連打王(サウザンノック)①
「こいつは一体、どういう事だい」
その一言の後、落胆と諦めの混ざった嘆息が成された。
背にかけていたボロボロのバッグを地面に投げた男は、目の前にたむろする多くの人間達を睨めつける。
皆、上半身に服を着ていない。目の前にたつ男を睨み返しながら、拳にバンテージを巻き付けて居る者までいた。
既にアップを終えたかのごとく、一様に汗でうっすらと皮膚を濡らしている。
「昨日は皆、快く、見送ってくれたじゃねえかよう。
パーティまで開いてくれてよう。ありゃ嘘だったのかい」
対する、ジャケットを脱いだ男は――彼らより、大きく見えた。
体格的な意味でも、優に百九十を越えているだろう。金髪に染め上げ、サイドを刈り上げた髪の毛も、威圧感を助長している。
しかし、何よりも彼を大きく――偉大く見せているのは、容姿ではない。多くを前にしても欠片も揺らがぬ精神力である。冷や汗のひとつもかかぬ、大きすぎる肝っ玉。
「当然だ」
群衆の中から、一人の男が進み出た。
彼もまた、対する男と同じく、どこか他の皆とは違った空気を纏っていた。その声音もまた、意図せずして人を引き付ける。
鷹のような眼をした、やせぎすで、褐色の肌の、男である。
「俺たちの試合が一体何によって行われているのかを考えれば、この結果は予想できた筈だ、タツミ。
快く見送った等と戯れ言を――抜かすんじゃあないッッッ!!!」
耐えきれなくなったかのような怒号であった。
集団にその気力が響き、伝わり、満ちて。皆構えを取り始めた。対するはタンクトップ一枚となった、刈り上げの男。
「ラウェイやってるやつらが、事もあろうに集団リンチかよ。
……ま、いっか。」