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超絶に影の薄い僕は、異世界で誰にも気付かれない。  作者: 竜王零式
第一部:孤高の異世界冒険譚
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断章2.聖炎の拳士



「あうっ!」


 追いすがる僧兵たちから逃れるため、角をいきおい良く曲がったエリシャは、何か大きなものにぶつかって尻もちをついた。


「大丈夫ですか?」


 困ったように手を差し伸べたのは、いかにも人の良さそうな顔をした、大柄な男。

 身なりから察するに僧侶のようだ。


「――っ!」


 跳ね起きようとして、足に激痛が走った。捻ってしまったか。このままでは走れそうにない。

 力を使えばすぐに治せるが、この大柄な僧侶に見られてしまう。


「足を痛めたのですか。本当に申し訳ない」


 僧侶は両掌に聖炎アピトルを宿し、エリシャの足を治療した。始めて見る色だった。ほとんど青みが無いが、そのかわり透明に近い――。

 霊術エレジーの気配を知らない人間には見えもしないだろう。


「はい、もう大丈夫ですよ」

「あ、ありがとう」


 エリシャが戸惑いつつ礼を述べた頃、僧兵たちが追いついてきた。


「おや。あなた方は?」


 大柄な僧侶が問うと、僧兵たちは慇懃に答える。


「これは、青炎教カピストリアの神父どのですか。わたくしどもはそこの神殿のものです。恥ずかしながら、彼女が抜け出してしまって」


「さあ、聖女さま。どうかお戻り下さい」


 笑顔で手を差し伸べてくる僧兵たちから、逃れるように大柄な僧侶の影に隠れる。


「おやおや、これはこれは」


 大柄な僧侶は困ったように両手を上げた。

 本当に人の良さそうな男だ。エリシャは彼に付け入ることにした。


「騙されないで。わたしはこの人たちの仲間じゃない。さらわれてきたの。助けて!」


「……というお話ですが、本当ですか?」

「滅相もない。我々がそんなことをするはずがないでしょう!」

「彼女は尊い御方なのです。ですが、不遜ながらまだご自覚がなく……どうかお察しください」

「ふーむ」


 大柄な僧侶はしばし考え込み、それからこう言った。


「では、ひとつ教えてください。実は弟子を探しているのです。15ほどの年頃で、なかなか器量の良い娘なのですが、どうもみなさんの神殿から気配がします。何かご存知ありませんか?」


 僧兵たちは顔を見合わせた。


「そのような娘に見覚えはありませんが……」

「わたくしどもは男所帯ですから。いや待てよ、神官長さまのお知り合いでは?」

「彼女は魔術師アルダールブだぞ。確かに美女だが、あの色気で15はなかろう」

「失礼ですが神父どの、お弟子さんは赤毛でしたか」


 大柄な僧侶は苦笑した。


「その人ではありませんね。ですが困りました……ああそうだ、しばらく聖女さまをお預かりさせて頂けませんか?」

「なんですって?」

「この年頃です。遊びたい盛りでしょう。少し気晴らしさせてやれば、お腹が空く頃には帰りたくなりますよ。もちろん、それまで私が責任を持って面倒を見ます。この街の南の教会におりますので、お迎えが必要ならどうぞ」

「いやいや、ご冗談を」

「冗談のつもりはありませんよ。聖女さまが遊び疲れるころには、あなた方も弟子の行方について、何か思い出しているかもしれませんしね」


 にっこり笑って、大柄な僧侶は言った。

 それはつまり、聖女を返してほしくば、弟子を連れてこい――と言っているのだった。


 僧兵たちはにわかに殺気立った。


「仕方がない。少々強引にいかせていただく」

「囲め、逃がすな。手加減の必要はないぞ」


 6人の僧兵が、それぞれに棍を構え、大柄な僧侶を取り囲んだ。


「やはりこうなりますか」


 大柄な僧侶は吐息し、「す」と構えをとった。

 素手である。が、軽く腰を落とし、両掌をゆらりと掲げた姿勢は、惚れ惚れするほど完成されている。

 その全身を、透明な聖炎アピトルが包んでいるのが、エリシャの目にしっかり見えた。


「神父どの、お覚悟!」


 先鋒が、鋭い突き。

 大柄な僧侶は軽くいなし、「どん!」と音を立てて顎先を突いた。

 その一撃で、先鋒は地面に崩れ落ちる。


「油断するな、なかなか〝使う〟ぞ!」


 次に、背後に居た僧兵が足元を払う。

 大柄な僧侶はくるりと身体を回し、棍の根本を太ももで受け止め、そのまま背中を当てるように体当たりした。


 どん!


 やはり強烈な音がして、僧兵は吹っ飛んだ。起き上がらない。白目を向いて気絶している。


 呆気に取られている間に、大柄な僧侶は舞うように、拳で、掌打しょうていで、ひじで、そしてどうやったのか分からぬ技で、あっというまに僧兵たちを叩き伏せてしまった。


 すべて一撃だった。


(この人……!)


 戦慄していると、僧侶は地面に両膝をついて、エリシャと視線を合わせた。


「失礼しました。お怪我はありませんか?」

「ううん、わたしは別に……」

「それは良かった。私はアルフレッドと申します。聖女さまのお名前は、何とおっしゃいますか?」


 アルフレッド、と名乗った僧侶は、あくまで人の良さそうな笑みで言った。

 今しがた僧兵たちをなぎ倒した豪傑だとは、とても思えない、いたって柔和な笑みだった。



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