鹿角物騒録 case2 魔女集会で会いましょう
この物語は、ツイッターでたまたま見かけた #魔女集会で会いましょう に影響を受けた物語です。
過度な期待はしないでください。
また、この物語を見るときは、部屋を明るくして離れてごらんください。
今から百年ほど前。世界は第二次世界大戦真っ只中。
主戦場であったイウロパは、つい数日前までは血で血を洗う近代兵器による蹂躙戦が繰り広げられていた。
が、不思議と今は静けさを保ち、どの軍勢も息をひそめるように戦闘を止めていた。
なぜか?
突然平和の意志に目覚めたから? 違う。
国教であるイリス教教主の生誕祭が近いから? 違う。
ことはもっと切実で、どうしようもないことであった。
《黒の盟約会議》。あるいは《黒魔女の晩餐会》。
百年に一度行われる、《大魔女》《大魔導師》達の会合。
それが近づいていたからだ。
近代になりネーフィナイヴスの手によって表舞台に出てきた、《古式魔術》。第一次世界大戦=人魔大戦においては、人知れぬ闇の中で魔王すら縊り殺し、生贄としてささげたといわれる彼らは、謎多き魔術師たちであると同時に、人智を超えた異形の術を操る怪物たちである。
おまけに彼らは秘密主義。己が編み出した秘奥を、他人に知られることを何よりも嫌う。本来ならばネーフィナイヴスが行った世界に対する、古式魔術の存在暴露すら許されていないのだ。ネーフィナイヴスがそれを行ってなお無事なのは、襲い掛かってきた同僚たちを、彼女が血祭りに上げたからに他ならない。
どれほど憤ったところで、彼女の意向に歯向える大魔術師たちはいなかったというだけの話……。
とにかく、彼らは秘密主義だった。必然的に、会合の場所は秘匿されている。イウロパのどこかで行われるということが分かっているだけで、それ以外はほとんど何も知らされていないのだ。
万が一、何も知らずに戦争を続け、魔女たちの会合をその戦闘に巻き込んでしまったら……考えるだに怖ろしい。
第二次世界大戦は瞬く間に化物たちが暴れ狂う混沌のるつぼと化し、イウロパは人が住めない大地へと変貌するだろう。
代表と言えるネーフィナイヴスは、実際五十年前に国一つ滅ぼしているのだ。そんな化物連中が集う会合の邪魔をできるほど、今の人類はまだ力をつけていなかった。
だからこそ、第二次世界大戦は一時的に休戦。
会合が行われる二月二十四日が過ぎ去るまで、かれらは息をひそめて、怪物たちの饗宴が終わるのを待つほかなかった……。
…†…†…………†…†…
そんな、休戦状態であるにもかかわらず、ピリピリとした緊張感に包まれるイウロパをしり目に、割と平和な時間を過ごしていた極東の島国、日ノ本議国では……。
「う~っ……」
「お前な」
真っ黒なとんがり帽をかぶった、黒装束の一人の美少女が、畳の部屋でごろごろ転がり、半眼になった日ノ本最強といわれる不老不死の剣士に睨みつけられていた。
彼女は日ノ本初の大魔女――吉祥院弄雨。無論偽名であるが、本名を知る人間はもうこの世にいないので、もはやこちらが本名みたいな扱いになりつつある女だ。
弄雨の師匠は、かつてはありとあらゆる魔術体系を学ぶため、世界中を飛び回り、地域ごとに存在する土着魔術の収集を行っていた女で、日ノ本の戦国乱世が終わった折りに、同じように世界に飛び出し、己が剣術の最強性を証明して回っていた日ノ本最強――船坂浩はよく弄雨の師匠と旅路を共にし、昔ながらの友人としての地位を得ていたのだ。
結果として、弄雨の師匠が死んだ時、弟子として育てていた弄雨の面倒を見るよう頼まれ、今に至るわけだが……。
弄雨が成人してからもう20年たつ。親離れもとうの昔に済ませており、いまさら甘えてくるような歳でもないはず……。
「というわけで、子育てから解放され、人が折角久々にとった有給休暇を楽しんでいるというのに……。勝手に人の家に乗り込んできたあげく、一日中唸り声をあげる置物になりやがって……。何しに来たんだお前は?」
「浩君がいつまでたってもどうしたのって聞いてくれないからじゃん? 人がこんなに困っているのに……。一日ほったらかしってどういう了見よ?」
「昨日の飯をおごってやったのは誰だと思っているんだ、まったく。それに、育ての親を名前呼びするような不良娘にはちょうどいい対応だろう?」
「うわっ、年功序列とか古くさっ。カビが生えているような倫理観をふりかざすのはやめてもらえませんかね?」
「追い出されたいならそういえ馬鹿娘」
「あぁ、まって! ごめんなさい、スイマセン! 話聞いてください親父殿!」
首根っこを掴まれ、猫のようにつりさげられたことにより、ようやく戦況不利を悟ったのか、弄雨はジタバタもがきながら必死に許しをこうた。
浩はその姿にため息をついた後、
「はぁ……。で、相談はなんだ?」
「実は……父さんも、私が次の《黒の盟約会議》に呼ばれたことは知っているでしょう? それに合わせて、使い魔を捕まえたくて。どこかいい場所知りません?」
「……………」
割と厄介な問題に、思わず額を抑えた。
使い魔とは、説明が不要なほどに有名な、イウロパ魔術師たちの必須アイテムである。
生物や妖精に見えない魔術式で刻印をきざみ込み、改良。術者本人との繋がりをつなぐことによって意思疎通可能な状態にし、様々な手助けなどをしてもらう、いわば魔術師たちの相棒だ。
普通なら猫や犬などをあてがえば、万事解決。少し上級になれば、英雄の亡霊を召喚し使役する《英雄霊召喚》という大技もあるのだが……大魔女規格になるとそれだけでは問題があるのだ。
「今回はまだ経験不足ってことで見送られたけど、次回の会合には確実に参加するようにって言われたの! これはつまり、私が大魔女の中でも期待されている新星だということ! その期待に応えるためにも、使い魔はできるだけ泊が着く子を連れて行きたいの!」
「猫でも連れて行けよ。ポピュラーだろ?」
「大魔女の使い魔がその辺の猫でいいわけないって父さんも知っているでしょう! 最低でも幻獣つれていかないと、先輩方に舐められちゃう!」
「……………」
浩は否定しなかった。
世界を巡るに当たり、大魔導師や大魔女と少なくない数、揉めた経験があったが、どいつもこいつも神獣・魔獣を従えているのは当然と言わんばかりの顔をし、最悪受肉した《大悪魔》や《爵位持ち悪魔》なんてものまで従えているのだ。
斬りごたえはあったにせよ、何度も揉めたい相手ではなかった。
娘がそんな連中の会合に呼ばれたことも知っている。育ての親として、それ相応の物を用意してやりたいとも思うのだが……。
「お前も知っているだろう? 日ノ本の幻獣は……」
「うっ……妖怪」
「使い魔にしたいというのなら付き合ってやるが?」
「…………やめとく」
日ノ本にいる幻獣種というのは基本的に妖怪の類だ。
日ノ本では人権が保障されているため、雇用は可能なのだが……奴隷に近い扱いの使い魔・式鬼化は認められていなかったりする。
唯一現存する式鬼は、安条の時代の陰陽師によって行われたものであり、それ以降の式鬼化は日ノ本では違法行為だ。やった瞬間、不死者すらビビる頭おかしい日ノ本の警察が、ニッコリ笑顔とともに武装白バイで追いかけまわしてくる。
「というよりかは、昔の陰陽師って頭おかしかったのね。あんな連中使い魔にするとか気が知れないんだけど。いつ食われるかわかったもんじゃないわ!」
「言いすぎだぞ。天狗も鬼も昔から日ノ本で共存する仲間だぞ? 性格が滅茶苦茶ネジくれ曲がっているだけで、悪い奴じゃないんだよ。いや、悪い奴らだったな、うん」
「だから問題なんじゃないの!?」
そして基本妖怪とは、人をおびえさせ、怖がらせないといけないという本能を持っている。
当然のごとく、術者に対する反骨精神も旺盛で、隙あらば裏切って、術者をビビらせようとしてくるのだ。最悪術者は死に至る場合でも、かれらは遠慮なく裏切り、そして術者を殺すだろう。
――あれを笑顔でねじ伏せたあげく、自由自在に使役した安条時代の陰陽師っていうのは、みんな頭おかしかったんだろうな。
と、先祖たちが聞けば大いに頷くであろう感想を浩が抱く中、いよいよ万策尽きた弄雨は唇を尖らせながら、言う。
「じゃあどうしろっていうのよ? イウロパで捕まえてくればいい!? あそこは人権法ガバガバだから、抜け穴なんていくらでもあるし!」
「イウロパの妖精種たちも基本的には絶滅危惧種だろう? 霊種自然保護公園で管理保護されているって話だし、やったら密猟だぞ?」
「バレなきゃ犯罪じゃないんです」
「その場合は俺が親として捜査協力することになるぞ?」
「やめときます……」
日ノ本最強はだてではない。彼が敵に回った瞬間、ルウの首は切り離されることが確定する。
「まぁ、ベターな選択として……やっぱり人間がいいんじゃないか?」
「さらっと父親が人身売買勧めてきた件について!」
「バカ、孤児の保護だよ。どうせ今のイウロパじゃ、溢れ返ってんだろ?」
「あぁ……なるほどそういう」
前述したように、現在イウロパでは第二次世界大戦が勃発している。
当然のごとく戦災孤児も多く出ており、行き場のない子供たちが、戦争難民とともにイウロパ各所で飢えているという話だった。
そして、
「魔術において、生きた生命体……それも高度な自我を持つ人間を使役するのは非常に難しいことだと言われている。だからこそ、大魔女・大魔術師たちは、実際強力かどうかは別にして、人語を介する幻獣や神獣をステータスとするし、魂だけであるがゆえに呪的に縛りやすい、英雄霊を軽視する。英雄霊の方がよっぽど戦いにくいんだけどな……実際は」
「流石は世界中の化物連中を切って捨てたことがある父さんね。言葉の説得力が違うわ!」
「やめろ。若気の至りだったんだ……。とにかく、幻獣も妖精も無理な以上、手っ取り早く手に入るのは戦災孤児だ。どうせ大魔女なんて奴らは、必要なら飯を食わなくてもいいし、家なんてなくても大して困らんのだから、金なんてあっても腐らせるだけだ。適当にイウロパで孤児院でも立ち上げて、見込みありそうなガキンチョを使い魔にでもしておけ」
「そうする! ありがとうお父さん! 孤児院ってことはあっちじゃ教会がベストね! じゃぁ、早速イウロパ行って、買えそうな教会買収してくるね!」
「え? お前仮にも大魔女じゃ……」
浩のツッコミなど聞かずに、弄雨はぱちりと指を鳴らし、浩の眼前から姿を消した。
それによってようやく静かになる屋敷の中、浩は大きくため息をつき、
「本当にあれでよかったんだろうか……。まぁ、これで孫の顔が拝めると思えば……って、こんなこと考えるなんて、俺ももう歳かねえ?」
――師匠が早く孫の顔見せろっ! て俺にせっついた理由がなんとなくわかってきたわ。
と、少しだけ遠い目をしながら、戦火が燻るイウロパへと旅立った娘の無事を、心の中で祈るのだった。
…†…†…………†…†…
そこは地獄だった。
昨日までは赤い炎に舐められ、今は黒焦げの廃墟が積み上げられた地獄絵図。
理由は戦争による空襲だった。
空を飛行する帆船の群れが、輝く星空を覆い、僕らの頭の上に巨大な爆裂する鉄の塊を投げ捨てて行ったのだ。
そしてそれが、僕の故郷をたった一晩で地獄に変えた。
僕を助けるため、燃え盛る家の下敷きになった両親の死体は、もうすでに確認した。
黒焦げになった人だった何かだったけど、あれは両親だと僕にはなんとなくわかった。
こんなところで家族の絆を確かめられるなんて……思いもしなかった。そして、確かめたくなんかなかった。
わかりさえしなければ――まだ両親は生きているかもしれないなんて、現実逃避だってできたかもしれないのに。
「……………………」
とぼとぼ歩く。足元がおぼつかないけど、とにかく僕は町だった廃墟の山を歩き、歩いて、歩き続けた。
他に誰か生きている人がいないか確かめたかった。
隣のエリンお姉さんに、裏の家に住んでいたジャック。酒場の息子だったトーマスに、教会のミサでいろいろ雑談していた女の子のミーニャ。
知り合いの家を一軒一軒尋ねて回って……そして、瓦礫の下から覗く黒焦げの手や足を見て、ため息をつく。
不思議と涙は流れなかった。悲しいという気持ちは浮かばなかった。
ただ、誰かに縋り付きたかった。誰かに助けてほしかった。
この街で生き残ったのは自分一人だなんて事実……認めたくはなかった。
いやだ、いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!
こんなところで、こんな場所で、ひとり取り残されるなんて耐えられない!
両親も、友人も――誰一人としていなくなった場所に一人なんて!!
「だれでもいい、だれでもいいから……返事をして。返事をしてよっ!!」
駆け出す。どこか人がいる場所へ。昨日まであった、昨日まで近くにいてくれた、人の声を聞きたくて。
でも、だれも答えてくれない。
聞こえてくるのはぱちぱちという残り火が何かを燃やす音と、僕の足音だけ。
いまさらながら残っていた残骸が崩れ落ちる音と、わずかながらに吹く風の音。
人の声なんてものは……もう、この街から!
「ヤーレンしょのどっこいしょ! 柱を立てろよ、ヤーレンしょ! ヤーレンしょのどっこいしょ! お次は煉瓦だ、どっこいしょ!」
そんな風に走っていたら、どういうわけか軽快な歌の声が聞こえてきた……。
――嘘だ。こんなお墓みたいな場所で、歌っている人がいるわけ。
と、初めは僕も耳を疑った。
ただ、どうしてもその歌声にすがりたくて……幻聴だったとしても、誰かがいると言ってほしくて、僕は無心でその歌声が聞こえてきた方へと駆け抜けた。
そして、
「よくよく考えたら買取とかしなくても、所有者不明になった土地がこのイウロパではいくらでもあるわよね! そこに孤児院を立てれば万事解決! 素晴らしいわ、私! この他人の迷惑を顧みない無断占拠っぷり! 大魔女っぽいんじゃないかしら!?」
――大魔女ってそういうのだっけ? と将来的に首をかしげることになることなど棚上げして、僕はとうとう見つけた。
どこかの国の聞き覚えのない民謡を口ずさみながら、口笛一つで柱になる巨大な樹を生やし、その辺にある瓦礫から使えそうな煉瓦を指先一つで呼び寄せ、次々と積み上げていく変人を。
真っ黒な服に魔女のとんがり帽をかぶったその変人は、瓦礫の中から出てきた死体を見て「あら?」とだけ呟き、
「えっと、こっちのお墓ってどんなんだっけ? 日ノ本風でいい?」
その場で見たことがない柱のようなお墓を作り、その死体を埋葬してくれた。
――優しい人だ。
そう思った。
――楽しそうな人だ。
こんな地獄で歌っているから。
――僕以外の人間だ。
僕は、たった一人残されたわけじゃなかった。
それを悟った僕はようやく安心し、
「って、あれ? 生存者じゃない! どどど、どうしよう? この土地の子? まずい。無断占拠がばれちゃったら追い出される! いや、まちなさい。見たところこの子以外は死んじゃっているみたいだし、この子は孤児ということ! ならば、我が大魔女孤児院の第一号として迎え入れれば万事解決! さすが私、天才ね!」
なんて、バカなことを言い始めたその女性を少しだけ笑いながら、ゆっくりと意識を失った。
…†…†…………†…†…
そうして、時は現代にいたる。
あの燃え堕ちた街には、奇跡にように現れた教会が噂になり、神の奇跡にすがろうと難民たちが押し寄せてきた。
結局魔女の仕業と知り、人びとは一時落胆したが、大魔女が守る教会を戦争に巻き込めるわけがなく、ありとあらゆるイウロパの軍勢がこの村を戦争に巻き込まないよう戦場を移し始めたことで状況が変わった。
こうして、戦争から逃れた人々は、ここに集まり大魔女の支援のもとこの村だった場所の街をつくり、戦争が終わった後各々の無事を喜びながら故郷へと帰って行った。
だが、中にはこの町に残る人も現れ、街は教会を中心にさらに発展。
戦争が終わり平和になった世界において、この街はこう呼ばれることになった。
《魔女の住む町》=ウィッチタウンと。
やがてこの町は、魔女が守った戦争なき村として世界平和遺産に登録され、多くの観光客が訪れるようになる。
その中心にある歴史ある教会には、
…†…†…………†…†…
「神父様! またね!」
「はい。またいらっしゃい」
元気に手を振りながら、子供たちが教会を飛び出していく。
ミサに参加していた彼らの親たちは、申し訳なさそうに神父に頭を下げたが、神父は笑顔と共に気にしないで下さいと告げた。
「普通の子供より手のかかる人と同居していますから、かれらなんて文字通り可愛いもんですよ」
「こらぁ! 仮にも主に向かって失礼でしょアンタ!」
頭上から聞こえてきた声に、四十代から年を取らなくなった神父は、わずかにシワの入った顔を動かし、丸いメガネのレンズに声の主を映す。
「おや、母さん。今日は珍しく早起きですね? ミサに参加すればよかったのに」
「するわけないでしょう! 私は大魔女よ! 早起きしたのは、今夜が念願のブラックレヴェリーだからよ!」
自分を拾った時から一切歳を取らない、二十歳程の姿をした女の姿に苦笑いを浮かべた。
「まったく、あなたという人は。昔からこういった行事ごとになるとはしゃいでしまって……年相応に落ち着いたらどうです?」
「そういうあんたは、見事にまぁ立派な神父になっちゃって。どこで育て方間違えたのかしら? 魔女の使い魔って自覚はあるの?」
「気が向いたときにミサで賛美歌謳う魔女にそう言われましても……」
「歌に罪はないでしょう!」
と、とんでもないことを言いながら「とにかく、早くご飯作って!」と駄々をこねはじめる主に、神父はため息をついた。
そして、クスクスと笑うお母さん方に頭を下げ、
「では、今日のミサはここまでということで。子供よりも手のかかる主がうるさいですし」
はい、神父様。という答えを聞きながら、神父は魔女と共に教会奥にある生活スペースへと入っていった。
そして、いつものようにパンを焼き、いつものようにバターを塗る。
昨日つくり置いておいた、スープを温め、ベーコン二枚と卵を少々フライパンで焼き、最後に主婦の皆さんから分けてもらった朝の野菜と、業者に届けてもらっている牛乳を食卓へ。
その料理達に、
「代わり映えしないわね?」
「コウ爺さんも言っていましたが、長い時を生きる不老者は変わり映えしないことに」
「慣れろって、言いたいんでしょう! わかっているわよっ、そんなこと! まったく親に説教なんて、小生意気にもほどがあるんじゃない!」
「神父ですから。説教が仕事ですよ?」
「そりゃそうね! 一本取られたわ!」
感心したように手を打つ主に、クククと笑いながら中年神父は、いつものように告げるのだ。
「天にまします我らが主よ。ついでに、我が主よ。今日の糧に感謝を」
「ついでなの!?」
「うちに収入。90%が教会へのお布施」
「いただきます!」
それぞれバラバラのあいさつをしながら、食事は始まる。
「レヴェリーにはどのように行くつもりで?」
「いつものように瞬間移動でいいでしょう?」
「なら荷物はそんなに持てませんね」
「そういえば最長記録で5年なんて歳月がかかった時があったみたいね……。コンテナでも持っていく? となると、多少は空間制御が可能な箒で行った方がよさそうね」
「その会議何を話し合ったんですか?」
「百年戦争がドウタラコウタラって話し合いだったみたいよ? 今の最年長魔女は二百歳のネーフィばあちゃんだから、正確な内容とかはわかんないみたいだけど」
「記録とか残さないですもんね、あなた方は」
「なによ! 私はちゃんと魔導書にしているし!」
「自分の秘奥を他人に明かさない大魔女がそんなことしてなんになるんですか……。あ、認知症予防?」
「失礼にもほどがあるわよ、あんた!」
かつて自分が失い、そして与えられた穏やかな時間と人の声。それに内心感謝しつつ、神父は笑う。
「それで、私は何を?」
「どうせ一回は大魔女や大魔導師同士の喧嘩が勃発するみたいだから、そうなったら私を守りなさい! あんた私の」
「使い魔ですからね。了解しました」
昨日から用意していた戦装束を思い出し、神父は肩をすくめた。
「使わないことに越したことはありませんがね。大魔女同士の喧嘩なんて、私にはとてもとても」
「ウソ仰い。この日のために強くなったんでしょ? ヴァルカン祓魔師部の第三位祓魔師」
魔女狩りの専門家。異端の駆逐人。イリスの処刑執行人――そう名高い、核弾頭クラス戦闘者の一角にまでなった神父に対し、主は少し自慢げに胸を張る。
「あんたは、私の自慢の息子なんだから、もっと堂々としなさい!」
「……はい、母さん」
…†…†…………†…†…
イウロパの、とある世界平和遺産の教会には、奇妙な二人が住んでいる。
一人は魔女の秘奥によって歳を取らなくなった、名物神父。
いつもかけている、丸い眼鏡が印象的なやさしげな顔とは裏腹に――教会の密命を帯びては夜を駆け、人びとに害をなす怪物たちを駆逐する戦闘神父。
もう一人は、大魔女に数えられる魔導師の一人。
年中教会二階にある私室にてダラダラ寝て過ごしているが、気が向いたときに下の聖堂でポップ風に改良した賛美歌を歌い、街の人々に絶賛される奇妙な魔女。
教会と魔女。神父と使い魔。決して交わることのない場所に住み、称号を与えられた二人だったが、それでも人々は彼らを笑って見守っていた。
「行くわよ、バカ息子」
「ご随意に、我が母よ」
ともに夜を駆ける彼らは、とても幸せそうだったから。




