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連打王(サウザンノック)②


 男も構えを取った。大きな背を亀のように丸め、握った拳に噛みつけるぐらいにガードを上げ、腰を落とす。

 ピーカブースタイル。

 彼の王者、マイクタイソンも行った、プレッシャー溢れる構え。

 事実、そのスタイルになってから、男の体は更に大きく膨れ上がったように見えた。


「来いよ」


 ミャンマー・ラウェイとは。


 日本に於いてはビルマ拳法とも言われる、地球上で最も危険な格闘技とされるものである。

 なによりの特色は余りにも古代的なそのルールにある。

 グローブは着けず、拳に巻くのは厚縄か、バンテージのみ。そして故意ではない限りという建前はあれど、頭突きと金的攻撃の二つが認められる、過酷な競技である。

 特に、タツミ――早乙女巽(さおとめたつみ)が所属していたジムに於いては、山岳の貧村と言うこともあって皆勝ちに貪欲であり、ジムのスパーリングですら、急所攻撃が常態化している程である。

 そこに居るうちに、彼は睾丸を一つ失い、幼年期は、女のように細かった体も、折れては治りを繰り返し――。

 ミャンマーに来てから十五年経った今では、日本人を越えた筋肉と骨密度を所有するに至る。


 本来、蹴りを基礎とするムエタイの傍流であるため、必然肘や膝を多用する競技であるミャンマー・ラウェイ。

 だがしかし、早乙女巽と言う男に限り、その常識は通用しない。


「じッッッ」


 集団が殺到し、まるで不規則に、多量に、重い攻撃を放った直後。

 正面の様々な角度へ、一秒六発のジャブが放たれた。

 一つは前蹴りを放った足裏を、もう一つはローを放ったその脛を、もう一つは膝を放とうとしたその腹を――。

 足裏を殴られたやつが、まるで枯れ木のように後ろへ降り曲がったそれを見て眼を回している内に、一歩、群衆へ踏み込んだ巽の右ストレートが、顔面を撃ち抜いた。


 驚くべきはその速度である。

 ストレートもまた、一秒六発。まるでジャブと変わらない回数で、確実に正面から攻めてきた四人を仕留めた。

 この間二秒、計十二発。常人であれば眼にも止まらぬ速さである。


「俺のリーチは片腕95㎝はあるぜ。ところでお前ら、そんな俺の横を通り過ぎて後ろに回る度胸はあるのかい。

 ちょいと失礼な事を言ってしまえば、ジムの頃は誰も彼も俺とのスパーを避けて居なかったっけ」

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