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第十話

いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m

ブックマークまでしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(_ _)m

「そろそろ遅いから寝るか」「そうね」


 ネルソンの言葉にキャシーが答える。だが、ここにはベッドらしきものは見当たらない。不思議そうな顔をするヴァロック。その様子を気にも留めず、ネルソンとキャシーは寝袋を準備した。更にネルソンは予備の寝袋を持っていたようで、それをヴァロックに手渡す。


「これを使ってくれ」


「……これは何だ?」前の世界にはなかった、長さ1m直径50cm程の畳まれた寝袋を持ち上げながら、しげしげと見つめ不思議そうに質問するヴァロック。


「ああ、寝袋知らないのか」ヴァロックの様子に気づいたネルソンは、一旦ヴァロックから寝袋を預かり、巾着袋のように縛られている紐を引っ張り、中から寝袋を取り出した。更に自分の寝袋も準備する。


「この中に入って寝るんだ」そう言いながら、自身の寝袋に潜り込む、頭だけ出してみせた。


「へえ。おもしれぇな」ついでにキャシーも寝袋に潜り込んで様子を見ていたので、二人してなんだかコミカルに見えたヴァロックは、ハハハと笑いながら、見よう見まねで自分も寝袋に入ってみた。


 外国人用という事もあってサイズは大き目。なので巨体のヴァロックでも問題なかったようで、慣れない仕草でその寝袋に潜り込むヴァロック。


「凄えなこれ。暖かいんだな。しかもふわふわしてらあ」


「基本野営のためのものだからな」嬉しそうに声を上げるヴァロックを微笑ましく見ながら、答えるネルソン。


 砂漠地帯の夜は寒い。特にここシリアでは、季節にもよるが深夜は氷点下になる事もある。地下でもそれは変わらない。だから普段ネルソンとキャシーは、地元から持ってきたこの寝袋を就寝の際使っていた。そんな環境でも、この寝袋は相当温かく、地面の硬さも気にならない。ヴァロックは感心と驚きの混じった気持ちで、心地よさそうに感触を確かめていた。


「前の世界には似たようなのなかったの?」ミノムシのような状態で、顔だけヴァロックに向けて質問するキャシー。


「こんな便利なもの、俺のいた世界じゃ発想自体なかったなあ」同じくミノムシ状態で、厳つい顔をキャシーに向け、ヴァロックは答える。


 まあでも、前の世界じゃ使えねぇかもなあ。魔物が襲ってきたら対処出来ねぇや。でもまあ、テントの中なら使えたかもな。


 ガサゴソと動きながらひとり考えるヴァロック。そして三人は、それぞれ壁際に位置取った。地球へやってきた初日ともあって、さすがに疲れたヴァロックはすぐに寝息を立てる。こうしてヴァロックが地球へやってきた初日は、目的のカオルに出会う事もままならず、しかも遠く離れたシリアで終りを迎えるのだった。


 ※※※


 ピピピピ ピピピピ


「……んだあ? 鳥か?」目をこすろうと手を顔の方に持ってこようとするが、何かに引っ掛かり出来ない。


 ピピピピ ピピピピ ピピ


 音が止んだ。不思議そうに音の方向を見ると、キャシーが寝袋から手を出し、昨日見せて貰ったスマホをいじっていた。音の正体はキャシーのスマホの目覚ましだ。だが、当然ヴァロックは目覚ましを知らない。


「その小さなすまほとやらは、そんな音も出るのか」音で目が覚めたヴァロックは、寝袋から出てきてうーん、と伸びをする。


「ああ、そうね。きっとヴァロックがいた世界じゃ、目覚ましもないでしょうし……時計って分かる?」


「なんだそりゃ?」


「……時計もない世界だったの」今更ながら信じられない、と肩を竦めるキャシー。そして二人の会話のせいか、ネルソンも目を覚ました。


 それからヴァロックは、キャシーが用意してれた朝食を食べた。昨晩キャシーとネルソンが食べていたホブスという、シリアの主食となっている直径20cmくらいの大きな丸いパンと、昨日の残りの缶詰に入ったそら豆だ。薄味だが、それでもヴァロックは文句を言わずそれを平らげ二人にお礼を言う。こんな環境なのだから、食料調達も大変だろう、そう思っていたヴァロック。それでも、そら豆の塩味が、乾燥したホブスの無味にアクセントを与えてくれたので、ヴァロックにとっては十分満足のいく食事だったようだが。


「今日行くのは首都のダマスカスってところよ」食事を終え後片付けをしながら、キャシーはヴァロックに目的地について伝えた。今日ネルソン達はシリアの中心地へ向かう予定だとの事で、それに同行する事になっていたのだ。


 それからキャシーは着替えのために、アコーディオン型の簡易パテーションを広げ、そこで身支度を始めた。それをきっかけにネルソンも、この地下室に備え付けてある簡易水場で顔を洗う。ヴァロックは着の身着のままだったので着替える事はしないが、ネルソンの後に顔は洗わせて貰おう、と思い待っていた。


「ヴァロック。この石鹸使ってくれ」「なんだこりゃ?」


「石鹸……も無かったのか」今更ながら色々常識が通じないなあ、と苦笑いするネルソン。記憶喪失と大差ないな、と心の中で思いながら。そして固形石鹸の使い方を説明する。目に入れたり飲んだりするな、と注意しながら。


「ほお。いい匂いすんなこれ……すげぇ! 汚れめっちゃ落ちるじゃねえか!」


 嬉しそうに子どもみたく騒ぐヴァロックに、着替え終わったキャシーとネルソンは、二人顔を見合わせ笑った。


 身支度を済ませ三人は地表に出る。既にキャラバン隊の二人が既にジープを用意して待ってくれていた。移動中襲われる可能性があり、武器を持てないジャーナリスト二人の警護を兼ねて、彼らが運転しダマスカスまで連れて行ってくれる。勿論、今はヴァロックがいるので、警護は必要ないのだが。


「まあ、体裁って事だ。武器を持った兵がおらず、外からダマスカスに入るというのは、相当非常識な事だからね」彼らが付き添う理由を聞いたヴァロックが、俺がいるから大丈夫だろ? と言うので、一応説明したネルソン。それでも、ヴァロックはよく分かっていない様子だったが。


 とりあえず必要なら言う通りにしよう、とヴァロックは黙って従う。この世界にはこの世界のルールが有るのだろう、と思ったからだ。そして運転席と助手席には武装したキャラバン隊の二人、その後ろにキャシーとネルソン、更に後ろの荷台にヴァロックが、荷物と共に乗り込んだ。


 ブロロン、とエンジンがかかり、ジープが走りだす。その際香るガソリンの匂い。ヴァロックはその匂いも不思議に感じたようだ。そしてそれをキッカケに、皆ターバンで顔を覆い隠した。キャラバン隊の二人は、運転しないといけないので、サングラスをして口と鼻だけターバンで覆い隠す。そして辺りを警戒しながら、ジープは道なき道を進んだ。皆に習い、ヴァロックも同じく、ターバンで顔を隠す。途端に砂埃が一斉にジープを襲う。


 昨晩ネルソン達から、この世界について沢山話を聞いたヴァロックは、この世界の人間達にはレベルという概念がない事、魔法が使えない事、魔物がいない事を改めて知った。そしてこの世界では、昨日ヴァロックが壊しまくった、人を一瞬にして大量に殺せる兵器を開発し、それを使って戦争をしている事も分かった。


 昨日の事を振り返りながら、この世界の人間は、個々の戦闘力の低さを、兵器の力で補ってんだな、とヴァロックは感じていた。


 そしてそれとはまた別に、全く戦争がない平和な国も存在し、そこはこんな荒んだ状況ではなく、余り殺される心配もなく、楽しく生活出来るような国だ、とも聞いた。


 その話の中で知ったニホンという国。ネルソンやキャシーによると、カオルという名前はおおよそニホンの人だろうとの事。元々ヴァロックはカオルに会うため、全く知らないこの世界にやってきた。とりあえず目標は出来た。そのニホンとやらに行こうとヴァロックは決めた。だが、そのためにはまず、具体的な場所と、向かうための方法を知る必要がある。


 この世界では、馬や馬車は通常の移動手段として余り使わないらしい。今乗っているクルマというものや、ヒコウキ、デンシャ、と言った、ヴァロックが聞いた事もない移動手段があるそうで、一応それらをキャシーのパソコンで見せては貰ったが、未だ想像出来ないヴァロック。


 そもそも、パソコンという、画面上で物や人が動く様を見た時にも驚いたのだ。前の世界にいた、元々この世界の人間だった青年に、すまほなるもので多少見た事はあったが、それ以上に様々な情報を得る事ができるパソコンというものに、改めて驚いたのだった。


 とにかく目標は定まった。だが、ヴァロックの顔は浮かない。


『主。何を悩んでおられるか分かりますが、まずはご自身の目的を優先すべきかと』


 既にストラップになって小さくなっているシロからの念話に、ヴァロックは答える事が出来なかった。


 ……俺はここを放置したまま、カオルに会いに行くべきなのか? 


 難しい顔をして押し黙るヴァロックを気にかけながらも、そっとしておこうと思ったキャシー。彼が何を思い悩んでいるか分からないが。そして三人は無言のまま、三時間ほどジープが走ると、舗装されたアスファルトの道路が見えてきた。


「よし。ここからは早いぞ」ネルソンがヴァロックに笑顔で話す。ターバンで顔を覆ったまま。アスファルトの道路は当然砂地を走るよりも速い。なので一気に加速するジープ。ネルソンとキャシーはどこか嬉しそうだ。それを不思議に思うヴァロック。舗装された道路の両脇は、未だ一面砂漠だ。そしてさっきまで砂地を走っていたのとは違い、アスファルトを走っているからだろう、砂埃は徐々にマシになってきた。なので顔に巻いていたターバンを外し、正面を見るヴァロック。


「おお、沢山の建物があるな。人の声も沢山聞こえるな」


「見えるの?」驚くキャシーに同乗しているキャラバン隊の二人。彼らには全く見えないが、ヴァロックの視力も当然この世界の人々とは比べ物にならないのだ。一方ネルソンはまたアベンジャーズか、と呆れた様子。そしてそれから三十分程走ると、大小様々な建物と家々が見えてきた。ここまで来ると、時折ネルソン達の車と別の車がすれ違ったり、銃を持った人々が道の側を歩いているのが見受けられた。


「ここがシリアの首都ダマスカスよ」嬉しそうにキャシーはヴァロックに話しかけた。




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