プロローグ
突き刺すような紅い光が、ぐるぐると脳を掻き回す様に踊っていた。
やかましいサイレンが鳴り響くなか、ジュラルミンの盾を構えた屈強な男たちが廃ビルの前に包囲網を敷く。
映画のワンシーンめいた大袈裟な光景は、れっきとした法治国家である日本とは思えない程に非日常だった。
その香りに当てられた野次馬が、パトカーの後ろに寄り集まって来て。
さらにその合間に混じるように大きなテレビカメラが回されて、その非日常を余すところなく切り取っていた。
「武器を捨てて、今すぐ投降しなさい――。
今ならまだ間に合う。取り返しのつかないことになる前に――――」
お決まりの投降勧告は、廃ビルの窓から延びてきた絶望に遮られた。
伏せろと言う間も無く、拡声器を持っていた警官の頭が血飛沫を撒き、灼熱の銃声が数秒続いた。
野次馬の悲鳴がサイレンをかきけし、波のように右往左往する中、テレビカメラ前のアナウンサーは頑としてマイクを放すこと無く、早口で広報の義務を果たし続ける――――。
「果たして誰が予想しましたでしょうかッ! 1999年! 新たなる世紀まで残すところ四ヶ月と成りましたこの八月! このような惨事が日本で起ころうとは――――!」
時は世紀末。
惨劇の舞台は、東京であった。