンスだと思っている様子。


 このおっさん、営業としてはやり手らしいけど、私は嫌いなんだよなあ。ゴブリンみたいだし。一人勝手にベラベラ喋っている宮内課長の話に返事もせず、一人車窓から外をなんと無しに眺めながらそんな事を考えている薫。因みに二人は、会社の営業車で取引先へと向かっている。薫は運転せず助手席に座り、その横には宮内課長が運転席で未だ上機嫌に勝手に喋りながら運転している。直帰だというのは宮内課長が勝手に言っているだけで、薫は終わったら一旦会社に戻るつもりなのだが。


 だが、さっきからずっとベラベラ喋っていた宮内課長が黙ってしまった。その顔には苛立ちが見える。薫が様子のおかしい宮内課長に気がついて、どうしたんですか? と声をかけようとしたところで、宮内課長はキキー、と急ブレーキを踏んだ。


 急な事でつい前のめりになってしまう薫。ふとフロントガラス越しに前を見ると、トラックから一人の男が降りてきた。


「何なんですか?」「さっきからずっとこのトラックに煽られてたんだよ」脂ぎった顔から汗をにじませる宮内課長。嫌な予感がしているようだ。


「オウコラ! さっきからトロトロ走りやがって! おら開けろや!」バン、と営業車の運転席側ドアを蹴る男。どうやらずっとこの営業車を煽ってきていたらしく、薫は宮内課長の話を聞きたくなくて無視を決め込んでいたのが災いして、トラックの存在に気づかなかったようだ。そのトラックが無理矢理前に入り込んできたので、宮内課長は急ブレーキで衝突を避けた、という事だ。


「おらあ! 出てこいや! 俺の進行邪魔しやがって!」またもガン、と今度はボンネットを殴る男。一方宮内課長はどうしよう、どうしよう、動画撮影? この車ドライブレコーダー付いてない、警察に連絡? 等々呟きながらオロオロしている。でも、三枝課長に良いところも見せたいし。男らしいとこ見せて色々発展させたい、と邪な事も考えていたりするのだが。


「はあ」状況を把握した薫は、仕方なさそうに助手席側からドアを開け降りる。突然薫が外に出た事に驚く宮内課長に対し、トラックの男は薫を見て「ヒュー」と口笛。


「へへ。こんなえらい美人が乗ってたのかよ。そこのおっさんだけかと思ってたけどよお。おいコラ、そこのおっさんがトロトロ走るおかげで、こっちは配達遅れるかも知れねーんだ。どう落とし前つけてくれんだ? あ?」メンチをきりながら薫に凄む男。


「法定速度を守って走っていたはずですけど?」


「んだあコラ! 美人だからって調子乗ってんなよ? ……そうだ、ネエちゃんが俺のトラックに一緒に乗るってんなら、あのおっさん許してやってもいいぜ」


 美人だから調子に乗るな、の意味がさっぱり分からないが、どっちにしろイラっとしたのは違いない薫。あの世界でも山賊や盗賊がこんなだったなあ、とか、ふと懐かしく思ったりもしている。要するに、この世界の山賊風情が、煽り運転する輩って事ね。と納得していたり。


「まあ、私だし、こいつに攻撃してもいいか」「あ? 何言ってんだ? いいから俺とこっち来いや」


 そう言って馴れ馴れしく、薫の肩に腕を回そうとした瞬間、クルリとトラックの男は縦に一回転。そしてズダーンとアスファルトに背中から叩きつけられた。薫が一瞬の隙に腕を取り、背負投げをしたのだ。その背負投げだけで、トラックの男は気を失ってしまった。


「こういう奴らって、弱いくせに偉そうなのよね。そういや前の世界でも同じだったわね。本当呆れる」パン、パン、と手を叩いた後、邪魔にならないよう、トラックの元へ男を引きずっていく薫。背負いたくないのでズルズル引っ張ってます。


 一方怖じける事もなく、さもコンビニにコーヒーでも買いに行くような感じで、男を一瞬でねじ伏せてしまった薫を、車内からずっと見ていた宮内課長。「……あれは手を出しちゃいけない女だ」と怯えながら呟いたりしています。因みに一連の出来事は、スマホでちゃっかり動画撮影してました。ボンネットやドアを叩かれ、傷を追った証拠を残すためだろう。


 因みにこの場所は幸いにも左側車線。ハザードを光らせ営業車を停めていたので、然程走る車の邪魔にはなっていない模様。


「さ、行きましょうか」何事も無かったかのように営業車の助手席に乗り込む薫。それを見てビクっとなる宮内課長。


「……お強いんですね」「どうも」太っている事もあって汗をかくと暑苦しい雰囲気になる宮内課長に、少し気持ち悪さを感じながらも生返事を返す薫。


 そして宮内課長は、その後はずっと沈黙したまま、取引先から帰る際も薫を飲みに誘う事なく、薫と共にサッサと会社に戻った。


 この一連の出来事が、今後のヴァロックとの繋がりに大きな影響になるのが分かるのは、もう少し後のお話。




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